松田と鏡音のコラボ配信(2)
『やった!』
『次のラウンドでも抜けないようなら、相手チームと一緒にボコします。そこまでツラの皮が厚い人だったら救いようがないですが、チートソフトに手を出すような人がまともだとも思えませんけれど』
『マジで許せねえ! 次のラウンドにもいたらぼっこぼこにしてやんよ!』
『そうですね。チーターに遭遇した場合の対処方法として切り抜きを作っていただけるように、冷静に対処して二度とヴァロランドでチートが使えないようにしっかり思い知らせましょう。しかし……まさかランクマッチでチートを使うなんて……。チートを使ってランクを上げて、意味あるんでしょうか? まあ、本人がそれで楽しいからやっているんでしょうけれど……』
つまりあのチーターは、プレイヤーのランクを上げるランクマッチでチートを使ってランク上げをしている、ということらしい。
それは確かに恥だ。
普通の人間の感覚からすれば、自分の実力の基準になるところでイカサマをしてはどう考えても自分のためにならないのに。
「あ、見入っちゃってた。ダメだ、勉強勉強」
聞き流すつもりでつけていたのについ画面を見てしまった。
ノートに視線を戻して、夏休みの宿題に意識を向ける。
(しかし……鏡音くんって本当にゲームなんでもすごいんだな。FPSってあんまり興味なかったけど、今度教えてもらおうかな)
なんてことを考えながらシャーペンを走らせる。
普通の高校に比べて宿題の量は少ないが、まったくないわけではない。
あと一年、学生の本分はあくまでも勉強なのだから、頑張ろうと気合を入れ直す。
弱い自分に負けたくない。
神野栄治のように、最後の瞬間まで過去の自分に勝利し続ける人生を送りたい。
『チーターバレしたのにいるね。あとはチーター消化試合だから、みんなチーターボコすのを眺めて楽しんでね』
『す、すげー』
タブレットからは二人のそんな話し声が聞こえてくる。
五回勝負らしいゲームは残りの三回のラウンドをチーターを追い回しては敵味方全員で潰しているらしい。
そのあまりにも爽快なフルボッコに、つい、また魅入ってしまう。
コメント欄も大盛り上がり。
『最近チーター多かったからスカッとする!』『ザマァァァッ!!』『ナイスー!』『いけいけ!』『やったれ!』『チーターは滅べ!』『二度とヴァロランドやるな!』と、ヒートアップしている。
最後まで気は抜けないと思っていたが、そのまま五ラウンドまで居座ったチーターは敵味方全員にフルボッコになって消えていった。
最後のラウンドで敵味方全員から通報を受けて。
それにヒートアップしていたコメント欄が、お祭り騒ぎ。
『今日は本当にありがとうございました!』
『こちらこそ。せっかくのコラボなのにチーターに構いっぱなしになってしまい、申し訳ありません。もしよろしければ、また今度改めてFPSやりませんか? 別に配信外でもいいですし、アイペックスもやってみたいですし』
『えええ!? い、いいんですか!? ぜひ!』
『ん? 配信しろ? ……うちのリスナーがFPSやるなら配信してほしいみたいなので、またコラボ配信しましょう。最近格ゲーばっかり配信してたので、飢えさせてしまっているらしくて』
『わかります。俺も鏡音さんのFPS配信見るのすっごい好きなので。やっぱり鏡音さんといったらFPS配信ですよねー』
『そうですか? でも確かに……定期的にやらないとやっぱりエイム落ちてる気がするし、知らないうちに新しいエリアもできていますし……やりますか、また週に二回くらい』
『本当ですか!?』
声が弾む松田。
鏡音のコメント欄もフェスかというくらいに『FOOOOOOOO!』『やったあああ!』『嬉しい!』と高速コメントの川流れ状態。
しかし『あ、でも今月はIG夏の陣があるので、来月で』とスケジュールを確認しながら告げる鏡音。
それはそう。
『あ、そっか。IG夏の陣かぁ。それは忙しすぎて無理だよね』
『そうですね。IG夏の陣はもう来週なので……。今週はできるだけ配信したいと思いますが、十五日から十七日まではIG夏の陣で配信できません。できれば、うちのリスナーさんにもIG夏の陣で星光騎士団を応援していただきたいです。本っっっ当に頑張ったので……』
『そうだよね。夏の陣は本当に大舞台だもんね! もちろん俺も応援するよ!』
『ありがとうございます。先輩たちには“夏の陣が終わったあとの一週間の方が肉体的にも精神的にもえぐい”って言われてて……今から怖いです……』
『あ、それうちの事務所の先輩も言ってたなー。うちの事務所、芸能事務所の春日芸能事務所の子会社みたいなモンなんだけど、今年三連覇のかかるBlossomがいる事務所なんだよね。それで、リーダーの綾城くん、IGのあとは過労で毎回入院してるって』
『か……っ、過労で入院……!?』
あのいつも冷静な鏡音もびっくりしている。
が、淳も去年の夏の陣直後は過労で入院したし、八月いっぱいは体を回復させることを最優先に指示されていた。
実際、三日間連続の対バンライブは肉体的にも精神的にもものすごい疲労感。
なにより、例年の酷暑がいくら鍛えていても体力気力を削られる。
鏡音も松田も、あの地獄をまだ知らない。






