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ソング・バッファー・オンライン~新人アイドルの日常~  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
6章

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二年目夏の陣、二日目(5)


『~~~♪』

 

 バックダンサーに徹しながら、前に出て歌う一年生の二人は淳が想像していた以上に堂々としている。

 実に素晴らしい、完璧なパフォーマンス。

 正直、淳たちが一年生だった去年よりも堂々としているような気がする。

 しかし、なんというかさすが“柳響”だろうか。

 淳たちから見ても目の前にいるのは“宇月美桜”だ。

 動いて歌う姿はまさしく完コピ。

 多分、宇月を演じなければ膝ガクガクのままだろうけれど、演じているからこそ堂々としたパフォーマンスができている。

 鏡音もこの数ヶ月の特訓でかなり伸びのよい強弱と緩急のある歌声が出せるようになった。

 最初の頃は結構なテンポの遅れなどもあったから、本当に上手くなったと思う。

 なんだか謎の目線で涙が出そうになる。

 感動の涙。

 親目線というか、先輩目線というか。

 歓声も悪くなく、そもそも知名度のある柳がセンターなので『いいね』の伸びも期待してよさそうだ。

 一曲目が終わると間にMCが入る。

 去年の淳たちは三人とも芸能関係無関係のど素人だったから、MCは特に人気の高い花崗(みかげ)と綾城が担当したけれど、今年の柳と鏡音はMCはともかくトークの経験は豊富。

 歌い終わってすぐに『みんなー、聞いてくれてあっり、がっと♡』とウインクしながら柳がMCに入る。

 MCの時間は去年と同じ三分程度。


『星光騎士団はねぇ、毎年“全員分”と“新加入してきた一年生”の新曲をもらうんだぁ♪ あ、ちなみに普段の僕を知ってる人は今の僕の話し方とかに違和感あると思うんだけどねぇ、実は僕、めちゃくちゃライブでアガるタイプだったみたいでぇ、今は宇月センパイに土下座して宇月先輩を演じさせてもらってまぁーす』

『完璧に宇月先輩でしたよ』

『ありがとうございまぁーす、狗央センパーイ♪ 宇月センパイもありがとうございます〜!』

『いいよぉ。上手に演じられて偉いねえ』

『褒められたぁ♡ 宇月センパイほんとに優しいんだよぉ〜! 。まじ神って感じ〜』

『そう。宇月先輩本当に優しい。自分、今一人暮らしなんですけど片付けが苦手で、宇月先輩と音無先輩と花房先輩が片付け手伝いに来てくださったことがあって……』

『あったねぇ』

『あったなぁ』

『あったね』


 オタク、大歓喜の身内ネタ。

 こういう私生活ネタはなんぼでも聞きたい。

 各所から『きゃああああー!』という甲高い声が聞こえてくる。

 わかる。

 淳ももしも客席にいたら「きゃー」と叫んでいた。

 鏡音は意外と私生活が見えないタイプなので、そういう話は特にありがたい。


『そんなわけで通例だったら新曲は今ので終わりなんだけどねー? 今年はなんとなんとぉー! 勇士隊の御上千景センパイが星光騎士団に歌ってほしい曲を作りましたー、って提供してくださったんだよぉ〜! つ、ま、り! どういうことかわかるーーーー!?』


 柳が手のひらを客席に向ける。

 その言葉の意味をすぐさま理解したであろうお客さんから、黄色い悲鳴と歓声があがった。

 実に上手い。

 ある程度は宇月と後藤で「こうこうこういう話の流れから、こんな感じでお客さんに話を持っていって……」と説明は受けていたが想像以上に柳の話の持っていき方がプロだ。

 数多の番組で多くのMCを見てきただけはあるというべきか。


『そうー! 僕たちの新曲は! もう一曲ありまーーーーっす! 聴きたい人ーーーー!』


 誘導も上手い。

 柳の質問に会場が揺れるような勢いで『ききたーーーい!』という返事が返ってくる。

 それに対して柳は改めて『声が聞こえないー! もっと大きな声でー!』と促す。

 さらに大きな声で『ききたーーーーい!』という返事。

 このぐらい大きな返事が聞こえると、こちらもテンションが上がる。


(っ――)


 なぜだかわからないが、そのタイミングで急に先程鉄パイプを押しつけられたことがフラッシュバックしてきた。

 怖い。

 と、思うが同じぐらいここで負けたくない、と踏ん張る気持ちにもなる。

 紗遊と、彼のグループを踏み躙ってここに立っているのだから、絶対に負けたくはない。


『だよねだよねぇー! オッケーー! 全力で歌うから、みんなも全力でいいね! を僕たち星光騎士団にちょうだいねー! いーっぱいほしいないいねいいねー!』

『曲目は“星夜”です。それでは聞いてくださいね』


 鏡音が締めて、前奏が始まる。

 星光騎士団は基本的にバラード系が得意なのだが、今回千景が持ってきたのは夏の陣にも対応できるラップの入るバラード。

 ちょっと最初はなに言ってるかわからなかったが、聞いてみて歌ってみると星光騎士団っぽいものだった。

 歌詞も切ない恋の歌。

 サビの部分、声の張る部分を歌唱力の成長著しい淳が担当。

 ラップ部分は後藤と魁星で交互にして、しっとりしているところを周と鏡音、柳と宇月の低音高音が見事なアンサンブルを奏でる。

 本当に聴き心地の良い曲なのた。

 客席からもうっとりとしたサイリウムの輝きが揺れる。

 あっという間に終わる出番。

 曲が終わってから、手を振ってステージを下りる。

 その時に、聞いたこともないような大きな声援が上がった。

 これはかなり手応えが感じられる。

 相手のグループのパフォーマンスが終わるとすぐに集計、審査時間。


「うんうん。手応え十分。ナギーとドカてんが思ったよりもMC上手くて助かった〜。ごたちゃん結構無理してるからねー」

「うん……本当に助かった……ありがとう……。…………ちょっとロッカールームで正座してきていい?」

「まじで限界突破してるじゃーん。いってらー。ホテルで先に休んでもいいからねぇ?」

「あ、ありがとう……その方がいいかな」


 舞台袖で速攻限界を迎えた後藤。

 無言でスタッフさんに預かってもらっていたSDを返してもらって、そそくさホテルに戻って行く。



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