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ソング・バッファー・オンライン~新人アイドルの日常~  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
6章

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二年目夏の陣、初日(3)


「わたし、あまりゴミと会話したくないので五秒以内にどちらがいいのか決めてください。はい、いち、に、さん……」

「言います! 言います! 単発バイトで声かけられて!」

「まあ、どなたに?」

「あの、だから、単発バイトでいつも世話になっている先輩に」

「その方のお名前と、頼まれた内容は?」

「えっと、先輩は石田さんっていう人で、星光騎士団の誰でもいいから倉庫の方に連れて来てって。連れてくるだけで三万くれるっていうから……」

「ああ、やっぱり星光騎士団ですか。こんなあからさまなことして大丈夫なんでしょうかねぇ? まあ、この世界にも因果応報ってものがあるようですから、悪いことをしたらバレると思うんですけれどね。お騒がせしました、星光騎士団の音無淳くん。二階の第二会議室の方にお戻りいただいて大丈夫ですよ」

「えっと……」

「なにかわかりましたら顧問、リーダーの方を通じてお知らせしますね。どうぞ本日のパフォーマンスに集中してくださいませ」

 

 にっこりと微笑まれて、ビクッと肩が跳ねる。

 とても人当たりのよい笑顔なのに、ものすごい圧を感じた。

 鶴城の言う通り、春日社長と対峙している時のような緊張を感じる。

 

「えっと、はい。それじゃあ、お任せします」

「はい」

 

 その場を離れる淳。

 淳の背中を見送りながら、星科社長が頬に手を添えて溜息を吐く。

 

「あらあらです。春日社長ってばあんなに加護を重ねがけしちゃって……過保護ですねぇ」

 

 

 

 二階の第二会議室。

 星光騎士団の控室として提供されている場所だ。

 一階の控室は四部屋あるが、そちらは出番の近いグループが利用している。

 午後から出番のグループが施設内で待機する場合はここのように空いている部屋を控室代わりにしているというわけだ。

 

「おかえりー。満足した? にしては早かったねぇ?」

「人が多くて身バレしそうで……」

「あー、また人増えたもんねぇ」

「ところで魁星と響くんと鏡音くんは……」

「あの子らはまだホテル。ドカてんは少しゲームの練習してくるって。なんかランクに潜る? って言ってた」

「さすがプロ。そうですよね、本番十月ですもんね。世界ですもんね」

「ね」

 

 そんなわけで会議室にいるのは宇月と周と後藤。

 後藤と周は衣装を準備中。

 本日の衣装は新曲に合わせたもの。

 それをテーブルに並べている。

 

「あれ? じゃあ魁星と響くんは……」

「あの二人はシンプル寝坊。ドカてんに一時には起こして連れて来てって頼んできた」

「そ、そうなんですね」

「あとついでにナギーのSPにもお願いしてきたから、大丈夫でしょ」

「あ、そうだ。その件というわけではないんですけれど……」

「ん?」

 

 全員揃った時に話すべきかと思ったが、早い方がいいと思い、屋台スペースで見た男と廊下であった出来事を話す。

 柳のストーカーは元々警戒していたことではあるが、廊下での出来事は今思い返すとかなり異様なことのように思う。

 話をすべて聞き終えた宇月も眉を寄せて腕を組む。

 

「それ、凛咲先生にも報告しておくね。今は舞台袖に行って、他のグループ顧問と話しているみたいなんだけれど」

「そうですね。ちょっと気を引き締めた方がいいというか……」

「まあ、聞いた感じナギーのストーカーは運営の方で取り締まってくれたみたいだから大丈夫そうだね。警備が最新鋭で、かなり厳重とは聞いてたけど防犯カメラに顔認証機能がついているなんてすごいねぇ。めっちゃ近未来って感じ」

「そうですね」

 

 実際ステージの方も“来年用”に改良されていると聞く。

 IG夏の陣、冬の陣に使われるこの建物――『CROWNHOME(クラウンホーム)』は春日社長が数億出資して建設し、秋野直にプレゼントしたというぶったまげた話を聞いた時は何度目かわからない宇宙に意識が飛んだ。

 受け取る方も受け取る方だろう、と思ったら施設管理費も春日社長持ちらしくてもっと意味がわからなくなった。

 あの人の金銭感覚どうなってんだ。

 ちなみに余計な口出しをさせないために、IGの協賛企業、事務所の出資金額は均一に設定されており、それ以上の金額を春日社長が個人で支援して出している。

 あの人の懐どうなっている?

 もちろん突っ込んでは聞かないけれど。

 お金のことなんだと思っている? とは思ってしまう。

 なので、かなり春日社長が贔屓している技術研究の諸々が入ってはいる。

 宇月が聞いていた話だと、スタッフ証にもGPSやカードキーになっているらしく、下げていないスタッフはスタッフ証のあるスタッフに報告してほしいと言われていたらしい。

 実は去年もスタッフにまぎれたスタッフでない者がいたという。

 なにそれ怖い。

 

「でも連続で星光騎士団(ウチ)に関係しているのはちょっと作為的なものを感じざるを得ないよねぇ」

「そうなんですよね」

 

 淳もそこが気になった。

 柳のストーカーだけなら「本当にまた来た」くらいで済ませられたのだが、廊下でのことは淳を――星光騎士団のメンバーを狙ったものだった。

 宇月がイースト・ホームの星光騎士団チャット欄に注意喚起を入れてスマホを閉じる。

 

「こういう姑息な手口で相手を潰しに来るタイプは正面からボッコボッコにすると最高に気持ちいいんだよねぇ。まあ、スタッフも会場も大丈夫そうだし、ホテルにはSPっていう第三者も入っているからなにが来ても平気でしょ。学生だからって舐めてかかるとどうなるか、本番で叩きつけてあげればいいよ。こちとら騎士なんだから」

「――そうですね」

 

 売られた喧嘩は買う。

 なぜなら騎士だから。



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