思うところはあるけれど
半笑いでそう言う宇月。
鏡音も察して「そうですね」と頷くけれど、まあ……お察しだろう。
別にその年齢でアイドルを続けていることを、悪いことだとは思わない。
ただ“出戻り”が微妙に、思うところを発してしまうというか。
むしろその年齢までアイドルを貫いているところはプロだな、と尊敬する。
ただ“出戻り”の人に関して思うところがあるだけで。
リーダーの真雪さんという人は本当にすごいアイドルだな、とは思うけれど。
それ以上は触れないでおこう、という空気になる程度には、微妙なラインである。
「では春歌というグループは?」
「こちらは六人組。五人が西雲学園の国際学科で、一人が芸能科に通う韓国人グループ。三年前結成で一年生一人、二年生二人三年生二人。日本語の他に英語、韓国語、中国語など複数言語がペラペラ。身長も全員180センチ超え。ダンスも一糸乱れぬ統一感。ラップからシャウトからしっとり系まであらゆる曲調をつかいこなす。多少の日本語たどたどしいところが出ても『可愛い』と呼ばれ、今回の夏の陣で初戦Blossomに当たらなければシード枠確実だったと言われているよ」
「本戦三日目初手Blossomはさすがに可哀想……」
「まあ……うん……そうですね。運も実力のうちというか」
魁星が同情するレベルの不運。
だが、それほどの高スペックアイドル、Blossomよりも早くにIG殿堂入りしそうなものだがそうでもないらしい。
そのあたりは単純に“知名度”。
日本や中国などのアジア圏全般で活動しやすいようなグループ名にしたが、逆にそれで埋もれてしまった。
またファン層がやはり、若い女性中心の春歌に対してBlossomは『時代劇王子』鶴城一晴を子役から応援している年配の層から男性向け雑誌中心に活動しているモデル神野栄治、新しい価値観――アイドルでも恋人を公言する綾城珀と、夢を諦めない漢気溢れる某有名漫画を彷彿とさせる名前の甘夏拳志郎など老若男女に幅広いファン層を持つ。
これが決定的な差となった。
音楽性は世界に通用するという共通点。
パフォーマンスも各々の個性が光るBlossomと、統一感を徹底した春歌と好みが分かれるところ。
ならばやはり、ファン層の幅広さが勝利する。
Blossomも元々海外展開を視野に入れたメンバーなので、アジア圏進出もそろそろだろうか。
そうなればますます、差は広がる。
春歌の強みが、Blossomに呑まれるのも時間の問題。
「あとやっぱりシンプルに日本人応援したくなるしねぇ。僕たちの場合“先輩”っていう堂々とした私情もあるしぃ。やっぱBlossomを応援したくなるよねぇ」
「ですよねぇー」
そして“西雲学園のアイドル”であることに変わりはないので、今回のイベントに呼ばれた、と。
柳が「なんか外国人のアイドルの人怖いなぁ」と言う隣で鏡音は「そう? ゲームで暴言吐くのはどこの国の人も同じだから、オレはあまりそう思わないけど……。言葉がわかるかわからないかの違いでしょう?」と言う。
ゲーマー、マジで寛容である。
寛容というか、その年齢で悪意に慣れすぎてはいないか?
「で、東雲学院芸能科からはいつもの三グループね。魔王軍と勇士隊と星光騎士団。他のグループに任せてもいいかと思ったけれど、東雲学院芸能科の“顔”として出るなら魔王軍、勇士隊、星光騎士団だよねぇ」
「ですねぇ」
それにつけ加えるのなら、学生セミプロとしてIG常連の――プロアイドルと渡り合える知名度と実力、場数経験は三大大手グループのみだ。
東雲学院側としても因縁のある四方峰四校の一角との戦いには全戦力で挑んでも足りない。
今回のイベントの話が来た時、ほとんどの先生たちが「三グループだけ? それなら東雲学院芸能科の最高戦力だな」「三グループだけなのか? 全グループでもいいんだぞこっちは」「出る以上全力でぶちのめせ!」というだいぶ殺意の高い言い方をされた。
先生たち殺意高すぎない?
魁星と後藤がだいぶ困惑気味に「そんなこと言われたんですか?」「先生たちどうしてそんなに西雲学園を敵視しているの?」と宇月に聞いてしまうぐらいにはいつもの優しい先生たちの面影がない。
「まあ、先生たちには先生たちなりのなにかがあるんじゃないの? 僕知らなーい。まあ、お仕事としてやるんだから真面目にやるけどねぇ」
「そうですね」
触れないでおこう。
なんか怖いし。
「星光騎士団の皆さん、こちら当日の台本になります。十分後にリハーサルとなるので、ステージの方にお願いします」
「はあい」
ちなみに前日に台本が配られるのは割と普通。
当日に台本が配られる現場もある。
一週間前に台本が配られることもなくはないが、そういう時はだいたい前日当日に変更があったりするので当てにはできない。
むしろ、前日当日はもう台本の変更がきかないので「アドリブでお願いします」が出たりする。
世のイベントとはそういうものだ。
「流れとしてはクイズ、パフォーマンス、クイズ、パフォーマンスって感じの繰り返しですね。まあ、事前に言われていた通りですけど……勇士隊への無茶振り多くありません?」
「まあ、勇士隊ってそういうキャラづけっていうか、なんでもやってくれるから……いや、できちゃう?」
「な、なるほど……?」






