新曲
「新曲を練習してもらいます」
「「「………………」」」
翌週月曜日、練習棟、レッスンスタジオで本日の練習を終えて倒れていた淳たちを笑顔で見下ろす綾城珀。
なによりもその言葉に顔から血の気が引く三人。
「え、しっ……新、曲……? 『A flower of love patterned with stars』ではなく……?」
「君たちが加わったので、七人で歌う新曲だよ。『アイドルグランプリ 夏の陣』用ですね。君たち一年生専用曲と二曲、覚えてもらう予定だよ」
「「「え……」」」
もはや死刑宣告では?
いや、新曲がもらえるのは本当に嬉しいけれど、既存曲を覚えるのだけでもいっぱいいっぱいなのに新曲を二曲?
よろよろ起き上がった淳に、資料を手渡す綾城。
受け取った用紙に寄れば「社外秘」という赤字。
絵コンテで大まかな振り付けの動きが描いてある。
その枚数と、動きの激しさを理解した瞬間若干意識が飛びそうになった。
「は、は、激しそうですね」
「仮歌聴く?」
「あ、もうそこまでできあがっているんですね……」
「凛咲先生が梅橋先輩をせっついてたからねぇ」
そして仮歌を入れたのはその凛咲先生。
豪華すぎる。
ノートパソコンで仮歌を流してもらうと恐ろしいことにラップがある。
震えた。
「え、ラップ……? 星光騎士団らしくないというか……今までにない感じですね……!?」
「七人もいれば誰かできるだろうって」
まさかの生徒への丸投げ。
そこで同じく顔を青くしていた魁星がハッと顔を上げて手を挙げる。
「はい! ラップ、俺やりたいです!」
「お、いいですね。じゃあ後半のラップは魁星くんにお願いしようね。前半のラップはこたちゃん、中盤ラップはひまりちゃんがやるって話だったから、一年生からもラップ担当してもらいたかったから自主的に言い出してくれてよかったよ~」
「……お……俺が前半のラップじゃダメですか……ハ、ハードル上がりすぎてると……」
怖気づいた。無理もない。
高身長お色気たっぷり花崗ひまりと低音担当後藤琥太郎の絶対カッコいいラップを聴いたあとでやる度胸は、淳にもない。
けれど綾城には「え? 一番最初のラップの方がハードル高くない? ちなみに中盤ラップは全部英語だからひまりちゃんがこたちゃんに投げたんだけど、魁星くん英語得意?」と言い放たれて震えながら「後半でだいじょうぶっす……」と震える声で答えた。
「歌いたいパート希望があったら申請しておいてね。被ったら強制的にハモってもらうから」
「「「ひえ……」」」
「で、こっちが一年生専用曲。かなり急いで作ってもらったから、自分たちで歌いやすくしていいって許可は出ているから好きにパート分けして。振付も半分くらい君たち任せになっているから、自分たちで決めてね」
「「「……っっっ!!」」」
と、手渡された一年生専用曲『Nova Light』。
歌詞と曲以外ほとんど決まっていない、だと。
「口を開けて待っている期間はもう終わりだよ。『IG 夏の陣』はプロだけじゃなく全国の地下、ご当地、インディーズ、僕らのような学生セミプロを含め、アイドルと名乗った瞬間に参加権利が発生する。去年の夏の陣参加組数は12,470組。予選を勝ち残っても本戦は三日間。バトルロワイアル形式で初日に一曲披露し、二日目はMC含め二曲。三日目はMC含めた三曲披露。容姿はもちろん、グループカラー、パフォーマンス力、トーク力まで見られる。名の通ったグループは初日二日目はどこも新曲をぶつけてくるよ。星光騎士団や魔王軍、勇士隊は栄治先輩と一晴先輩の世代から本選に出られるようになって全国区で名前も知られる学生セミプロになったけれど、本選の九割はプロだからね。十月にある学生セミプロ限定『学アイラブトーナメント』とは規模が違う」
「あれ……なんか聞いたことのない大会がまだ控えてる……?」
「魁星、お前また授業を聞いていませんでしたね?」
「疲れて寝ちゃうんだもんンンン……!」
「魁星くん、成績大丈夫? アイドル学以外の授業聞いてる? アイドル業も大事だけどうちの学校普通に期末テストもあるからね?」
綾城に学業のことを言われて、絶望的な表情になる魁星。
学業成績は芸能科でそれほど重要視されるわけではない。
だが、後藤のように大学進学も視野に学業にも力を入れている生徒もいる。
後藤が宇月に遅れて一軍入りになったのは、一カ月ほど海外留学していたから。
――後藤琥太郎、服飾部だというのにスポーツ系の部活助っ人に引っ張りだこ。
その上、英語もペラペラで成績も学年トップというから超人かなにかなのか?
「ちなみに珀先輩も三年生では学年トップの成績なんだよぉ。僕は去年の期末、学年二位!」
「美桜ちゃん、部活終わったの?」
「うん!」
ドヤァ、と胸を張る宇月。
それを聞いて顔面蒼白になる魁星。
うちの先輩たち、頭までいい。
なんだ、この超人集団。






