二年目夏の陣、初日(1)
翌日、ついに開会するIG夏の陣。
例年の数倍の人数が集まっており、会場へのチケットが手に入らなかった層は、海辺は水着の家族連れやらカップル、ナンパ目的の若い男女の集団と化していた。
海の家も去年より繁盛しており、屋台の列は十軒増えている。
カメラの数、記者の数も増えてBlossomの三連覇への期待値が窺えて、優勝候補のグループは相当やる気が削がだろう。
むしろ『Blossomの三連覇を邪魔するな』という奇妙な圧すらある。
当然それに気圧されるような“優勝候補”はいないだろう。
会場には午後から入ればいい淳が、変装して屋台付近からモニターでサイリウムと推しうちわで出場アイドルを応援し、IG夏の陣を超満喫していた。
残念ながら千景の出番はお昼頃なので、時間が合わない。
時間があれば一緒に、という話はしていたが。
「あ、さっそく花鳥風月の出番!」
星光騎士団のシード権返上で出番を得たので、花鳥風月の出番は三戦目。
相手は今年デビューした新人アイドルグループ。
双方IG初出場であるが、司会のアナウンサーが『昨年の夏の陣準優勝、星光騎士団のシード権返上で初出場を果たした新たな東雲学院芸能科アイドル!』という紹介をした瞬間客席からワア、というかなり大きな歓声が上がった。
あんな歓声が上がる程度には、星光騎士団も知名度が上がったということか。
「お、おい、なんだ!」
「!?」
ケバブサンドを購入してもぐもぐしながらモニタ――を見上げていると、真横で警備員が男を取り囲んでいた。
その男の声に、どことなく聞き覚えがあって振り返る。
声だけでなく姿もなんとなく見覚えがあった。
だが知り合いではない。
でも知っている。誰だ?
「お、おれは客だぞ。なにもしていない!」
「先ほども申し上げましたが、あなたは立ち入り禁止対象です。当イベント出演者への暴行歴を確認いたしました。お引き取りいただけないようでしたら警察への通報をさせていただきます」
「パンフレットにも記載されておりますが、当イベントは各防犯カメラに顔認証機能がついており、犯罪歴のある方は即検知、即退場を促す。従っていただけない場合は威力業務妨害で警察に通報させていただきます」
「従っていただけないのでしたら、このまま警備室に連行させていただきますが」
「くっ……」
数人のガタイのいい警備員に囲まれ、男は慌てたように会場の外に向かって走り出す。
その歩き方と警備員の言葉で思い出す。
響に危害を加えようとして捕まった、響の伯父だ。
あの時のことを思い出して、喉がきゅっと絞まる。
「なにあれ、怖~い」
「犯罪歴のある人は防犯カメラですぐにわかるってこと? すごーい」
「イベントごとにそういうのがあると安心だね」
「最先端の技術がいっぱい使われているって本当なんだね。そういえばこの辺りも外なのに暑すぎないよね」
「本当だ。そういえばじゃん」
「どうなっているんだろう~?」
通り過ぎたギャルたちがりんご飴やかき氷を突きながら辺りを見回す。
言われてみると、屋根があるのはステージの前だけ。
その屋根も、ガラスのように透過しており陽光は突き抜けているはず。
しかしお客さんは汗も流していない。
この辺りも暑いと言われれば暑いが、ホテルを出た時のような気怠くまとわりつくような、汗が毛穴という毛穴から噴き出す感じはない。
風があるわけでもないのに程よく心地のいい暑さ。
『では、先鋒は東雲学院芸能科、花鳥風月!』
「あ」
警備員がいなくなってから、ステージでは花鳥風月のパフォーマンスが始まった。
知っている人自体が少ないだろうが、花鳥風月も新曲を引き下げてきている。
千景が提供した新曲だ。
心地のいい伸びのある声と、扇を使った舞踊。
普通のアイドルでは到底できない芸当だが、それがわかるお客さんはどのくらいいるだろうか。
しかしそこは千景が提供した曲。
和風だがギターやベースのふんだんに使われたいわゆる和風ロック。
開場して間もないこの時間帯に和風ロックはかなりアガる。
「星光騎士団と同じ東雲のアイドルでしょ? 結構よくない?」
「和風ロックめっちゃいい~! いいな~、ステージスペースで見たかった~」
「あの一番背の高い人カッコいいじゃん! ええ~、東雲学院芸能科ってまだイケメンアイドルがいるんだ~。学院の方も今度チェックしてみようかな」
「だね~。毎月定期ライブとかしてるらしいじゃん。ここから二、三時間なら行ってみてもいいかもね」
しっかり宣伝効果を得られている。
結構モニター前に人が集まりつつあるので、眼鏡をかけ直して帽子を深くかぶり直し、そっと離れた。
さすがに東雲学院芸能科の代表の一角である星光騎士団のメンバーだとここでバレると、せっかくの花鳥風月の初出場に水を差すことになりかねない。
お客さんには純粋に花鳥風月のパフォーマンスを楽しんでほしい。
(ああ~、俺もステージ席から応援したかった~!)
出演者は客席から見てはいけないので、仕方ない。
両親と智子は今年もステージ席の抽選を勝ち抜いたので、今頃客席で楽しく観戦中。
正直羨ましくてしょうがないが、出演者控室モニターで楽しむしかない。
(あれ?)
戻る途中、特設モニターで朝科旭と雛森日織と檜野久貴と高埜直士が会場案内を行っていた。
秋野直芸能事務所に所属して、こじんまりとした活動をしているのは知っていたが、こういうことも担当していたのか。
(でも高埜先輩も……? なんだか朝科先輩たちの一年生の頃のメンバーみたいで懐かしいな~)






