表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

395/553

ドルオタの沼へようこそ


「じゃあ、申し訳ないけれどあとのことはお願いしてもいい?」

「もちろんです。レッスン頑張ってください」

 

 まだ不安そうだった千景も桃花鳥(とき)の強さを見てしまったあとなのでだいぶ落ち着いた様子。

 ユニットメンバーの選出も無事に終わったので、そのまま楽曲をどのユニットで歌うかを決める。

 楽曲は五教科分。

 仲良く地獄に落ちていただきたい。

 

「さてと、次の予定は……あ、今日から乙女ゲームの収録だっけ」

 

 春日芸能事務所のタレント全員同時に売り出すのが目的の、アプリの乙女ゲーム。

 主要の攻略対象はBlossom(ブロッサム)綾城珀(あやしろはく)Frenzy(フレンジー)石動上総(いするぎかずさ)

 淳は声質的に主人公を慕っている後輩役。

 新たにVtuber組の参戦も決まったので、タイトルを仮名称に戻して再検討がなされている。

 シナリオは元脚本家の槇と、女性向けの作家やライターに依頼しているらしい。

 声だけの演技は初めてなので、ちょっと楽しみだったりする。

 駐輪場に向かうと、なんと智子とLARAが待っていた。

 

「智子ちゃん? どうしてここにいるの?」

「お兄ちゃん……! ごめんなさい、禁止されてる出待ちしちゃって! でも、あのね……」

 

 二人とも不安そうな顔をしていたので、ひとまず話を聞くことにするが、駐輪場は芸能科の生徒以外立入禁止区域。

 二人の背中を押しながら、校門の近くまで連れて行く。

 というか、本当に定期ライブ、一緒にきたのかこの二人。

 智子、ドルオタ根性極まりすぎていないか?

 

「で、どうしたの? ごめんだけど、お兄ちゃん今から収録のお仕事があるんだよね」

「あああ、そ、そうなんだね。本当にごめんね。えっと、実はね」

「うん」

 

 屋台でわたあめを買い、二人に与えながらベンチに誘導する。

 お客さんの視線が痛いが仕方ない。

 アイドルに話しかけるのがOKなのは、アイドルがジャージまたは衣装を着ている時だけ。

 制服姿は話しかけるのNGという学院内ルールがある。

 わかっている人はチラチラと淳を見ているが、話しかけてはこない。

 

「実は今日、鏡音くんの誕生月ケーキが買えたんだ」

「え、すごいじゃん」

「うん。だけど親子みたいな人たちに私の分もLARAちゃんの分も盗まれたの」

「えっ」

 

 親子、という単語に思い浮かぶのは苳茉葵(ふきまあおい)の母姉妹。

 あの親子、ガチの犯罪に走りがち。

 というか、すでに被害が出ているのであの親子、出禁になっている。

 

「えっと……それって派手なお母さんと姉妹の三人組?」

「そう!」

「そうよ! 智子ちゃんに言われて朝早くから並んで整理券ももらってやっと買ったのに! ひどくない!? 鏡音くんの誕生日ケーキ、片森洋菓子店で買えるのに!」

 

 LARA、ガチギレ。

 まあ、ガチ恋勢のLARAにとっては鏡音の誕生月ケーキは本当にほしかったものだろう。

 それを奪われて半泣き。

 

「警備員には言った?」

「言ったけど、現場を見てないからなんともって言われた」

「あー……うーーーん……」

 

 警備員は基本的に犯罪抑止スタッフ。

 起こった犯罪については警察である。

 もちろん、警備員は積極的に通報する義務があるのだが。

 

(鏡音くんの件で警備会社が変わったって聞いたけど、質自体はあまり変わってないんだな……まあ、仕方ないかもしれないけれど)

 

 ただ防犯カメラの台数は増えているので、もしかしたら現場近くのカメラに映っているかもしれない。

 またトラブルに関しては校内に対応室があるので、そこに行ってみてほしい、と伝えて立ち上がる。

 

「一緒に行ってあげたいけど、マジで時間がない。ごめんね、智子ちゃん」

「ううん。大丈夫。場所は知ってるから! ありがとう、お兄ちゃん」

「片森洋菓子店に同じレシピでプロが作ったものが売っているから、帰り道に寄ってみるといいよ」

「ううう……! LARAは鏡音くんが作った誕生日ケーキを食べたかったのに〜!」

 

 叫ぶLARA。

 物販で売っているケーキは星光騎士団メンバーの手作り。

 当然数量限定。

 それを盗まれたとあればキレないドルオタはいない。

 まして、推しの誕生日月ケーキ。

 絶許である。

 淳もその気持ちは大変に理解できるが、生菓子なので転売はまず不可能。

 ただ、口にはしないがLARAの発言には心の中で言い返しておいた。

 

(鏡音くんは個数の確認とラッピングしかしてないんだよなぁ……)

 

 まだケーキ作りに参加させられるほど、上手くないので。

 

「落ち着いて、LARAちゃん! 誕生日月のケーキは手に入らないことが普通だよ! 今日はたまたま運良く手に入ったけれど、来月八月には後藤琥太郎先輩の誕生日があるからね! IG夏の陣のあとだし、後藤先輩は三年生だから今年がラスト! 気合入れて買いに行くんだよ! 基本的に誕生日月の人はケーキ作らないしね!」

「え!? そうなの!? じゃあ、あのケーキも別に鏡音くんが作ったわけじゃないの!?」

「そうだよ。誕生日の人を祝うために他のメンバーが作ってくれるの」

「な、なんだ。そうなんだ。じゃあむしろ来月の後藤さんのケーキに鏡音くんの手が入るんだね?」

「そうそう。そしてIG夏の陣では新グッズが販売開始だよ! ついに一年生のサイン入りグッズが解禁されるの!」

「絶対買う~!」

 

 宇宙猫になる淳。

 まあ、元々モデル時代はご近所さんということで会話自体はしていたしな……。

 それでもまさか、推し活でこんなに仲良くなるとは思わないだろ。

 

(でも……来月も……鏡音くん、どうだろうな……お菓子作り……)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【宣伝】
『不遇王子が冷酷復讐者の手を掴むまで』(BL、電子書籍)
5cl9kxv8hyj9brwwgc1lm2bv6p53_zyp_m8_ve_81rb.jpg
詳しくはヴィオラ文庫HPまで

『国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!』アンダルシュノベルズ様より発売中!
g8xe22irf6aa55l2h5r0gd492845_cp2_ku_ur_l5yq.jpg
詳しくはホームページへ。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ