ゲーマー、布教を狙う
「そういえばジュンジュン、スマホ代理のやつって言ってるけど修理してるの?」
「いや、中の基盤も破損していたみたいで、データも戻ってこない可能性が高いって。バックアップ取っててよかったけど、バックアップの取れないデータ復活とか含めて見てもらってる。新しい機種の取り寄せも一週間かかるって言われたし」
「えぐーい……」
「そうなんだよ。えぐいんだよ」
宇月に「え? じゃあ新機種買ったの?」と聞かれたので「はい」と頷く。
なかなかにバッテリーも保たなくなってきていたので、ちょうどいいと思い最新の機種を予約した。
「だって発売日が一週間後って言われて……それなら最新のやつを発売日に買おうかなって……。ついでにデータが修復されたらそのまま移行できたら最高。まあ、難しいみたいなのでデータは半ば諦めています。連絡先や写真のデータはブラウザのバックアップに入っているし。問題はアプリに入っているユーザー情報なんですよ……。神野栄治最新情報を追っているモデルニュースアプリがっ」
「あ、ああ……そんなのあるんだぁ……?」
「そうですよ、代理スマホにインストールするわけにもいかないですからブラウザからSNSにアクセスして調べるしかできなくて」
「なんか色々大変なんだなぁ」
「ドルオタならではのような気がしますけれど」
「スマホってそんなに必要ですか? PCがあれば事足りません?」
とか言い出すのはスマホ触らない代表鏡音円。
対するドルオタ、PCはあるけれど家にしかない。
「タブレットはないんですか?」
「あるけど不便だよ?」
「いえいえ、タブレットの方が便利ですよ。あれはでっかいスマホなので」
などと言い出し、淳にタブレットの使い方を色々と教え始める根っからの配信者。
それをふんふんと聞いてから「え! やってみる!」と大変に乗り気になる淳。
「ナッシーのああいう年下からのアドバイスにもノリノリで聞き入れるところすごいよねぇ。麻野とかできなさそう」
「ああ、結構難しい人には難しいよね」
などとほのぼの見守る三年生二人。
周と柳の脳内にも先日のハゲた町議が浮かんでは消える。
結局町議は『不祥事必殺入院の術』で現在入院中。
いや、実際ネットで大炎上の誹謗中傷が飛び交っていると、心身もストレスで悪くはなるだろうけれど。
ただそれにしては、『だったら最初からやらなければいいのに』となる。
そんな簡単なことも想像できないくらいに、視野が狭くなっているのなら仕方ない。
なお、警察に捕まった苳茉の家族たちはSNSで顔がモロに出ていたため、特定班と呼ばれる者たちに本命も住所も出身校まで事細かに晒されてしまった。
夏の陣が終わって間もないのに、本戦に出場しているアイドルたちを私欲でつき合わせようとしたことや、星光騎士団の淳と宇月への暴行シーンがしっかり拡散されたがために『警察署から出てきたら同じ目に遭わせる』という過激な声がちらほら。
星光騎士団としてはしっかり『トラブルが大きくなるのは好ましくないので、定期ライブに来て星光騎士団の応援をしてくれる方が嬉しい』ニュアンスを発信し続けている。
普通のファンにはそれが浸透しているものの、他者を叩きたいというファンとは異なる層には旨みが多すぎる大義名分。
当然そういう、星光騎士団のファンとは関係ない攻撃的な層には届かない。
だからこそ警察も“拘束”というよりは事実上“保護”の状態だろう。
淳たちはノータッチだがお昼の情報番組は面白おかしくこの話を取り上げ、町議叩きに余念がない。
さすがに一般人なので、町議ほど触れられることはないにしてもSNSを見ない層にも今回のことは知れ渡っており、苳茉の家族はこの町に住める状態ではなくなりつつある。
逆に苳茉は『あんな横暴な家族に虐げられてきたアイドル』として同情が集中しており、仕事の依頼がどんどん舞い込んでいるらしい。
いいのか悪いのか。
ちなみに、被害者である淳と宇月もインタビューが殺到しているが学院側で出演料を跳ね上げているため断念するところが多いと言われた。
苳茉も同じく出演料を跳ね上げているが、よほど興味があるのかそれでも引き下がらないところが多いという。
まあ、やはり実績が違うので淳と宇月の方は他の生徒の出演料よりも0が一桁多いのだが。
「タブレットなら最新式のアールパッド18がおすすめです。これ結構すごくて、PCで遊べるゲームの一部が遊べるんです。ストバトもPCより少し画質は劣るんですけど、遊べます」
「VRが苦手な人も遊べるんだね」
「そうなんです。あ、さっきの話に戻るんですけど」
「『SBO歌姫&歌い手グランプリ』?」
「はい。今回の『SBO歌姫&歌い手グランプリ』、最近『ライデン』に入ってきた鶉ナツメが出るんです」
「うずらナツメ、くん?」
こくり、と頷く淳。
ライデン、というのは日本のeスポーツチームの一つ。
鏡音が所属しているチームで、さまざまなジャンルのゲームに対応したチームに分かれて数多の大会に出場している。
どのチームが、というよりはそのジャンルのゲームに特化したチームが複数所属している、というマンモスチーム。
ライデンと同じ構造のeスポーツチームは他に『白雷Charge』、『オルトロス』があり、これらの大手チームのどこかの班チームに所属できれば一人前のプロゲーマーと名乗れる、なんて言われている。






