デビュー日の正式決定
「淳くん、そろそろ」
「あ、はい。それじゃあ、あの。失礼します」
瀬能と社長にお辞儀をしてから、淳は槇と第一会議室に向かう。
今日はレッスンではなく、打ち合わせ。
「じゃあ簡単に」
「はい」
「Blossomが優勝して、来年からIGには出場できなくなりました。と、いうわけで十月の東京ジャポニーズゲームショー及びeスポーツ世界大会にて、Frenzyのデビュー日の告知を行うことが決定いたしました」
「は――」
ちょっとなに言ってるのかわかりませんね。
あまりにも意味のわからないことを言われて、淳も数秒反応ができなかった。
なんだ、デビュー日の告知って。
「そ、そんなことするんですか?」
「シルエットだけを先に公開します。東京ジャポニーズゲームショー及びeスポーツ世界大会の最終日にBlossomがゲスト出演するのですが、その時に今年末に春日芸能事務所からBlossomの次世代としてデビューする……と、具体的なデビュー日が告知される、ということですね。改めましてデビュー日は冬。十二月十三日、日曜日にリーダーである淳くんの情報がオープン。十二月二十日、日曜日に松竹梅春くんの情報がオープン。十二月二十七日、日曜日IG冬の陣最終日に石動くんの情報がオープン。Frenzyのデビュー日が十二月二十七日ということと、初ライブが十二月三十一日大晦日に正式決定いたしました」
「正式決定ですか」
「はい。もうこれは変更なしです。デビューポスターやCDの出荷準備も、ほぼ完了。徹底的に情報規制が行われているのである程度の噂は放置して構いません。少なくとも松田くんのことは想像がつかないでしょうから」
それはそうだ。
リアルのアイドルとVtuberが一緒のアイドルグループになるとは思うまい。
デビュー日が決まったのがなんとも感慨深いというか、急に緊張感が増す。
「と、というか……冬の陣最終日にデビューって……」
「もちろん優勝グループが霞まないように、情報が出されるのは決勝戦前ということです。流れとしてはリーダーである淳くんが『春日芸能事務所新グループのリーダー』として最初の一人目、と大々的に発表されます。発表されるのは春日芸能事務所公式SNS。その後、中央区ショッピングモールのモニターに広告が出ます。グッズの受注が開始。えー、淳くんの情報がオープンになってから、コメットプロダクションの方からオンラインショップが開設され、そちらで春日芸能事務所アイドルグッズも販売が開始されます」
「え!? Blossomですか!?」
「え? ええ」
「ゆ、URLを……」
「もう一度言いますね? 淳くんの情報開示が出るのが十二月十三日。十二時にSNSで情報が出ます。コメットプロダクション公式オンラインショップがオープンするのが十三時からですね。Blossom、Frenzyのグッズもそこから購入できます。販売されるグッズは以前サンプルをお渡ししたものですね。もちろん公式オンラインショップなのでオリジナルグッズも販売されます」
「ひゃっほうー!」
Blossomの新グッズ!
しかも今までにないオリジナル。
そのオリジナルグッズのサンプルはありますか、と聞くが笑顔で「話を戻しますね」と修正されてしまった。
さすがFrenzyの専属マネージャー。
淳の扱いがわかってきている。
「こちらの情報も情報開示されるまでは表で話さないでくださいね」
「……はぁい」
「当日は特になにもすることはないのですが、SNSでデビューについて触れてくださると幸いですね。SNSアカウントはお持ちですよね?」
「はい。あります。ええと、このアカウントなのですが」
「拝見しますね。……うん、こちらのアカウントで大丈夫ですね。事前予約は事故が起こりやすいので、前日にしておいてください。また、その時には残り二人のメンバーについても特に触れずに『お楽しみに』ぐらいにとどめておいてください」
「わ、わかりました」
それにしてもFrenzyの存在の情報が出るのがまさかの東京ジャポニーズゲームショー。
その最終日に告知として『十二月十三日、そのヴェールを脱ぐ!』のような形で出るという。
煽り文句は『伝説を残したBlossom。次の伝説が幕を開けようとしている――』というのだからハードルが爆上がりだ。
いや、淳はあくまでもリーダー。
Vtuberアイドルの松田とカリスマの塊のような石動を御する位置。
頑張ってもらうのはあくまでもこの二人であり、淳は接着剤や今のような事務処理が担当。
「もちろんリーダーとして最初に情報が出るので、相当食いつかれるかと思いますが『情報開示をお待ちください』で突き通してください。対応は今までと同じで構いません」
「わかりました」
「レッスンも九月から減ります。デビューに向けて収録が格段に増えますので、スケジュールをよくよくご確認よろしくお願いします。主にMVですね。これまでの撮影の倍の数のMV撮影が入ってきます。また、ワイチューブの公式チャンネルにあげる用の特番も九月の半ばから撮影が入りますので、もしかしたら学校は休んでいただくことになるかもしれませんね。大丈夫ですか? 星光騎士団の方も、淳くんがリーダーなのですよね?」
「そうですね……」
だが、淳はとうに覚悟を決めている。
「でも、綾城先輩のように全力で、どちらのグループのリーダーとしても務めると決めているので。やります」
「わかりました。よろしくお願いします」






