うちの先輩可愛い
「クッッッッソ生意気な一年が入ってきたみたいじゃないか……!」
「「「ヒィィイ……!?」」」
「はあーーー? どこがぁ? 真実と現実しか話してないじゃ~ん。珀先輩に決闘の申し込みなんて、今ある好感度を下げて電流喰らってセンブリ茶飲むっていう損しかないことなんだよぉ? それでもやるつもりぃ? そもそも珀先輩のプロデビューに、なんでお前が喧嘩売るのぉ? 関係ないにもほどがあるって~」
「それに『魔王軍』現魔王――朝科旭はかの有名な『CROWN』がいる『秋野直芸能事務所』に所属が決まっていますよね? 卒業後はあのCROWNがいる事務所からアイドルデビューするっていうのに、なにが不満なんですか?」
「え? え、こ、こわ……なんで朝科先輩が秋野直芸能事務所に受かってるって知ってんのお前……」
「え? 東雲学院芸能科HPに載ってるじゃないですか」
「え? 載ってんの!?」
と、スマホを取り出してなんか検索し出す麻野。
ドルオタには常識なのだが、在校してると逆にHPなんて見ないもんなのかもしれない。
少しすると「本当だ……」と呟く声が聞こえた。
「くらうん、って有名なの?」
「……嘘でしょ、魁星……?」
「待ってください、魁星、CROWNは自分でも知っている不動のトップアイドル。仮にも芸能科に通ってアイドルをやろうという者が名前も知らないのはまずいレベルのアイドルですよ」
「え? そ、そんなに有名なの?」
「も、もしかして『Ri☆Three』なら聞いたことあるか、も?」
「あ、それなら聞いたことある……え? Ri☆Threeのこと?」
現代のアイドルの原型とも言うべきアイドル『Ri☆Three』。
現役高校生が学生とアイドルの二つのわらじを上手く使いこなし、なにより学生生活を諦めた単独で稼ぐ前世代の姿から”グループ”で活動する、”歌って踊る”など新しい形を築いた。
数年前に”出自不明”の星科新を加えて”四人組グループ”として再誕。
Ri☆Threeは実質解散して『CROWN』という新グループが結成された。
その年の『アイドルグランプリ』夏の陣と冬の陣、次年の夏の陣を連破して殿堂入り。
その名に恥じぬ、トップアイドルグループ。
「それがCROWN! そりゃ、当時の『IG』は参加アイドルグループも今より少ないし、というかアイドルグループ自体今より少なかったけれど、そもそも今のアイドルの形の原型とも言うべき元祖現代アイドルといえばRi☆ThreeでありCROWN! もしCROWNが今参加しても、実力は間違いなくシード級! 歌唱力は元より四人の身体能力の高さは現役そのもの! 知らない方が失礼だよ、魁星~~~!」
「そうなの!? ごめんなさいね!?」
心の底から信じられないという表情をして魁星の肩を揺さぶるドルオタ。
半泣きの淳にそれはもう申し訳なさそう。
ただ、そんなトップアイドルの所属する事務所に所属が決まっているというのなら、やはり麻野が綾城に決闘を申し込むのは不可解。
綾城が所属したのは、まだまだ発展途上な春日芸能事務所。
知名度で言えば秋野直芸能事務所の方が上だ。
しかも、明確に秋野直芸能事務所はアイドルが強いとわかる事務所。
「と、とにかく! 綾城珀先輩に決闘を申し込む! そう伝えておけ!」
「綾城先輩、『今月と来月の定期ライブは仕事で出られないからごめんね』って返事来てる」
「はああああああああ!?」
後藤がスマホのチャット欄を見せる。
淳がドルオタ解説をやっている間に星光騎士団のグループチャットで報告していてくれたらしい。
貼りつくように後藤のスマホを見て、麻野は「ぐぎぎぎぎぎーーーー!!」と頭を抱える。
「珀先輩の代わりに僕が受けて立とうかぁ? 歌もダンスも、お前なんかに負けないもん」
「え? 美桜ちゃん」
「はあー? 上等だ! 綾城先輩の代わりにテメェをギッタギッタにしてやらぁ!!」
「いまから特上センブリ茶取り寄せておいてあげるから、苦味耐性つけておくんだね!」
「美桜ちゃん」
「もー、なに、ごとちゃん!」
「美桜ちゃん、今月の定期ライブは声優のライブに行くから休むって言ってた」
「あ」
宇月美桜、可憐な容姿だが声優オタクの一面があり、卒業後は声優志望。
今月末は都内某所で人気ゲームのイベントがあったはず。
「え――当たったんですか? 蔵梨柚子が出演する『フィリシティー・カラー2』の声優イベント……!」
「え……!? ナッシー、まさか抽選応募してたの……!?」
「蔵梨柚子といえば神野栄治の後輩で仲良しで有名なので……実は地味に追ってます」
事実『SBO』で栄治ことエイナと一緒にプレイしていた。
栄治ことエイナ、一晴ことハルナにSBOの遊び方を教えたりサポートしているという。
一緒に遊んだ時フレンド登録しているがゲーマ――として有名な蔵梨はSBO以外のゲームも遊んでいるため、今のところ再会はしていない。
「えーーーー! お前柚子様好きなのぉ!? 早く言ってよぉ! そうだよぉ、柚子様が出るイベントだから定期ライブと日付被ったけどイベントに行くことにしてたのぉー! あのねあのね、星光騎士団に入ったのも柚子様がいたからなんだよね~。学年的に入れ違いだったけど……学校見学で柚子様のライブとアテレコを見て絶対僕もアイドル声優になるんだ~! って思ったの!」
これぞまさに手の平返しか。
瞳をキラキラさせた宇月に見上げられてドルオタは胸がギュウウウウ、と苦しくなる。
圧倒的アイドルスマイル。
今まで悪態と蔑んだ目で見下ろされてばかりだったので、満面の笑顔で見上げられたらギャップで射抜かれたような威力。
しかも、すぐにはしゃいでしまったことに気がつき、唇を尖らせ顔を背けて「あ、ま、まあ、だから栄治先輩に憧れるナッシーの気持ちがわからないでもないっていう話で、お前の実力不足はこれからもバシバシ指摘していくけどね!」とツンデレの追加爆撃。
こんなに可愛い先輩だと思わず、真顔で後藤を見上げてしまう。
後藤もなにか察したのだろう、「うちの美桜ちゃんは可愛いだろう?」と前髪でわかりづらいのにそう言っているのが伝わってくる。
可愛い。うちの先輩可愛い。