二年目夏の陣、初日(6)
「犯人は捕まっているんですよね?」
「うん。今はもう警察にお持ち帰りしてもらったわ。それはそれとして、部屋の移動は安全面強化のためにしておいた方がいいだろってこと!」
「そうですね。ちなみに今もホテルにいる三人は大丈夫なのですか?」
「おん。魁星と響と鏡音だろう? あいつらは部屋移動に立ち会うみたいだから大丈夫大丈夫」
特に柳のSPは移動先の部屋の安全確認などもしなければならないので、立ち会いはSPが言い出したことらしい。
依頼人の安全を優先させるSPなのだから、それは当然とも言えるが。
だが明確に星光騎士団のメンバーに害意を持つ何者かの意図を感じて、凛咲先生もさまざまなところから情報収集している。
「証拠が固まり次第、法的にどうにかする。お前らは真正面から叩き潰せばオッケー」
「ですよねー」
と、凛咲先生からもお許しをいただいた。
それならばあとは――自分たちの出番で大暴れするのみである。
そうして昼も過ぎ、三時四十分。
星光騎士団VSapplauseが開始となる。
その前に運営のスタッフから各グループに注意喚起がなされた。
『今年のIG夏の陣、不審なスタッフが会場だけでなくホテルにも数名確認されており、警察、警備会社と連携して安全確保を最優先にしております。ご不便をおかけすることも多いと思いますが、あらかじめご了承ください』
という内容。
具体的なトラブルはないもののように通知されているが、星光騎士団は迷惑を被っている。
その内容を宇月は容赦なく魔王軍の茅原や勇士隊の蓮名、花鳥風月の桃花鳥にも話してしまう。
堂々と、控え室や舞台袖で。
その話を聞いた東雲学院芸能科以外のアイドルグループのメンバーは、わかりやすくapplauseへと不信の目を向ける。
「怖……」
「まあ、明確なことはなにも言っていないからいいんじゃないんですか?」
「確信もないしねー。それより響くんは大丈夫?」
「大丈夫じゃないですね。もう吐きそうですね」
「頑張って」
宇月の情報戦略、『噂』の威力が高過ぎて怯える魁星。
元々悪い噂の多いapplauseには、かなり効果的だろう。
実際宇月が他のグループに被害を話し始めてから、ぴたりと止まったのもだいぶ面白い。
それはそれとしてSPを横につけた柳が真っ青な顔でずっと震えているのが気になる。
あまりにも緊張していて。
対して鏡音はかなりけろりとしている。
デビューライブの時はあんなに二人ともガチガチだったのに。
「っていうか円くんはなんで平気そうなの……? 緊張が顔に出ないタイプだっけ……!?」
「え? 世界大会の会場、ここより大きいし人多いから……」
「嘘でしょなんで!? スタート地点同じじゃん……!? 置いていかないでよぉ! 円くぅん!」
「なんかSBOの中でライブしてたらだいぶ慣れてきてて、今はなんかゲームの世界大会の時みたいな感じかなって」
「置いていかないでよおおおぉ!」
SBO内でのライブが鏡音をだいぶ強くしたらしい。
さすがプロゲーマーメンタルである。
鏡音に縋りつく柳もなんだかんだ本番には強いので淳はあまり心配していない。
特に柳には、奥の手があるのだ。
「ほらほら、そろそろ出番だよぉ〜。ナギーはスイッチ入れちゃいな〜。お前が演じるのは今日世界で一番可愛い、この宇月美桜ちゃんなんだからさぁ!」
「くっ……。は、はい! お借りします!」
「いいよぉ」
一度役に入り込めば柳響は強い。
柳が演じるのは宇月美桜。
性格的に浸透しやすかったらしい。
ある意味、二人の宇月美桜と一緒にステージに立つというのは心強いどころではない。
スタッフの呼び声が聞こえた瞬間、呼吸を整えた柳響は宇月美桜に化た。
柳は淳のようにオンオフで切り替えるだタイプの役者ではないが、一度抜けた役を呼び起こす時はオンオフで呼び出すらしい。
その代わり抜けるのに時間がかかる。
今日から三日間、宇月美桜が二人になる状態なので魁星は肩を落とす。
だがそこは二年目。
魁星も頬をパンと叩いて気合を入れて、堂々とステージに上がる。
懐かしい。
去年は柳のようにガチガチでパフォーマンスができる状態ではなかった魁星と周が、まったく緊張をお首にも出さずにステージへ上がるのだから。
淳も去年の冬の陣ぶりの歓声に目を細める。
やはり夏の陣は――全体的に眩しい。
そしてアイドルを愛している人たちの歓声を見て嬉しくなる。
わかる。
アイドル今日は年に二回のアイドルの祭典。
大好きな推しが活躍するところの他に、新しい推しと出会えるチャンス。
駆けるようにウキウキステージに上がる。
アイドルが好きな人たちにもっとアイドルを好きになってもらえますように――。
『それでは東雲学院芸能科、星光騎士団で新曲、Jewel!』
十六代目星光騎士団専用曲『Jewel』。
三年生の宇月と後藤に挟まれて、魁星がセンターになってパフォーマンスを行う新曲の一つ。
これは華やかな魁星を目立たせ、来年の星光騎士団のセンターが誰なのかをファンにアピールする意味もある。
本当なら後藤を真ん中にすべきなのだろうが、後藤の控えめな性格から一曲目から魁星をセンターにすることで決まった。
一年生たちも担当パートの時は前へ出るが、基本的にバックダンサーを担当。
しかし、淳は歌唱力が爆上がりしている。
センターに来たらものすごい歓声が聞こえてきた。
推しうちわも自分の名前が見えて思わず目を細める。






