アイドルなので
そんな鏡音の可愛い一面にステージのお客さんも微笑ましいものを眺めるモードになる。
ツンデレかわええ、と呟く逢魔。
「ツンデレとかじゃないです」
「これがツンデレかあ。勉強になるなぁ」
「響くんまで……」
響きが今演じているBLドラマの主人公がツンデレなので、ツンデレのサンプルはなんぼあってもいい。
鏡音をいじりつつ、三十分ほど初心者向けSBO攻略についてのトークを続ける。
「――ありがとうございました~。ドカてんとナッシー以外はゲーム初心者だから、プロの方に詳しく教えていただけるの助かりました~」
「いやいや、こちらこそ。っていうか、運営さんにも言わんでこんな割とガッツリとした攻略トークしてよかったん?」
「SBOのステージ規約にはステージの使用に関しては特に制限がありません。そもそもステージ予約の際に『ライブパフォーマンス』『カラオケ』『トークライブ』『ダンス』『演劇』などのカテゴリ選択ができますので、今回『トークライブ』という形で申請してありますから、大丈夫ですよ」
「あ、そうなんか。へー、そんなカテゴリ選択とかもできるんや。っていうか、ダンスや演劇もオッケーなんか。結構幅広くオッケー出されるんやな」
「本当にそうですよねー。ちなみに漫才やコントは『トークライブ』カテゴリだそうですよ。そういった活動をされている方もご利用できるそうなので、ステージの予約はお気軽に、とのことです。カラオケはそのままサーバーへの歌バフになるので特に推奨されていますね」
「へー」
やはり一般人が大衆の前でステージに上り歌を歌うというのは、ハードルが高い。
だからステージの利用方法を限定せず、選択肢を増やした。
まあ、相変わらず利用者はさほど増えてはいないようだけれど。
「ほな! 最後にもう一曲星光騎士団に歌ってもらって終わりにしよか! ワイのリクエスト聞いてくれるんやろ?」
「いいよぉ。今日はたくさん教えてもらったしねー」
「言うてワイ、星光騎士団の曲知らんから、ワイのリスナーのリクエストなんなけどね、『雪月風花』って曲オススメされたんよ」
「十二代目星光騎士団の専用曲じゃないですか! 逢魔さんのリスナーさんわかってらっしゃる……!」
「わかってるぅ〜〜〜♪」
「え? なに? 有名な曲なん? なに? 十二代目の専用曲って。ええ……? 何代目とかあるん? リクエストして大丈夫なん?」
親指を立てる淳と宇月。
その理由は実にシンプルで、十二代目の専用曲は神野栄治、鶴城一晴、蔵梨柚子、佐藤日向、大畑春馬、雨宮隼、綾城珀という淳と宇月の推しが揃っているのだ。
純粋に今でも通用する曲調でもある。
鶴城のおかげでいわゆる和風ロック調。
「あ、でもドカてんとナギーは歌えるっけ?」
「「教わりましたー」」
「じゃあ一年たちは初お披露目ってことで〜! こんなサービス滅多にしないよぉ? 来月にはIGあるんだからぁ。お披露目するなら普通そこなんだからねぇー?」
と言ってステージに設置してあった椅子を消す宇月。
さらに衣装アバターもお気に入りの中から変更。
十二代目の専用衣装ではないか。
なお、この『何代目専用衣装』は衣装自作のできた神野の代から始まったもので、神野栄治オタクの淳がSBO内の公式ショップでアバターとして販売してよいか許可を得ておりゲーム内でのみ復活している。
今代もちゃんと専用衣装が製作中。
夏の陣でお披露目の予定。
そしてその専用衣装もアバターとして販売予定で製作中。
そのあたりはまだ情報開示前なので言わないけれど。
「えー! なんですかその衣装……!」
「東雲学院芸能科公式ショップで買えるアバター衣装だよぉ」
「あ、もしかして全員買ってない感じ?」
「ショップの存在は知ってたけど、衣装があること自体知らなかった」
「同じく……」
「オレも知らなかったです」
「知ってたけど、買ってなかった」
「なんでだよぉ! 買えよ! 星光騎士団の人間として! 今すぐ全員買ってきて揃えろ! 団長命令!」
「「「「「はい!」」」」」
なんと、宇月と淳以外誰も星光騎士団のアバター衣装を買っていなかった。
通常衣装は全員分揃えて配布済みだが、それ以外はショップで購入しなければならなかったので。
だがまさか、誰も買っていないとは思わなかった。
衣装作りが好きな後藤まで買ってなかったのは少し驚いたけれど。
宇月がブチギレで淳以外の全員をステージから叩き出す。
とりあえず思わぬ事態になってしまった。
「や仕方ないからー、あいつらが衣装を買ってくるまで僕とナッシーで星光騎士団伝説のコンビ、鶴神コンビの専用曲『Engage天輪』を歌うよぉ。和風ロックなイケイケ曲だから、僕らが歌って気に入ったらワイチューブの星光騎士団チャンネルにあるMVとか聴きにきてねぇ?」
「あ! いいですね! 歌いましょう! ちなみに『Engage天輪』、アイテムドロップ率上昇バフなので欲しいアイテムがある方は今のうちに転移してくださいねー」
淳が声をかけると、攻略を聞きにきていたプレイヤーが嬉しそうにメニュー画面を開く。
ポツポツとステージの前から人が消えて、淳と宇月がアイコンタクトで頷き合う。
「それじゃあ、残った人はライブ見てってくれるってことで! 聴いてねー! 鶴神コンビで『Engage天輪』!」






