二年目夏の陣、初日(4)
「そういえば花鳥風月の結果出ましたかね? 途中で引き上げてきたので気になっていたんですが」
「あーそうだね。モニターついてるからつけてみる?」
「会議室の前の方にあるやつですよね。後藤先輩、つけてもいいですか?」
「もちろん」
衣装の方は紙袋に入れていたので少しシワになっている。
それを伸ばしながら最後の確認をしてくれているのだ。
小物が取れていたら縫い直したり、ほつれや系が出ていたら切って取る。
後藤の後ろのモニターをオンにすると、ちょうど対戦結果の発表のところ。
『さあ、では集計も終わりまして……結果の発表です! 三回戦は――』
『花鳥風月!』
「「おおおおおー!」」
思わず声を上げてしまう。
初出場で初日を切り抜けた!
相手は地方のご当地アイドルではなく、今年デビューしたアイドルだ。
各事務がBlossomを参考にデビューさせていた一角だろうに、まさかの学生セミプロに敗退。
いや、十分な準備もなく真似できるものではない。
淳も来年――Frenzyとしてデビューするが、この勢いに乗れるかどうかは賭けだ。
来年はしっかりと準備期間を得た、一つ上の抜きん出たBlossomのコピーアイドルグループがデビューするだろう。
Frenzyはその中でも多少異色ではある、埋もれないためのレッスンも重ねてきた。
だがそれは来年デビューするアイドルたちも同じだろう。
Blossomに続き、頭ひとつ分抜けるために自分はもっとできることをやらなければ。
「よかった〜。シード権返上で出させた甲斐があるってもんよぉ〜」
「よかったね、美桜ちゃん。……あ、次はもう勇士隊が出るんだね?」
「え? なんで? あいつら去年ベスト4に入ってたよね? シード権あるはずなんだけど?」
「さあ?」
「去年石動先輩が早々に返上してなかった? 『来年は俺が卒業しているから、シード権なんかでうちの後輩を甘やかす必要はない』って言ってたの見たよ」
「えぐぅ……石動先輩……」
淳たちは記憶がだいぶ飛び飛びの夏の陣三日目。
Blossomに敗退して四位が決定して即座にシード権を返上していたらしい石動。
それを見て記憶している余裕があったのがすごいと言わざるを得ない。
というか、三日目は勇士隊もかなりいっぱいいっぱいだっただろうにその判断を下せる石動もすごい。
宇月はえぐい、というがすぐに「でも蓮名の様子を見ると確かになぁ」と考えを改める。
身も蓋もない。
『さあ、次は四回戦! おっと~~~! 早くも去年の夏の陣で四位入賞した東雲学院芸能科の勇士隊が登場! こちらも昨年シード権を取得していますが、昨年の勇士隊リーダーに返上を受けております!』
『それにしても即出てくるのはえげつなくない?』
『くじ引きの結果だそうですよ。今年のメンバーは去年二年生、一年生だった子たち! 今年からはリーダーである君主に蓮名和敬が昇格! 白虎は昨年に引き続き苗村裕貴! そして去年の一年生で今年から朱雀に昇格した熊田芳野、青龍に昇格したのは日守風雅! そして玄武に昇格したのは先ほどの花鳥風月を始め、今年夏の陣に参戦している東雲学院芸能科アイドルグループの楽曲を、必ず一曲は手がけている超期待の新人作詞作曲家も兼ねている御上千景!!』
『ほ、褒めすぎです褒めすぎです!? なんで僕だけそんなに情報量が多いんですか、おかしくありませんか!?』
アナウンサーの羽白真湖が読み上げた紹介文に歌唱用マイクで反応してしまった千景。
多分オンにしていたせいだろう。
一応初日はMCの時間はなしだ。
小声で独り言のつもりだったものを、マイクが拾った、という感じだ。
しかししっかりと会場に聞こえてしまい、客席から笑いや歓声が上がる。
「だいぶ可愛い。俺の推しが今日も可愛い」
「淳って御上くんが推しだったんですか……」
「みかみん、マイクのスイッチオンにするの早すぎねぇ?」
「そういえば星光騎士団にも趣味で書いた曲を一曲提供してくださいましたものね」
「あのレベルを趣味でって普通にすごいんだけどね。勇士隊の新曲相当すごいみたいだよ。蓮名くんと苗村君がよく口ずさんでるんだけど、かっこよかった」
「後藤先輩ってそういえば勇士隊の三年生と同じクラスでしたっけ」
「うん。愉快で賑やかな人たち」
今日はだいぶリラックスしている後藤。
SDを抱えてはいるが、かなり穏やかに話をしてくれる。
宇月は「あれはうるさいっていうんだよぉ。新曲を学校内とはいえ口づさむなんて意識かけてるんじゃないのぉ」とぼやく。
淳としては普通に羨ましい。
相手の紹介ターンだが、まったく耳に入ってこない。
「勇士隊のお相手も今年デビューしたプログループなのですね。今年は地方のご当地アイドルや地下アイドルが格段に減っている印象です」
「それは本当にそうだね。各事務所がいきなりデビューさせたプロアイドルがご当地アイドルや地下アイドルを食ったって感じ。僕、ご当地アイドルが出るの好きだったんだけどなぁ~。地域活性化に貢献している感じがして」
「俺もそう思いました。地下アイドルはまあ、ちょっとホストみたいだから別にいなくなってもいいんですけど」
「あっはっはっは! ドルオタのナッシーにそう言われたら地下アイドルもういらないじゃん!」
「いやいや、勉強しようと思ったことはあるんですよ? でもなんかあんまり……アイドルっぽくないっていうか」






