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ソング・バッファー・オンライン~新人アイドルの日常~  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
6章

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上級国民様(4)


「まあ、俺はただの時間稼ぎでしかないって気づかない時点で脳みそもお察しって感じだけどなァ?」

「は?」


 顔がいい人間のニチャア……と言わんばかりの邪悪がそのまま笑顔として顔に出てるのは、なんとも。

 いや、言いたいことはあるけれど飲み込む。

 なんか怖いので。

 だがその言葉通り、技術顧問の人と話している間に警備員の増員が間に合った。

 イベントなので当然、外にも会場の中にも多くの警備員が配置されている。

 その中の大多数が駆けつけたのだから、とても女三人で暴れたところでどうにもならない数だ。

 さすがの三人も三十人近い大人数の警備員を見て、顰めっ面のまま固まる。


「お三方は傷害の現行犯で逮捕しますね。警備員は私人逮捕が可能なので」

「は、はあ!?」

「あたしらが悪いことしたって言いたいわけぇ!?」

「実際負傷者が出ていますので、あなた方は立派な犯罪者ですよ」

「あ――あたしらが逮捕されたら! 東雲の芸能科に通う苳茉がアイドル続けられなくなるよ!」


 その言葉を聞いた瞬間、足や腕やらの痛みが怒りで掻き消えた。

 こんなに誰かに対して怒りを感じたことがないとすら思えるほど。

 この三人、自分の家族を――血の繋がっている彼を盾にした。

 自分たちが助かればそれでいいと。

 あの子はどうなろうとどうでもいいのだと。


「あなたたち……っ」

「苳茉くん? ああ、苳茉葵(ふきまあおい)くんです? 彼は(なお)くんのところの事務所に引き取られることになっているので、なにも問題ないですね。直くん自身がお母様という犯罪歴のある身内をお持ちなので、そういうことには誰よりも寛容なので。まあ、直くんのところで厳しければウチで拾いますし? もちろん、苳茉くん自身が望めば、ですけれど。本人に犯歴があるわけではないのですから、別に問題ありませんねぇ。脅しにもならないことを、なにを高らかに叫んでいるのか。面白い人たちですね」


 ふふふ、と微笑んで心の底から彼女らを『面白い』と言っている。

 そんな社長を見たら、心底「ああ、あの人からすると今回のことも些細なことなんだな」と思い知った。

 実際常識的に考えるとだいぶヤベェ人たちなので、一般常識に照らし合わせて客観的に見れば『面白い』のかもしれない。

 自分に害がなければ、確かに“見せ物”として面白いんだろう。

 残念ながら淳も宇月も被害を受けた立場なので、春日社長のように笑って『面白い』とは言えない。


「ふ――ふざけんな!」

「あたしらを笑いものにしようってのか!? ざけんなよ、このクソガキがよぉ!」

「人に笑われるようなことをしているという自覚がおありだからではありませんか? 笑われたくないのなら、笑われないよう自制すればいいのに。なんでできないんですか? 人に迷惑をかけずに生きられるのに、なんでそういう生き方をしないんですか?」

「はあ? あんたなに言ってんの?」

「うるせーんだよ! ガキが! 関係ねーだろー! どいつもこいつも……説教とかウゼェんだよ!」

「なるほど、思考放棄ですか。あなたたちみたいな人、僕嫌いなんですよね。思考という人類に許された機能を活用もせず、ただ生きているだけなんて家畜以下ではないですか」


 ねえ? と語りかける、その姿。

 息を呑むほどに、爽やかで。

 彼らには無駄だろう、お説教。


「彗、馬鹿相手にあまり無駄な話をするな。自分中心の思考停止は本能と自己中で活動しているんだから、対話なんてできるわけないだろう? 家畜の方がまだ、人間の役に立つ。あそこまで育ったら矯正も難しいから一生他人の迷惑になりながら、自分自身を顧みて成長することもなく、思考停止で明日のことも考えないまま息吸って無駄に飯を食って余計な酸素使って生きるんじゃねぇ? この世界の余分なものすぎだよなぁ」


 怒涛の嫌味。

 技術顧問の人、あまりにも毒舌。

 だが言い回しが難解すぎて、苳茉の家族三人は頭にハテナマークを浮かべている。

 本当に、人間知性に差がありすぎると会話が成り立たないのだ。


「まあ、そうですね。じゃあ、警備員の皆さん。捕まえて引き渡してください。――あとは警察の方で“正しく処理”していただきますので」


 ゾッとした。

 相変わらずこういう時は人間の上位存在という感じがする。

 これは淳だけなのかもしれないけれど。


「で……その床で丸くなっている人は?」

「あ、えーーーと……」

「まあ、ソレはいいでしょう。宇月くんと淳はこのまま病院に行ってきてください。些細な怪我でも、あなたたちは全身が売り物なのですから」

「あ、は、はい」

「あ、お金は出すので大丈夫ですよー。魁星の分も僕が出すので。今日はゆっくりと休んでくださいねー」


 え、っと目が丸くなる淳と宇月。

 魁星が病院に行ったのは午前。

 そして、別に社長へ報告はしていないはずだ。

 それとも意識が戻った魁星が、自分から事務所に連絡したのだろうか?

 あまりそういうタイプには見えないのだが。


「あ、そこの床の人。逃げないでくださいねー?」

「ひぃっ!?」


 淳と宇月が控え室に戻ろうかと顔を見合わせた時、床に丸まっていた町議が音もなく這いずって逃げようとしていた。

 春日社長がそれにぶすりと釘を刺す。

 この人もかなりあちこち汚れていたり、禿げた頭に血が滲んだりしているのだが。


「自分に権力があると勘違いしているお馬鹿さんにはお説教です。それで改まらないようなら、どんな手を使ってでも引き摺り下ろすので――僕の話はちゃんと聞いて反省してくださいね? 阿久津くん?」

「あ……あ……」



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