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ソング・バッファー・オンライン~新人アイドルの日常~  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
6章

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悪意のるつぼの中


「チッ! つまらねぇー!」

 

 去年のIG夏の陣はDancing(ダンシング) Link(リンク) Production(プロダクション)に対して脅迫状が届いた。

 applause(アプローズ)はそのせいで前日から出番まで厳重警備の下ホテルで軟禁状態。

 紗遊はそれはもう、ストレスだった。

 去年付き合っていた女の誰とも遊べなくなり、フラストレーションが溜まってパフォーマンスにも影響した感は否めない。

 それで学生セミプロ如きにも負けたのだ。

 だから、あんなふうに言われるのは心外でしかない。

 冬の陣は寒いから。


(そうだ、寒いからパフォーマンスを完璧にできなかったんだから……クソクソクソクソ……!)


 今年は客席に屋根がつき、ステージにはかなり強烈なクーラーがついたらしい。

 最新型のステージで、色々仕掛けが追加されたそうだ。

 最高のパフォーマンスを求めるのなら、リハーサルはするべきだしもっと準備期間が欲しかった。

 だが、それを語ると『あくまでも対バン勝負であり、準備期間も条件もすべてのグループが同じ』『同じ条件下で最高のパフォーマンスをできるかどうかも評価条件』など言われる。

 別に、IGは本戦に出場しただけでもかなりの宣伝効果、売名効果があるので優勝にはこだわるわけではない。

 一度優勝もしている。

 三回優勝して殿堂入りになろうという方がおかしい。

 だが、それはそれとして純粋に負けるのが嫌いなのだ。

 他のメンバーも年々applause(アプローズ)をやる気がなくなっており、他のバンドチームに割く時間が増えている。

 元々バンドマンとは自由なもので、やりたい人とやりたい作風の曲をやるのが一般的なスタイル。

 紗游もapplause(アプローズ)以外に三つほどバンドのヴォーカルをかけ持ちしている。

 IGに出るのも事務所の意向。

 IGに出て、年に一曲だけapplause(アプローズ)として新曲をリリースすればあとは比較的なにをしていても自由。

 犯罪以外なら女遊びも他のバンドチームとのライブも、事務所からはなにも言われない。

 暗黙の約束ごとになっている。

 最低限の固定給つきで、事務所という後ろ盾もあり今の生活は気に入っていた。

 だが、去年からどうにも結果が事務所の望んだレベルに達しない。


(久しぶりにアンフェアな盤外戦でも仕掛けるか。でも誰に――)

 

 デビュー当初、自分が売れるためなら多少汚いこともやった。

 今どきお綺麗な売り方なんて逆に無理だろう。

 事務所が目をかけ金をかけてくれるのならまだしも、成り上がるのならそういうことも必要だ。

 Blossom(ブロッサム)はその点、最初から事務所が相当に金をかけて宣伝していた。

 元々知名度のある三人が起用されていたせいもあるが、それにしても中央区の大型ディスプレイ広告やポスターもどんどん町中に増えて今や日本中。

 明らかにapplause(アプローズ)Dancing(ダンシング) Link(リンク) Production(プロダクション)にかけられている広告料と桁が違う。

 最近は新しくWalhalla(ヴァルハラ)とかいうアイドル特化のアイドルもデビューして、事務所はそちらの広告を増やしている。

 applause(アプローズ)に回される仕事量も目に見えて減ってきた。

 事務所に貢献できなければ、今のぬるま湯のような心地いい生活は難しくなる。

 ここらでしっかり優勝なりなんなりで存在を示しておく必要があるのだ。

 なら、やることは簡単。

 

(まずは星光騎士団か。学生ならやりたい放題だよなぁ……)

 

 一番楽なのは、酒だ。

 学生の身分で酒の缶一つ部屋に転がっているだけで炎上に繋がる。

 ホテルの従業員に手を回すなりなんなりすれば、実に簡単に炎上を捏造できるだろう。

 星光騎士団といえば綾城珀という清廉潔白の権化のような男ですら、ガチ恋勢のせいで大炎上を経験している。

 それゆえに炎上にはかなりの警戒がされているはずだ。

 たとえば新しく入ってきた一年生たちもなにかしら弱みでもあるのでは、とスマホで簡単に調べてみれば――なんと今年早々に炎上のような騒ぎを起こしているではないか。

 ストーカー、暴力事件、謝罪からの自粛。

 警備会社と学院側の協議、犯人は今月の頭に出所済み――。


(こっちの方がいいじゃん……♪)

 

 すぐ、知り合いに連絡を繋ぐ。

 どうなるかなんて知ったことではない。

 ただ自滅して潰れたらいい。

 邪魔になるやつらが一つでも減ればそれでいいのだ。

 なぜなら紗遊は、自分がよければあとは誰がどうなろうが知らないので。

 最低のクズ?

 そんなの人間なんだから当たり前だ。

 他人を優先する人間なんてこの世にいるはずもない。

 人は人を踏みつけにして生きるものだし、綾城珀のような清廉潔白の権化は裏で絶対になにかやっているに違いない。

 親が不倫して子どもを虐待する、血が繋がっていたって愛されることはない。

 無償の愛なんて存在しない。

 したとしても自分には関係ない。

 そういう環境で生きてきたのだ、自分だけは自分を全肯定して、最高に可哀想だと同情して甘やかしてなにが悪い?

 他人を踏み躙って、食い物にしたって許されるべきだ。

 だって自分がそうやって食い物にされ食い物にされ、逆に食い物にして踏み躙らなければゴミ溜めに逆戻りしてしまうのだから。

 連絡は電話で。

 形に残らないようにして。

 あとは結果が出るまでのんびり待てばいい。

 なにか証拠が上がっても事務所がケツを拭いてくれるのだ。

 今はまだ、事務所はapplause(アプローズ)を切り捨てない。

 その確信があるうちに――。



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― 新着の感想 ―
年長者が考える事かいなと思いますが、 思考回路がダメなパターンの人なんですねぇ。 アプローズの振り仮名タグがうまくできてないみたいで、ちょっと気になります。
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