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ソング・バッファー・オンライン~新人アイドルの日常~  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
6章

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世の中理不尽なこともある


 しどろもどろのスタッフに、笑顔で引く宇月。

 だが、これもだいぶ水面下で冷えた。

 出演者たち側の水面下の冷えが、スタッフにも伝わっているのだろう。

 明らかに顔色が悪くなった。


「あ、本当に気にしないでくださいねぇ? 公営の時ってこういうこと多いんでぇ。僕らも慣れてますからー」

「はい。できることなら協力いたしますので、色々ご相談くださるとこちらとしても助かります」

「あ……ありがとうございます……!」


 宇月と淳がにこり、と微笑みながらそう言うと、スタッフさんがだいぶ緊張の取れた表情になる。

 こういう末端のスタッフさんを責めてもなにもならないし、もしこの人が偉い立場に出世した時に星光騎士団を贔屓してくれるかもしれない。

 なにより市などが主催のイベントは総じて渋いものだ。

 市民の税金を無駄遣いできないという大義名分のもと、無料の労力を強要されがち。

 しかも、一部の公務員は本当に本気で『俺は選ばれた人間』だと思っている。

 そういう人間は自分よりも役職が低い人間はもちろん、公務員以外の人間は搾取して当然、自分たちに仕えている奴隷かなにか、言葉を交わす価値もないと思っているのだ。

 冗談だと思うが、本当にそういう人間は――いる。

 どうしたらそんな傲慢な思想になるのかわからないが、四方峰町の市役所員や局員にそんな輩がいるとはあまり思いたくない。

 ともかくそんな人種がいると、現場はそのようなシビアな状況になる。

 どうせイベント会社は市の委託で、しかも渋られて渋られて、減らされた予算でやっているのだ。

 さらに渋られて出演することになった演者よりも、挟み撃ちで大変だろう。

 可哀想にと思う反面、ある程度知名度アップに注力すべきだと割り切るしかない。

 そもそも、市営の時の報酬の渋さは承知の上。

 件の人種も報酬をケチりにケチって出るセリフは「知名度に繋がるだろう」である。

 なら、とことん利用するしかない。

 本当はよくないことではある。

 報酬はちゃんと受け取らなければ、後輩のためにならない。

 ただ今回は西雲学園との対決ということで、東雲学院の教師陣が謎のやる気満々。

 まあやるだけやろう、という感じだ。


「他に質問は……」

「はい」


 スタッフが気を取り直して質問すると、手を挙げたのは西雲学園側。

 Lethal(リーサル)利花那月(りはななつき)

 ハイスペックエリート学生アイドルと名高い彼がなにを質問するのだろうと、変な興味を持って前のめりで見てしまう。


「さすがに勝者報酬が一週間のポスター掲載というのは馬鹿にしていると思うのですが、他にないのですか?」


 言ったああああああああ!

 東雲側だけでなく、RE・CrazyR(リ・クレイジーアール)と春歌のメンバーも、なんなら同じLethal(リーサル)のメンバー二人も驚愕の表情。

 なんてどストレートに言ってしまうんだこの人は。無敵か?


「仮にも我々Lethal(リーサル)はIG夏の陣で準優勝という成績を納めたんですが? 東雲の星光騎士団も五位。昨年は準優勝のグループです。そんな我々を通常よりも低賃金で呼び出し、勝者報酬が一週間のポスター掲載などと馬鹿にしていると取られても仕方ないと思います」

「え、えと……そ、それは……わ、私の方ではどうすることもできないと言いますか……」

「では誰に言えばいいんですか? 責任者の方を連れてきていただいていいですか?」

「え、えええと……」


 強すぎないか、この人。

 ちょっとあまりにもドストレートで口許が変に引き攣って笑いそうになってしまう。

 ここまで思っていることを言える人、一人いるとだいぶ助かるが末端に言っても仕方ないだろうに。


「星光騎士団の皆さんが言ってくださるかと思ったのですが、そういうスタンスのようですし」

「あー、まあね。うちはそうね。この人に言っても仕方ないしねぇ」

「なら、上の人間を連れて来させるべきでは?」

「あーーー……まあ、それもいいかもだけどね〜。でもこの人ただのイベント会社のスタッフさんだしねぇ。イベント会社の上の人連れてきても報酬関係は市の広報部でもどうしょうもないからねぇ」

「そ……………………そうなんですか」

「あ、知らない?」


 宇月が言うとずっと目を逸らされる。

 ああ、そのあたり知らなかったのか。


「なにさんだっけ? 言ってることはわかるけど、問い合わせるところ間違ってるから本当に報酬交渉するなら学園側か事務所を通して直接市の広報部と経理部にお問い合わせした方がいいよぉ。どっちかって言うと事務所通した方が強いかなぁ。それでもまあ煙に巻かれると思うよぉ。マジでなんとかしたいならうちにえぐい口利きできる面子が何人かいるから相談しなぁ?」

「宇月先輩、それはちょっとえげつないことになりますから……周が」

「絶対嫌なんですけど」

「えー? クオーが嫌ならごたちゃんちのおばあ様にお願いしようかなぁ」

「人一人の人生が終わるからやめてあげて……?」


 終わるのか、人一人の人生が。

 後藤の必死な形相に、柳と鏡音が不安そうな表情になっている。

 まあ、実際後藤の祖母が動いたらそうなるだろうし宇月ならできてしまうのが怖い。


「じゃあナッシーのところの事務所社長にお願いしようかぁ?」

「待ってください……! あの人が動くと人一人の人生が終わるとかそういうレベルではなくて町が消えます……!」

「町消えるの!?」

「消える」

「そんなレベルでヤバい人だっけ……!?」

「ちょっとすでに手を入れてる人なので……!」


 全力で止める淳。

 あの人なら市議全員金で動かして町ごと潰しかねない。

 本気で。



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