二年目夏の陣、最終日(7)
「二回戦も無事に勝ったということでー」
と、宇月がトーナメント表を腕を組んで眺める。
いよいよ次は第三回戦。
決勝まで、残すところ二戦。
「星光騎士団は一応去年のシード枠ってことでぇ、本来なら一個飛ばすんですけどぉー、ウチのシード権は返上してるので普通に三回戦戦いまーす」
えぐい……。
淳としてはその代わり花鳥風月が出場できたので、別に問題はないと思っている。
だがそれはそれとして一戦増えるのは心身の疲労的な意味で相当に負担がでかい。
魁星と響がテーブルに突っ伏して「へふぅ」と気の抜けた声を出す。
「まああと三回勝てば優勝だから」
「簡単におっしゃる……」
「東雲学院芸能科のアイドル、もうウチしか残ってないからねぇ〜。やるだけやりましょ。負けて行ったやつらのために」
といっても去年の石動のように、負けたグループの曲を歌うなんて無茶なことはできない。
そもそもあれはかなり無茶を通したはずだ。
歌う楽曲の音源は事前に手渡してあるし、曲名も提出する。
当日にいきなり変更は、現場の判断に任せてあるとはいえスタッフには絶対嫌がられただろう。
「星光騎士団のみなさん、出番が近づきましたので舞台裏にお願いいたします。勝ちましたらおそらくそのまま決勝戦に突入しますので荷物の方、鍵つきのロッカーに入れて管理いたしますのでスタッフにお預けください」
「わかりました。ありがとうございます」
スタッフに言われて荷物をまとめる。
アイドル応援グッズが紙袋にみっちりな淳が一番大荷物。
だがもう慣れたメンバーは気にも留めない。
びっくりしているのは預かったスタッフだけ。
「さあーて、決勝で当たるのはどこになるのかな~。Bブロックのこともあるからまずはうちらが勝たなきゃだけれど」
「ですね」
準決勝のステージが始まる。
準決勝ともなると主催である『CROWN』メンバーが登場。
Aブロック準優勝その1の担当は鳴海ケイト。
朝科旭と出かけた時に偶然出会ったが、やはりアイドルモードの時とは空気が違う。
「順調に勝ち上がってきたのは元祖学生セミプロ、去年は準優勝の好成績を収めている星光騎士団! あ、実は星光騎士団の音無くんとはうちの事務所の朝科くんが一緒に出掛けている時に遭遇したことがあるんですよね」
「え、そうなんですか?」
鳴海と一緒に司会進行を務めるのは、先ほど宇月に叱られた新人アナウンサー。
若干の嫌な予感を覚えつつ、にこにこアイドルスマイルを崩すことなく見守ることに。
若干「おい、大丈夫か?」という視線を周と魁星から向けられている気がしないでもないが、さすがにステージで変なことは言わないだろう。
鳥海はプロ歴十年のベテランアイドル。
不安要素はあのアナウンサー。
「えー、デートですか? 大丈夫ですか、それ! アイドル同士でデートなんてファンの人怒らないんですか?」
と言い出して鳴海と淳の笑顔がわかりやすく固まった。
次の瞬間鳴海の目が細くなる。
鳴海ケイトは『鬼畜眼鏡キャラ』。
そんな彼のあんな表情を間近で見たら背筋がピンとなる。
普通に怖い。
「今時アイドル同士のデートでいちゃもんつける子いませんよ。そんなことよりもうちの旭くんと仲いいのですか?」
アナウンサーの発言を逆手に取り、やんわりと淳への質問に切り替える。
しかし目が、目が笑っていない。
背中に変な汗が流れるが、彼の怒りの矛先が自分ではないのがわかるので笑顔で「観劇に誘っていただきました。朝科先輩去年まで東雲学院芸能科に通っておられた先輩なので」と答える。
それに対して「ああ、去年は魔王軍のリーダーでしたよね」とクールな鬼畜眼鏡らしく無表情で頷く鳴海。
「そんな音無くんと仲良しな朝科くんがいるElysiumは今年の四月に秋野直芸能事務所からデビューしております。会場の色んな所で皆さまのアテンドを務める動画を公開しておりますし、物販スペースで我々CROWNのようにグッズ販売もしておおりますのでぜひチェックしてくださいね。本当は夏の陣にも出したかったんですけど、Elysiumはうちの事務所の子なので俺たちと一緒に盛り上げ役に徹していただくことにしました。まあ、来年には出てもらいましょうか」
と言い出した鳴海。
客席がドッと沸き立ち、宇月が少しだけ目を見開く。
今回朝科、雛森、檜野、高埜のElysiumを夏の陣に出さなかったのは“広告”のためだった。
開場で案内役を務めたことで、『秋野芸能事務所初の新人アイドル』として認知させていく。
やはり新人の知名度を高めるにはいかに広告費をつぎ込むかにかかる。
しかし秋野直芸能事務所はCROWN一強の、CROWNのみの芸能事務所。
そんな秋野直芸能事務所から満を持して新人アイドルとしてデビューしたのがElysium。
あまたの企業が協賛でお金を出し、大量のお客さんがやってくるこのIG夏の陣で自社からはほぼお金をかけずに新人を案内役として起用したことで同時に新人宣伝も兼ねる。
((や、やる~~~~))
ただのアイドルタレント。
あくまでもエンターテイナーだと思っていたが、秋野直は経営者としてもちゃんと優秀だったらしい。






