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ソング・バッファー・オンライン~新人アイドルの日常~  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
6章

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東西アイドル対決に向けて


「明日ですよ? はあーーー。まあ、いいです。説明するので今度こそちゃんと脳みその記録にとどめておいてください? 明日ですからね?」

「は、はい」

「…………」

 

 周が腰に手を当てて、魁星に顔を近づけつつ小さな子どもを叱るように言い聞かせる姿になんとも言えない顔になってしまう。

 四方峰町アイドルフェス。

 四方峰町は西と東に芸能科がある。

 学生セミプロとして有名なのは東雲学院芸能科。

 だが、アイドルという職種に限らず学生で芸能活動をすでに行なっている“プロ”が通っているのは西雲学園の芸能科。

 そもそも西雲学園は芸能科以外にも普通科や国際学科がある。

 偏差値も高く、小学部から大学部まで定期試験さえパスすればエスカレーター式に進学ができるのだ。

 同じ私立でもだいぶ違う。

 そしてその西雲学園のアイドルは現在三人。

 町としては去年から爆発的に知名度の上がった東雲学院芸能科セミプロアイドルと、西雲学園のプロアイドルを“使って”より町を活性化させたい。

 そこで考えたのが『四方峰町アイドルフェス』。

 中央区のセンターホールで東西のアイドル対決を行う。

 東雲学院芸能科からは三大大手グループ。

 西雲学園からは『RE・CrazyR(リ・クレイジーアール)』と『Lethal(リーサル)』と『春歌(しゅんか)』が登場。

 さらに司会進行に有名事務所『EDEN(エデン) Project(プロジェクト)』から絶賛売り出し中のイケメン実力派俳優江花陽翔(えはなはると)が参加予定。

 

「あれ、Lethal(リーサル)……って」

「そうですよ、我々が夏の陣で敗北した相手です。Lethal(リーサル)のメンバー、利花那月(りはななつき)さんは西雲学園の芸能科アイドルです。本当に興味ないですね、あなたは」

「す、すみません」

 

 ついに敬語で謝った。

 というか、『RE・CrazyR(リ・クレイジーアール)』と『Lethal(リーサル)』と『春歌』は普通にIG夏の陣に出場していたグループだ。

 Lethal(リーサル)以外がBブロックで、星光騎士団とは当たらなかっただけで。

 

「でも対決って夏の陣みたいな?」

「かなりバライティに富んだ勝負内容になるそうです。今決まっているのはパンチングマシーンとランニングクイズと罰ゲームクイズ、とのことです」

「ク、クイズ……!?」

 

 魁星があまりにも苦手な分野。

 顔が一瞬で青ざめる。

 もしかして、魁星の記憶に残していなかった理由はクイズか?

 

「別に魁星が無理にクイズに参加する必要ないよ? パンチングマシーン勝負もあるし」

「そ、そうか……」

「むしろ俺や周にクイズ系を任せて、肉体系は魁星が担当してくれるといいかなぁって思ってたんだけど」

「やるやる!」

「そんな感じでゲームをやりつつ、合間合間に各グループがパフォーマンスを行う、感じですね。リハーサルがこのあとあるんですけど大丈夫ですか?」

「え? 今から? ……え!? 今からぁ!?」

 

 まあ、今の今まで忘れていたのだからそこにも思い至るわけがないか。

 淳たちが荷物――衣装や小物を荷造りしていたのだから察してもよさそうなものだが。

 

「一年生たちが来たらミニバスに乗って行くよ。とりあえず衣装とか音源は俺たちが用意したから、スマホだけ持ってくれば大丈夫」

「う……あ、ありがとう」

「一応お仕事として受注しているのだから、しっかりしてください。お給料をいただいているんですよ」

「う……は、はい」

 

 周のど正論ど説教。

 魁星、事務所に仮所属してからあの曲者二人とグループを結成して、本当に心身ともにくたくたになっている。

 リーダーになった以上考えることが多い他、レッスンも過酷。

 星光騎士団の方のレッスンや個人に来る仕事、授業、部活もあるので頭がぐるぐるになる。

 わかる。

 淳も慣れるまではそうだった。

 

「お疲れ様でーす。あれ? なんで花房先輩正座してるんですか?」

「お疲れ様です。……花房先輩、なにかしたんですか?」

「このあとリハーサル移動だと言うのも忘れていたんですよ。収録じゃないというのに……。わかっているんですけどね、最近事務所に仮所属したから忙しいのでしょうけれど」

「アー。事務所の方のレッスンキツそうですもんね〜」

「そ、それもあるんだけど……ちや! 色々! 守秘義務で言えないんだけど、まあ、あの! それだけじゃなくて……!」

 

 わかる。

 思わずこくりと頷いてしまう淳。

 あの癖強外国人二人と一緒にレッスンを重ねるのは、相当に大変だろう。

 二人とも自由人すぎて、魁星の苦労が目に浮かぶ。

 

「どちらにしても先輩たちはすでに会場入りしているので我々もセンターホールに向かいましょう。リハーサルはパフォーマンスとゲームの流れですから、すぐに終わると思いますよ」

「え? 先輩たちは先に行ってるんですか?」

「三年生たちは夏の陣が終わったあとすぐに自由登校になるんだよね。まあ、一応今はまだ夏休み期間中だから、あまり関係ないんだけれど」

「へー……うちの学校夏休みの宿題とかもないですもんね」

「「ん?」」

「え?」

 

 首を横に傾ける淳と周。

 夏休みの宿題が、ない?

 いや、ないことないぞ。普通にある。

 

「ちょっと一年生の先生に聞いておきますね」

「「えっ!?」」

「忘れているかもしれませんが、自分と淳は『学力向上委員会役員』ですからね?」

「「あっ」」

 

 一瞬で顔色を悪くする一年二人。

 宿題がないなんて絶対におかしいので、学力向上委員の先輩たちはしっかりとチェックします。

 もしかしたらなにか手違いがあって宿題を受け取れていないかもしれないので。



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