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ソング・バッファー・オンライン~新人アイドルの日常~  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
6章

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二年目夏の陣、初日の結果


 五分後、投票が締め切られる。

 正直、ここでapplause(アプローズ)が負けるというのは、前代未聞だ。

 いくら星光騎士団が去年の夏の陣準優勝だとしても、それは綾城珀の功績だ。

 綾城珀の抜けた星光騎士団はやはりただの学生セミプロ。

 それに優勝経験のあるベテランバンド系アイドルが負けるなんて、誰も想像していないだろう。

 司会がマイクを片手に『集計が終わりました! 皆様モニターにご注文ください!』と宣言する。

 出演者もこの瞬間は永遠に慣れない。

 

『集計結果はこちら! 勝ち抜いたのは星光騎士団! これはまたとんでもない大番狂わせが来ました! 優勝候補のapplause(アプローズ)が! なんと! 初日敗退です――!』

 

 白羽アナウンサーの声に会場が困惑と歓声で盛り上がる。

 星光騎士団のメンバーたちも、顔を見合わせる。

 全員「マジか」という驚嘆顔。

 

「いや、マジかぁ……正直さすがにapplause(アプローズ)には勝てる気しなかったけど……」

「そうですか? 俺は半々くらいだと思ってましたよ」

「え、ジュンジュンそんなに俺らが勝つ可能性あるって思ってたの!?」

「……まあ……正直、applause(アプローズ)は……こう言ってはなんですが……最近ちょっといい話を聞かなさすぎて……」

 

 遠慮のない言い方をすると――落ち目……旬が過ぎている――だ。

 もちろん実力は間違いない。

 だがここ数年、ヒット曲らしいヒット曲もない上新人がどんどん出てきている。

 

「世代交代といいますか」

「そぉだよねぇ」

「なんにしてもこれで逆恨みされなければいいんだけれど」

「あー、それがあるかぁ。でも普通にプライド高そうだし、帰るんじゃない?」

 

 後藤としては自分たちに勝った相手への報復を案じている。

 確かに紗遊(さゆ)の性格からして報復してくる可能性は高い。

 だが宇月の言う通りプライドの高い紗遊が居残るとも考えづらい。

 即、ホテルをチェックアウトして帰宅しそう。

 

「秋野直芸能事務所の社長さんへのナンパが相当効いたんでしょうかね?」

「それは無関係じゃないでしょ〜」

「ナンパ……!? 社長を!? い、命知らずすぎる……!」

「してたよぉ。評価に影響するとは言ってたし、もしかしたらそれで焦ったのかもねぇ」

「それはあるかも。社長にそんなことしたらCRYWN(クラウン)全員敵に回すようなものだもの。それだけで審査員の評価五人分がなくなるよ」

「デッカ……! それはさすがに覆らないわ」

「デカいですね……」

 

 そもそもCRYWN――秋野直芸能事務所は主催だ。

 主催の事務所の社長を軽んじるようなことを言ったのだから、そりゃあ評価に影響もするし敵も増える。

 いくら別の事務所だからと言っても、相手は目上の人なのに変わりはないのだ。

 つまり、昨日の時点でapplause(アプローズ)はかなり積んでいた、と。

 

「まあ、なんにしても明日の二日目に進めることを喜ぼう〜! 珀先輩のいるBlossom(ブロッサム)が優勝する流れだけどぉ、負けるつもりはないもんねー! 明日の相手が誰だろうが、今日よりかっこよくて可愛い僕らを見せつけて、三日目まで行くよぉ! 学生だからって侮ってくるやつらは皆殺しだー!」

「最後なんでこんな急に物騒に……」

「いや、まあ、宇月先輩っぽいといえば宇月先輩っぽいけれど……」

「怖……」

「シャーラップ! ほら、全員荷物まとめてホテルに帰るぞー。部屋変わってるから新しい部屋になってるしねー。明日に備えてがっつり寝ることー! いいー? 夜更かしなんてしたら地獄を見るからねー? 二年生は覚えてると思うけど」

「「「はい……」」」

 

 別に去年も夜更かししたわけではない。

 だが想像以上に体力が追いつかず、尚且つ夏の暑さで体力も気力も削られ、連日のライブに精神も削られ、緊張による疲労の回復も遅くて凄まじく消耗したのだ。

 今日一日で「まあ明日は一曲増えるだけだし」なんて考えていたら地獄は一直線。

 体力よりも精神。

 精神に引き摺られて体調も微妙になる。

 それがこの夏の陣の恐ろしさ。

 

「寝てた方がいいしご飯もちゃんと食べないとヤバい。暑くて食欲ないとか言ってると体力持たない。寝るのにも体力いるし」

「うんうん」

「ああ……身に覚えしかありませんね……」

「二日目の終わりとか最終日とか……俺と周はマジで緊張して水も上手く喉を通らなくなってたもんね」

「そ、そう。しかも緊張で睡眠もうまく取れなくなっていましたものね……」

「「…………」」

 

 周と魁星の言葉に顔を青くする柳と鏡音。

 初日はまだ、なんとか飲み食いができる。

 だが人生初とも言える大舞台で二日目も勝ち抜け、三日目で怒涛の連戦。

 体力がどれほど残っていても、精神的な緊張によるストレスで体がおかしくなる。

 そういう意味で鏡音と柳は大舞台慣れしているから大丈夫かもね、と淳が微笑むが柳は首を横に振った。


「そ、そういうのは僕も経験ないですからぁ……!」

「自分は勝ち進めばっていう下りは初めてじゃないです。けど……不安になってきました」

「それも経験だよぉ〜。二日目勝ち抜けるとマジで精神的にクるからねぇ。今日はとにかくたくさん食べて、早く寝なぁ? 寝溜めなんてできないけど、明日を穏やかに迎えるためには早寝早起き朝ご飯は絶対マイナスにはならないからさぁ」


 宇月に言われて俯き気味の一、二年たちは少しだけ顔を上げた。

 勝ち進むこと自体は喜ばしいことだ。

 それに――


(宇月先輩も後藤先輩も、最後の夏の陣だもんね)


 勝たせてあげたい。

 行けるところまで二人を連れて行ってあげたい。

 特に宇月には、本当に本当にお世話になってきたので。



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