RE・CrazyRと春歌
つまり、ASINAという男に関しては『触るな危険』というやつだ。
謎は謎なまま。
わざわざ触れることもない。
そういう『非公開』の設定なのだから、それを尊重すればいい。
彼らは彼らの用意された控室に行ったわけだが、柳としては「あの人たち全員が西雲学園の人ではないんですよね? それなのに東西勝負に来るんですか?」という疑問があるようだ。
「確か奥谷さんも西雲学園芸能科出身だったはずだよぉ。西雲学園大学部に通ってるって聞いたことあるなぁ」
「ぐ……じゃあ立派な西雲学園の人なんですね……」
「RE・CrazyRと春歌は一人しか西雲学園芸能科の生徒がいないはずだけれど……まあ、どちらも知名度を伸ばしたい状況のはずだから参加しているんじゃないかな? 知名度を上げたいのはどこも同じだと思うし」
「まあ……そういう仕事をしているんだからそうですよね」
「そうだよぉ〜。ナギーとドカてんは最初から個人名の方が有名かもしれないけれど、普通にデビューしているアイドルってまずグループ名で売るかるねぇ」
と、宇月に言われてわかりやすく「あ、そうか」のような顔をする柳と鏡音。
子役から名優として知られていた柳と自力で配信者を続けてプロゲーマーになった二人にとっては、アイドルグループというシステムがまだよくわからないのかもしれない。
「あの、じゃあ……音無先輩」
「はいはい?」
「RE・CrazyRと春歌というグループはどんなグループなのですか? RE・CrazyRというのはなんか物騒なイメージで、春歌というのは花鳥風月のような和風なイメージなのですが」
「あー。ね。そうだよね、そんなイメージだよね。……でも結構違うんだよね」
「え、そうなんですか?」
魁星には「え、ジュンジュン東雲学院以外の学生アイドルも詳しいの?」という微妙な表情。
そういうわけではないが、夏の陣の時に対戦相手の情報は集めておいた。
もちろん数が多いので最低限だけれど。
「RE・CrazyR、通常『リクレ』はスタートが『|Red Crazy 8《レッドクレイジーエイト》』という八人組グループだったって。結成は八年前で、一人、二人と一年ごとに脱退して、五人に減った時に『Crazy R』というグループ名に改名した。それが五年前。でもそこからさらに三人脱退して、事務所意向で二人増えて、一人減った。はい、現在何人でしょうか? 魁星、響くん、鏡音、わかるかな?」
「「「えっ!?」」」
突然の算数。
硬直する三人。
笑顔の淳とニコリと微笑む周。
生暖かい眼差しになる三年。
汗だくになる三人は、顔を見合わせてから自分たちの指を使いながら計算を行う。
「すみません、問題、もう一回いいでしょうか?」
「いいよ」
まあ、突然算数問題にされるとは思わないだろう。
もう一度最初から説明してあげた結果、三人で指を折り曲げたり伸ばしたりしながら「よ、四人……!」と指を突き出す魁星。
「正解! ちなみに増えた二人のうち一人というのは初期に辞めたメンバーだったから、RE・CrazyRというグループ名に改名したんだって」
「れ、歴史があるグループなんですね」
「まあ、そうだね」
とても優しい言い方をすると歴史あるグループ。
というよりも、『アイドルグループ売り』というものの強みをこれでもかと活かしているグループとも言える。
ある意味、東雲学院芸能科アイドルグループ並みに入れ替わりが激しいにも関わらず、未だ残っているのだから。
そして最新加入した二人のうち一人が西雲学園芸能科のアイドル。
「今のメンバーは初期から残っているリーダーの真雪真夏さんと、出戻りの黒星星さんと、一つ前加入の宮城滝さんと、西雲学園芸能科の氷河瑛くん。氷河くんは二年生。つまり俺たちと同い年ね」
「若いね。八年前から活動している人たちとだと年齢差あるんじゃない?」
「最年長のリーダー真雪さんが今二十九歳だそうですから、十二歳差かな、今」
「え……えーと……黒星さんって何歳?」
「……三十二歳ですね」
「へ、へー……すごいね」
あの宇月が若干感情を殺した目をしながら感想を述べる。
言わんとしていることはわかるが、淳も生暖かい笑顔を浮かべるしかない。
アイドル寿命は二十代半ば。
そもそも|Red Crazy 8《レッドクレイジーエイト》という前進は『CRYWN』の前進である『Ri☆Three』がデビューして、人気を博したことを真似して結成しデビューしたレベルの古参。
そのレベルの古参アイドルはほとんど残っておらず、その年齢のアイドルは俳優に転向しているか、社会人として芸能界とは関係のない仕事をしているか、芸能関係者として裏方に回っている。
それでも前線で活動を続けているのは普通にすごいこと。
それはそれとして三十代で見限ったはずのグループに戻ってくる根性やばい。
もちろん思ってても口にはしないけれど。
「なんかそんなに年齢差があると……どんな話したらいいのかわからないですよね……」
「ゲームの話をすれば年齢差とか気にならないですよ」
「あー、ドカてんのeスポーツチームは年齢差すごいんだっけ?」
「そうですね。上は五十代、一番下は自分ですけど……やっぱり経験からくる話はすごく参考になります。同じチームに先生がいる感じでしょうか」
「なるほどねー。アイドルのグループもそんな感じだといいけどねー」






