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未来を思う


「――あ、あの……五月の東西芸能科新入生対抗ライブオーディションの結果で、研修生と通知をいただいた音無と申します。はい、前回お電話いただいた時は、両親とも相談してお返事をしたいと保留にしていただいたんですが、その件で質問したいことがあってご連絡いたしました。担当の方はいらっしゃいますか? ……え!? 社長さん……!?」

 

 レイドイベントライブの翌日は、休日。

 朝に春日芸能事務所に電話してみると、電話をとった事務員さんからまさかの社長に繋げられてしまった。

 もしもし、と同い年くらいの少年の声がスマホから聞こえてくる。

 

「あの――音無淳です。東雲学院芸能科の……」

『ああ、保留だった子ですね。一晴と栄治と珀のお気に入り……いや、あの三人の場合は普通に後輩可愛いですね』

 

 やれやれです、と溜息混じりに言い捨てられて、一瞬困惑でングとなった。

 しかしすぐに『それで質問というのは?』と切り替える。

 

「俺、ミュージカル俳優が夢なんです」

 

 昨日のレイドイベントライブではっきりと自覚した。

 やはり自分はミュージカル俳優になりたい。

 歌と演技で舞台を舞う俳優に。

 

「それで――あの、綾城先輩に、事務所の方向性なども考慮した上で返事をした方がいい、と助言していただきまして。御社の、方向性と自分の目指すものが合うのかどうか、直接聞いた方がいいかなと……」

『なるほど。確かに直接聞いていただいた方がこちらとしても助かります。そうですね……珀に聞いているかもしれないですが、うちの事務所はどちらかというとモデルと俳優が多いかな〜という状況なんです。と、言っても所属しているのがモデル二人、俳優一人、アイドル二人、という少人数の弱小芸能事務所ですから、大手がいいと言われるとそれまでですけど』

 

 いやいや、確かに所属人数は少ないが、その全員がハイスペック。

 少なくとも事務所新人の綾城と甘夏以外の三人は海外で活動している。

 社長曰く、日本での事務所知名度を上げるためにアイドルグループを打ち出し、アイドルに関しては国内活動中心にする予定。

 鶴城と神野に関しては、海外活動が中心のまま。

 ただ、鶴城は長期公演の予定が今年と来年に入っていない。

 海外で関わる劇団の演目が今年と来年、和物ではないから、らしい。

 栄治も短期が多いので、事務所知名度アップに協力してほしいと『 Blossom(ブロッサム)』が立ち上げられたのだ。

 

『ですから、うちの事務所としてはアイドルは片手間。いえ、片手間ではないですね、副業? 本業は別にある――という感じでしょうか。珀はアイドルが本業ですが、甘夏はスポーツ関係に進みたいという希望をもらっているんですよ。うちの事務所にミュージカル俳優はいませんけれど、一晴が伝手を持っているので仕事を振ることは無理ではないと思います。お金はありますから、捻じ込むのも難しくはないでしょう。ただ、そういうふうにミュージカル俳優として売り出すにしても実力を把握しておきたいし、演技系の実績、歌唱系の実績もないよりあった方が間違いなくプラスになります。少し極端な言い方をすると、この業界は実績と数字がすべてですからね』

 

 スッ、と喉から空気が下りていくような感覚。

 胸にストン、と落ちる感じがした。

 社長が自ら対応してくれたこともそうだが、事務所の意向までちゃんと伝えてくれたのには驚いた。

 事務所の知名度を上げるのは、事務所を成長させるため。

 どんなふうに成長していくのかは、事務所に所属するタレントたちによる。

 だから『音無くんがやりたいと思うことを思う存分できるように、サポートは惜しみませんよ。その代わり、事務所の方にも協力してほしいんですよね』という言葉に心から納得できた。

 

「あの、ありがとうございます。すごくわかりやすかったです」

 

 きっと高校生になったばかりの淳にも、わかりやすいように砕いて話してくれたんだろうと思う。

 一応十年ほど劇団に所属しているので、そういう話はある程度理解しているつもりだ。

 けれど未成年であることは変わりない。

 

「今のお話、両親にもしてしっかり相談してお返事でもいいでしょうか」

『もちろんです。面談の予約をしていただければ、事務所の方でご両親とともに三者面談も可能ですのでいつでもご連絡ください。卒業後に研修生という形で仮所属していただく、でも大丈夫ですからね』

「あ――ありがとうございます。両親にも伝えておきます」

 

 電話を終えてから、息を吐き出す。

 卒業後に研修生という形。

 それは考えていなかった。

 

(魁星と周の所属先が決まってからでもいいのか。でもそれはそれで二人のことを見下しているみたいだな……)

 

 自分が評価されているのが不思議だ。

 もちろんありがたいとは思っている。

 これまで劇団でやってきたことが評価されたという話も聞いたし、それに関してまさか鶴城が一枚噛んでいるとは思わなかった。

 確かに劇団は同じだが、劇団自体が全国区で大変大手。

 テレビ局と提携してエキストラを提供しているような、一般人でも名前を知っているような劇団。

 彼は人気子役で面識もない。

 直接会ったのは彼が星光騎士団に入ってアイドルをやっていた頃。

 しかし、劇団の先輩としてではなく神野栄治に会いに行っていた”ついで”のような感じが強い。

 もちろん、役者として尊敬もしているけれど。

 ただ、鶴城一晴からすると劇団の後輩であり、東雲学院芸能科在籍時代にファンとして毎月定期ライブで会いに来ていただけでなく、高校も所属グループも同じと来れば贔屓したくなるのも仕方ない。

 前回SBOで助けてもらった際はあまり話をすることはなかった。

 ただ一言――

 

『同担拒否ですぞ』

『え、え、あ……』

『はあ。ウッザ……』

 

 というやり取りはした。

 鶴城一晴の神野栄治への強火担っぷりは在学中から有名。

 むしろそれがネタになり、ワイチューブ内で切り抜き動画まで作られるほど。

 その切り抜きにより、星光騎士団のワイチューブチャンネルは他のグループより知名度が出た、という経緯まである。

 淳も当然、それは知っていた。

 なんならツルカミコンビ在学中の定期ライブで淳と智子が栄治担うちわを振っていると指差しで「栄治は渡しませんぞ!」と叫ばれたことすらある。

 要するに敵認定だ。

 それでも劇団でも学校でもグループでも”後輩”の淳を贔屓してくれているあたり、なにかしら鶴城一晴の中で線引きはしているのだろう。

 もし、どこかで会う機会があったらお礼を言わなければ。

 

(それとも、綾城先輩にお願いして時間を作ってもらって菓子折り持って

 

 取り立ててもらうように相談したことはないので、本当にただ”後輩”として引き上げてくれただけだろうけれど。



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