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ソング・バッファー・オンライン~新人アイドルの日常~  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
6章

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二年目夏の陣、最終日(8)


 そんなしっかり営業を見せつけられて開始したAブロック準決勝戦。

 お相手は有名どころの一角、Dancing(ダンシング) Link(リンク) Production(プロダクション)の『Lethal(リーサル)』というグループ。

 ダンプロといえば『applause(アプローズ)』が有名だが、Lethal(リーサル)は活動開始四年目。

 バンド系アイドルのapplause(アプローズ)と違い、お笑い路線の優等生型アイドルというイメージなのがLethal(リーサル)だ。

 全員関西地方出身で、ボケとツッコミに溢れたトークと統一感のあるパフォーマンスがどんどん好感度を引き上げている。

 もしもBlossom(ブロッサム)に勝利するのならLethal(リーサル)だろう、という呼び声も高い強敵。

 ここで星光騎士団がLethal(リーサル)を下せばBlossom(ブロッサム)も楽だろうな、という声すらある。

 星光騎士団は後攻。

 今まで先攻ばかりだったので、少し珍しい。

 後攻有利とも言われる中先攻で勝ち抜いてきたので、後攻には違和感。

 というよりも、初めての後攻で魁星と一年生二人は疲労も相まってソワソワとしている。


「なんか緊張の度合いがやばいんですけどぉ……」

「わかる」

「待っている時の緊張感独特ですよね」


 そんな話をしていると、相手のパフォーマンスが終わる。

 進行役の鳴海が「次は星光騎士団! さあ、次はどんなパフォーマンスでくるのでしょうね」と地味にハードルを上げてきた。


「星光騎士団だよー! さあ! 最初の曲は――」


 宇月が元気よくステージに上がる。

 騎士団らしく、仰々しくしてもよいのだろうがリーダーである宇月が元気可愛い系なので今年の星光騎士団の路線はそれに近い。

 毎年リーダーごとに色が出るのが、学生セミプロの魅力と言っても過言ではないだろう。


「〜〜〜♪」


 だから最近時々考える。

 来年――いや、この夏の陣が終わったら、星光騎士団のリーダーは淳に譲渡されるのだ。

 淳はどんな星光騎士団にすればいいのだろう?

 Frenzy(フレンジー)のリーダーとして、どう差別化していくべきなのだろう?

 それを考えた時、あまり意識しなくてもいいのかなと思ってしまう。

 だって星光騎士団には星光騎士団のメンバーの色があり、Frenzy(フレンジー)にはFrenzy(フレンジー)メンバーの色がある。

 特にFrenzy(フレンジー)の色は、最初から春日社長の思い描いていたように染まっているはず。

 リーダーは無理に色をつける必要はなく、彼らが彼らの色という個性を活かせる場になるよう整えるだけでいいのではないだろうか。

 彼らがやりたいことを後押しできるように、彼らがアイドルとして一番輝けるようなリーダーになれれば自分は満足だ。

 ただ、星光騎士団に関してはちょっとだけ――思い入れが違う。

 大好きで憧れている神野栄治が“騎士”としての意識を持つきっかけになったアイドルグループ。

 このグループがあったから神野栄治は騎士になったし、淳と智子を救う騎士(ヒーロー)になってくれた。

 だから淳もそこは意識しようかな、と思う。


「――ありがとうございました! 星光騎士団のパフォーマンスでした」

「それでは集計に移りたいと思います!」


 アナウンサーと鳴海がパフォーマンス終了の宣言ののち、投票開始を呼びかける。

 これでまずはAブロック準決勝が終わる。

 勝てれば『Aブロック決勝戦』だ。

 Aブロックの決勝戦を勝てば最終決戦。

 Bブロックの決勝を勝ち抜いたグループとの、優勝決定戦を行う。

 ただ、ここを勝てば来年のシード枠をゲットできるため、できればここは勝っておきたい。


「つっかれた……暑いし……!」

「水分補給しておきなー」

「これのあとは次Aブロック決勝戦?」

「そうー。Aブロック準決勝のあと、Bブロック準決勝。で、Bブロック準決勝勝った方がAブロック勝者と戦う優勝決定戦」

「なんかもうよくわからないけどとりあえず歌って踊ればいいんですよね」

「うん……まあ……それはそうなんだけど……ブサーだいぶキてるね。顔はともかく目がヤバいよ。それステージに戻る時まで直しておいてね……?」

「うぃっす……」


 本当だ、去年よりもちょっとイッちゃってる目になっている。

 まだ体力がない方がおとなしくてよかったかもしれない。

 半端に体力がついたせいでだいぶ怖いことに。


『さあ! 投票の結果が出ました! Bブロック決勝に進み、優勝決定戦に挑むチャンスを掴むのはどちらのグループか――!』


 ステージの方でマイクを通したアナウンサーの声が響く。

 普通に考えれば事務所の力がかなり関係してくるが、IG夏の陣の最大出資者は春日芸能事務所の春日社長。

 そして春日の意向でIGは一般のお客さんの投票に重きを置いている。

 そうでなければ意味がない。

 もちろん、秋野直芸能事務所という主催の関係者の意向も汲まれるけれど。

 それで結果が大きく左右されるわけではない。

 影響が出るとしたら、双方の投票結果が拮抗している時だろう。

 知名度は間違いなく、星光騎士団の方がある。

 が、今年の星光騎士団と去年の星光騎士団は違う。

 相手は三年ほど前から活動しており、人気が上がり続けているアイドルだ。

 どちらが勝っても不思議ではない勝負。

 まさに、拮抗している。


「あとはお祈りするしかないよねぇ」

「美桜ちゃん」


 宇月が珍しく、弱気になって目を閉じた。

 星光騎士団に去年ほどの勢いがないのを、今までの投票結果を見て肌で感じているからだろう。


(お願いだ……宇月先輩と後藤先輩は今年が最後の夏の陣だから……!)



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