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ソング・バッファー・オンライン~新人アイドルの日常~  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
6章

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コメプロのマネさん


「それじゃあ会議室をお借りいたしますね」

「ええ。あとはよろしくお願いします」

「お疲れ様です。おや?」

「え? あ、初めまして……?」


 事務所を出ようとしたら、入れ替わりで入って来たのは左耳の後ろに団子に結ってなお腰まで届くストレートな長い銀髪、青眼の高身長イケメン。

 非常に穏やかな微笑みで挨拶した淳に対しても「はい、初めまして」と返してきた。


「これは――アイドル……!?」

「違いますよ」


 社長、まるで淳の発言を先読みしたかのような高速ツッコミ。

 アイドルタレントさんではないらしい。

 こんなにイケメン高身長なのに。


瀬能黎(せのうれい)と申します。この度春日芸能事務所の派生、Vtuber事務所コメットプロダクションの営業及び人事兼マネージャーを務めております」

「すみませんね、瀬能さん。すぐに人を補充する予定ですから、もう少しお待ちください」

「はい。でも本当に……早めにお願いします。タレント管理が本当に……本当にキツイです……全員キャラが濃すぎです」

「ですよね」


 ああ、Vtuber事務所の人か、と納得。

 松田が「コメプロになってから体制がめっちゃ変わった」と言っていたが、まさか営業と人事とマネージャーが兼任とは。

 正直事務所の方も人手が圧倒的に足りていない。

 かなり近未来的な自動化がなされているが、なかなか社長のお眼鏡に適う人がいないようだ。

 この人はそんな社長の目に適ったらしい。

 もしかして顔面偏差値とか関係あるのだろうか?


「人員募集はしてるんですけどねぇ〜。来年の四方学校にそれぞれ募集かけてみますかぁ。画像編集部門も作りたいんですけど、今の状態だとしんどいですよねー」

「この人自身がアイドルやれそうなのに、違うんですね」

「美人でしょう? 瀬能くん。……死ぬほど音痴なんですよ。運動神経はいいんですけれどね」

「えへへ」

「そ、そうなんですかあ……」


 それは致命的かぁ、とこの話は終了した。


「まあ、それ以外にも機材に影響出しちゃうので機械から離れたお仕事しかお任せできないんですよ」

「機材に影響?」

「霊障がね、ものすごく出てしまうんです。俺、霊感が強くて」

「霊………………霊障? 霊感が……え?」


 霊感が強いと霊障が引き起こるの?

 ちょっと思いもよらない返答が来た。

 思わず社長と瀬能の顔を交互に見てしまう。


「仕事もそれで続かなくて。春日さんに誘ってもらって助かりました。ですが、さすがにこの仕事量はきついですよ」

「大変ですよね、霊力が強すぎると」

「本当に」

「霊感が強いと……機材に影響が出るんですか……」

「そうですよ。ちょっと強めの人なら時々霊障が起こる程度ですが、瀬能さんは強すぎるんですよね。霊感だけなら僕より強いです」

「へ、へえ……?」

「霊感がない人だと、ちょっと想像つきづらいですよね。えーと、普通の人の静電気が、俺の場合は電動マッサージ器レベル10ぐらいある感じでしょうか」

「瀬能さん、わかりづらいですよ」

「おやあ?」


 確かにわかりづらい。

 ただ、常人よりも強いなにかしらというのはやはりいいことばかりではないのだろう。


「社長より霊感が強い、というのは意外といいますか……」

「霊力そのものは春日くんの方があるんですけどね」

「霊感はその名の通り霊力を感じる能力なので、受信力が強いんですよ。そのせいで僕でも感じ取れないような弱い存在にまでつきまとわれてしまうんです。どんなに無視しても、向こうが気づいてしまうんですよね。『この人には気づいてもらえる』って。それで勘違いした“それら”が自分たちを救って、って彼に縋ってくる。そういう感じといえば、彼の体質の大変さがわかるでしょうか」

「「うわあ……」」


 それはめちゃくちゃやばい。

 アイドルでいうところのリアコ――リアルガチ恋勢――が大量ストーカーになって押し寄せてくるみたいな感じなんだろう。

 言葉にすると地獄すぎる。


「一晴もかなり霊感が強い方で、夏の心霊番組は軒並みNGなんですが……」

「聞いたことがあります。そういえば一晴先輩の心霊番組NGは、機材トラブルや本物の霊障で同行スタッフさんが五人、除霊送りになったとかなんとか……」

「同行スタッフさんが除霊送りになったのは本当にただの噂ですけれど、一晴が出るとエンターテイメントとして成り立たなくなるんですよね」


 ガチな霊障が起こるし、ガチのヤバいなんかが出るので。

 エンターテイメントとして楽しめる状態じゃなくなる。

 当然瀬能も同じで、なにも笑えない楽しめない。

 

「霊障ってそんなにすごいんですか」

「機械に異物が入り込むのですぐ壊れるんだそうですよ。もう少し素材があれば霊障を引き起こさない機材を作ることもできるって柘榴が言ってました。ただ、そこまでする労力が必要って言われると、まあ……っていう感じですね」

「ざくろ……?」

「技術顧問の彼です。ほら、先日センターホールの時に、僕の車椅子を押してくれていた」

「ああ、あのイケメンの……。あの人もアイドルって言われても納得のかっこよさですよね」

「ああ、まあ……ね。でも柘榴は……ちょっと炎上まっしぐらなので」


 スッと目を背けられる。

 淳も苳茉の家族への毒舌ぶりを思い出して視線を逸らした。

 説得力しかない。



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