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ソング・バッファー・オンライン~新人アイドルの日常~  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
6章

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二年目夏の陣、最終日(1)


 最終日、午前。


「はァァァァァアァァァァァァァァァァ………………」

「魁星、大丈夫ですか?」

「いやいや、無理無理。全然眠れなかった」

「なんでだよ。寝ろって言われたじゃん」

「だからって寝れるもんでもないじゃん……!」

「ご飯はちゃんと食べましょう。お互いに」

「……うん」


 しょもしょも、と肩を落とす魁星。

 淳と周に促されて、なんとか朝ご飯は食べる。

 しかしあまりにも喉を通らなくなっていて心配になる。


「おはようございます……」

「あ、おはよう。響く………………うっわ……!? ちゃんと寝た!?」

「き、緊張で眠れなかったです……」

「だよねー!」

「ううう寝れないですよぉ〜! 全力を尽くすだけだから、って自分に言い聞かせているんですけど、なんか演じてるはずなのに抜けていくっていうか〜! 剥がれていくっていうか〜! こんなの初めてで……うわああぁん! 僕は役者失格……役者としての経歴とかの自信がなくなってきたぁぁあ! 淳センパーーーイ!」

「落ち着いて」


 ふらふらとした柳、SPを連れてやってきた。

 バイキング式の朝食を食べる分だけ取り分けてテーブルに持ってくるが、柳が持ってきたのはサラダのみ。


「もう少しお腹に溜まるものを持ってきなさい。お味噌汁とかおすすめですよ」

「和食は入るよね」

「お味噌汁……持ってきます……」

「あれ、そういえば先輩たちと鏡音は?」

「宇月先輩と後藤先輩は先に会場入りしてるってチャットルームに書いてあったよ。今日のトーナメント表の確認と段取りの最終確認。今日は昨日一昨日とは違うからね。後藤先輩は衣装の最終確認するって。今日二回着替えるから」

「あー……」


 そう思うと、やはり先輩たちは偉大だ。

 周と「今年の冬の陣からは俺たちメインで動くことになるから、早めに食べて手伝いに行って教わった方がいいね」と話す。

 淳に言われて周もハッとした顔をする。


「そうですね。しっかり食べて、そちらにも気を回さなければならないというか、今まで先輩たちに任せきりで、そんなことを思う余裕がなかったというか……」

「そうだね」


 周も今日、ちょっと日本語が怪しいな。

 と、思いつつ淳も朝ご飯をかき込む。

 しかし白米と味噌汁、焼き魚は最強か?

 食欲がないのに、この三つは普通に食べることができた。

 非常に助かる。

 勝ち進めば進むほどに心身の負担は大きくなるが、その分多くのパフォーマンスができるのだ。

 しっかりエネルギーを入れられるのは重要。

 魁星もなんとか無理やり飲み込んで、深々溜息を吐いている。


「ごちそうさまー。魁星、俺と周は先に行って宇月先輩たちと打ち合わせしてくるね。響くんと鏡音揃ったら連れてきて」

「あ、了解〜。何時までに入ればいいんだっけ?」

「十時かな。午前の真ん中くらいに一回目。負けても順位決定戦が隣のステージであるから、気をつけてほしい」

「了解〜。そういうの面倒くさいから、決勝まで頑張ろうねー」

「そうだね」


 グロッキーに片足突っ込んでいるわりに言ってることは実に“星光騎士団の騎士(アイドル)”らしい。

 魁星もさすがに二年目の騎士。

 星光騎士団というグループを理解し始めている。

 戦うなら勝つ。

 一戦一戦、全力で相手を叩き潰す。

 それが相手への礼儀であり、騎士としての務め。

 ステージは戦場。

 淳も喉にいい飴を、今回から導入した。

 昨日の紗遊のことで、痛みで――声変わりの時のトラウマが蘇ったのだ。

 ケアできるところはケアする。

 今星光騎士団の歌唱を支える土台を後藤から受け継ぎつつある状態なので、喉は大事にしなければ。


「そういえば淳は最近本当に歌が上手くなりましたよね」

「一粒いる?」

「ありがとうございます」


 ゆず塩蜂蜜飴という属性過多な飴を一つ、周に手渡す。

 それはもう、春日芸能事務所のレッスンはダンスだけでなくボイストレーニングを中心に取っているので。

 そうだ、淳がボイストレーニングを中心にしたのは声変わりの件があってのことだ。

 あの時、社長に相談したことを忠実に守ってくれている。

 声の出し方を意識するように、体の方もだいぶ仕上がってきていると思う。

 喉に負担のない、少しでも減らす歌い方が板についてきた。

 なんとなく、今の状態の声でもSBO内で再現できるのか、とかSBO内でライブ採点したらどうなるんだろうと興味が出てきた。

 カラオケとはだいぶ違うのだ。

 どうなっているのかよくわからないけれど。


「自分はナレーター志望なので、ボイストレーニングのレッスンを新たに導入したんですがまだいまいち効果を実感できなくて」

「いや、すぐにはちょっと難しいけど絶対無駄にはならないよ。やっぱり声って体から出る“音”だから」

「そうですよね。続けてみます」

「うん、頑張って」


 ナレーターの声の出し方と、アイドルの声の出し方……歌い方はやはり少し違うとは思うが体を使って出す、という点は共通している。

 周がすごく頑張っているのは淳も見ているので、きっと大丈夫。

 淳も進学予定なので、二人で受験についても時々話す。

 魁星は多分あのまま春日芸能事務所に就職だと思うけれど。


「おはようございますー、宇月先輩」

「あ、ナッシーとクオー、来たんだ! 早いねぇ」

「今年の冬から自分たちがやることですから、お手伝いできることはやらせていただきたいと思いまして」

「えー。できる後輩すぎる〜。ブサーは?」

「時間になったら部屋から鏡音くんを引き摺り出して連れてきてもらう係ですね」

「ああ……。あの子、そこだけはほんと……」


 察しが早くて助かる。



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