二年目夏の陣、最終日(4)
そんなBLドラマのテーマソング、当然聞き覚えのある人も多かったらしく、会場は思った以上に盛り上がった。
笑顔で手を振りながら裏に戻る。
これは次にパフォーマンスする相手が可哀想な空気。
まあ、トーナメントなので淳たちの方が有利なのはありがたいけれど。
対戦相手のパフォーマンスが始まり、それを見守っているとBlossomが舞台袖に現れた。
舞台袖待機中のアイドルたちに緊張が走る。
優勝候補なのだから、姿を見せただけで周囲にプレッシャーを与えるのだろう。
「綾城先輩、栄治先輩、一晴先輩、甘夏先輩、お疲れ様です。もうBlossomの出番ですか?」
「お疲れ様。そうだよー」
「みんな頑張っているね。会うのは決勝かな? ブロックが違うもんね」「そうですね」
今年――というよりも去年の冬の陣から、トーナメントはブロック分けされた。
理由は去年の夏の陣で綾城がBlossomと星光騎士団の両方で出場になったから。
それまで結構なあなあでただの勝ち抜き戦だったトーナメントが、きっちりブロック分けされるようになった。
まあ、運営としてもちょうどいい転機になったと言える。
淳も来年、星光騎士団とFrenzyで出場予定なので、きっちりブロック分けされるのはありがたい。
「しかし、今年の星光騎士団は一年生が豊作ですな。柳くんと、有名ゲーム配信者ですか」
「ひゃ、ひゃい!」
「あ、ハチミツレモン作ってきたけど食べる? ビタミンと水分補給しておきな~。疲労回復にもなるしねぇ」
「ええ……!? い、いいんですか!?」
スッとどこからともなくタッパーと水筒を取り出す神野。
なぜか鶴城までどこからともなく紙コップを並べていく。
水筒の中に入っているのは普通の白湯らしく、マドラーでハチミツレモンと溶かして混ぜるとできあがり。
それを星光騎士団メンバー全員分作って手渡してくれる。
ついでにBlossomメンバーも自分たちも作って飲んでいるので、謎のお茶会が始まった。
「い、いただきます」
「あ、美味しい~~~」
「爽やかで甘くて、美味しいです……!」
「でしょ。夏場で水分補給必須だし、レモンは疲労回復にもいいから今度から作っておいでよ」
「そうします!」
水分は自分で用意するのが一番安全。
運営がウォーターサーバーや自販機を用意しているけれど、なにが混ぜられているかわからない、という不安がどうしても出てしまう。
しかし今回は先輩の手作り。
彼ら自身も飲んでいるので異物混入はない、と判断できる。
あと、普通に美味しい。
「めちゃくちゃ酸っぱい……」
「疲労がでかいと甘さよりも酸味を強く感じるんだよ。まあ、あと少しで終わりだし頑張りな」
「は、はい!」
神野に喝を入れられて、背を正す魁星。
ある意味宇月より厳しい人なので、この程度で済んだのはよかった。
それにしても――。
「ああ、なくなってしまう……栄治先輩の手作りハチミツレモン……」
「気持ち悪いから早く飲んでね。紙コップは捨てていいから」
「はぁい」
憧れの神野栄治のお手製ハチミツレモン。
料理上手と定評のある神野栄治の手作りをもらえるなんて、ドルオタ感無量です。
そんな貴重な機会に恵まれて、若干涙まで出てきた。
『結果はっぴょーーーーーーーーう!』
あ、と顔を上げる。
いつの間にか対戦相手のパフォーマンスも終わり、投票も終わっていた。
高らかに司会のアナウンサーが宣言する。
負けたつもりはないが、三日目ともなると知名度も実力もあるアイドルグループしか残っていない。
油断は禁物だ。
『勝者は星光騎士団! 学生セミプロの快進撃は今年も留まるところを知りませーーーん!!』
ガッツポーズをするでもなく、星光騎士団のメンバー全員は安堵。
ひとまず最初の難関は突き破ることができた。
が――。
「はあ? 最終日とはいえ一回戦を勝ち抜くのなんて当たり前だよね? なに安心した顔してるの? 俺の出身グループがこんなところで躓くなんて許されないんだけど?」
「「「は、はい!」」」
「すいません! 気を抜きませぇん!?」
神野にそんなことを言われ、睨みつけられて二年生ズが姿勢を正す。
宇月も直立になってきびきび返事をするとフンと腕を組んで顔を背けられる。
そんな様子を見ていびりの歴史を感じてしまう。
それを差し引いても、神野のような美人の睨みは普通に怖い。
大先輩だし。
「最後まで手を抜かないでね? 格下相手だろうと、本気でやらないなんてプロじゃないんだから」
「も、もちろんでひゅっ……」
噛んだ。
あの宇月が噛んだ。
魁星のトラウマになっている宇月があんなにビビり散らかしているのを見たらトラウマが神野に書き換えられるんじゃあないだろうか。
「栄治、あんまり虐めるものではありませんぞ」
「虐めてないです~。喝を入れてあげただけだよね~」
「栄治先輩は圧が普通の人と違うんですよ」
それは本当にそう。
鶴城が引き留めてくれたおかげで手をひらひらさせて出番待ちのテーブルに移動していく。
ただ歩いているだけなのに、やはりモデル、オーラが違う。
「ごめんね、うちの先輩怖くって」
「いえ、普通に……栄治先輩なりに心配して応援してくれたのはわかっているので」






