アイドルグループ、Lethal
「それじゃあ全員揃ったし、センターホールへ行こうか」
「「はぁい……」」
「まあまあ。宿題免除、その代わりに実力テストで済むとの話なんですから、そんなに身構えなくていいですよ。二人とも忙しいし、夏の陣で好成績を収めることができましたしね」
周がにこやかに声をかける。
が、学力に自信のない三人が顔を真っ青にして俯く。
結局、周が先生に確認したところによると柳と鏡音の宿題は夏休み明けの実力テストで免除となっていた。
なぜそのことを周たちに言わなかったのかと言われれば、完璧に忘れていたかららしい。
残り数日の夏休み。
今思い出すことになるとは思わず、柳と鏡音は絶望感に満ちた眼差しで外を眺めたり天井を仰ぎ見たりしている。
どんまいである。
「おーい、センターホールに着いたぞー」
「ありがとうございます、凛咲先生」
「あ、来た来た〜。こっちだよ〜」
「お疲れ様です、宇月先輩、後藤先輩」
搬入口に到着して、ミニバンから降りる。
近くで待っていたくれた宇月と後藤と合流して、裏口からステージの方に向かう。
途中スタッフに「星光騎士団の皆さんはこちらの控え室をお使いください」と促された部屋の鍵付きロッカーに衣装一式をしまった。
鍵はリーダーとなった淳が預かることに。
かなり責任を感じる。
「お疲れ様でーす」
「お疲れ様です、Lethalの皆様はこちらの控え室をご利用ください」
「ありがとうございますー!」
ビクッと肩を跳ねさせる。
星光騎士団メンバー全員でつい、廊下の方を見てしまう。
夏の陣で最後に戦った相手、Lethal。
三人組のアイドル。
リーダー、奥谷真継と、西雲学園のハイスペックエリート利花那月と、誕生日含めてすべての情報が非公開のASINA。
利花が最年少らしい、ということ以外はよく知らないが三人とも高身長の美青年。
リーダー奥谷の爽やかな通る声。
「なんか複雑ですね」
「複雑だけど別に突っかかる必要ないからねー。今回はシンプルに仕事の相手としていつも通りにやるよぉ。ね、ナッシー」
「あ、はい! そうですね。すみません」
「なんでジュンジュン謝るの?」
「いや……」
今のは淳がみんなに言うことだった。
それを宇月に言わせてしまったので謝ったのだ。
魁星はわからなかったらしいけれど。
リーダーは淳になっているのだから、リーダーとしてグループを導くなり指導する立場。
宇月がいると、やはりどうしても無意識に頼ってしまうのだろう。
気を引き締めねば、と頬を軽く叩く。
「利花くんって僕らと同学年だっけ?」
「確か?」
「調べておきました。利花那月さん、西雲学園芸能科三年生。偏差値は79。身長178センチ、体重71キロ、好きな食べ物はプリンとマシュマロ。苦手な食べ物は皮つき生トマト。趣味は釣りで特技は魚を捌くこと。Lethal結成時は十五歳で加入。バライティ中心に地上波番組に出演して知名度をじわじわ上げてきたそうです」
「うぉ〜……さすがドルオタ……。他の二人については?」
「リーダーの奥谷直継さん、西雲学園芸能科OB。バイリンガルで日本語、英語、フランス語の三カ国後がペラペラ。身長182センチ、体重78キロ、好きな食べ物はパスタ全般。苦手な食べ物は納豆。趣味はパスタ食べ歩きとパスタ作り。特技はワインのテイスティングで資格もあり。水泳で鍛えた通る声が人気。実はオリンピック出場経験あり」
やば……と宇月と魁星が呟く。
わかる。奥谷氏、完全に上流階級のスペックと経歴である。
そしてASINA。
「全部非公開ですね。とりあえず日本人らしい、としか」
「ああ、たまにそういうキャラでデビューする人いるよね。ミステリアス担当みたいな」
「ですねー」
「そうなんだぁ? でもどっかしらから情報出ますよねえ?」
「そうだね。噂の域を出ない話は色々出てきたけど……どれも眉唾って感じだった。結構徹底的に情報規制されてるかな」
「へー」
アイドル全盛期……戦国時代とも言われるこの時代。
アイドルのすべてのプロフィールを非公開にして、ミステリアスさを出すことでファンに考察させて興味を抱かせる手法でデビューしているアイドルはいないわけではない。
だが人間として生きている以上、なにも情報がない人間などいるはずもなかった。
今までのその手のアイドルは『特定班』と呼ばれるネットで他人の私情を調べることに情熱を傾ける変態に暴かれていったが、ASINAはそんな彼らもお手上げと言わんばかりに情報が出ない。
それはそれでキモいね、と顔を顰める宇月に眉を下げる。
実は春日社長に釘を刺されているのだ。
『あのLethalというグループのASINAという青年とは、最低限の関わりにしておきなさいね』――と。
(社長がああいう言い方をするということは、多分……)
なにがとは言われなかったが、おそらくは『不思議案件』関係者なのだろう。
神様や、宗教……それに関連するなにかの。
それならばネットに情報が出回っていないのも頷ける。
岩動の生まれ育った場所は、関西の山奥。
人里も離れ、ネットはおろか電気もない。
時代錯誤な集落があり、そこでただ神を崇めて生活している。
本当にそんな場所があるのか、と思うが、あるのだそうだ。
関西というのも驚いたが、社長曰く「北海道や東北、九州にもそういう集落がありますよ。一応日本政府の庇護下ですけど、そういう場所は私有地なんですよね」らしい。
さらりと怖い話を聞いた気がする。






