東雲学院芸能科成績向上委員会発動
「では改めて、東雲学院芸能科から大事なお知らせが三つありまーす。一つ目は魔王軍、茅原一将から発表していただきましょう~! どうぞ~」
『なんでだよ! 企画主催はお前だろう!? 自分で発表しろ!』
「残ね~ん。馬鹿自ら言ってくれた方が面白いって思ったんだけどな~。はい、というわけでお知らせ一つ目は僕、宇月美桜主催の企画発動!! 『東雲学院芸能科成績向上委員会』~~~~!!」
モニターに『東雲学院芸能科成績向上委員会』とパネルが表示される。
ざわつく客席。
思い切り目を背ける学力に自信がない奴らと、初めて存在を知る一、二年の丸い目。
知っていた魁星と柳と鏡音の絶望で汗だくの顔。
「はい、では説明しますね。まず……うちの学校今馬鹿が多すぎる!」
なんの装飾もなく一刀両断。
後藤と淳が思わず天を仰ぎ見てしまうくらいには容赦ない。
客席も笑っていいのかわからず困惑しているではないか。
「僕とごたちゃんは成績十位以内だし、クオーとナッシーは学年首席と次席ということで星光騎士団は割と成績いい組が揃っているんですけどね、だから先生に『今の二年生と一年生の平均点が未だかつてないほど低い!』と相談を受けました。僕としては『知らんがな!』って感じなんですよ~。アイドル活動と無関係じゃーん。本人の勉強不足、努力不足が原因でしょー? なんで僕にそんなこと言うの~? 面倒を押しつけないでほしいでーす。って思いました。僕だって許容量ってもんがあるからねぇ。星光騎士団の団長として来月のIG夏の陣のことを考えたい……夏の陣のあとは団長引退だし、今年で最後なんだもん……」
しんみり……。
空気がそんな雰囲気に包まれる中、「でもね」と言いつつスッと宇月の瞳が見開かれる。
ついでに言うと殺気も纏っている。
完全に本性隠さなくなった瞬間と言っても過言ではなかろう。
ガクガク震えながら床に目を背ける魁星。
トラウマがめちゃくちゃ更新されている。
「いたんだよね。星光騎士団に。馬鹿が。三人も」
「「「……………………」」」
一年生ズ、居た堪れなさから顔が完全に宇月と逆方向。
客席が「あ……」と察した空気。
「僕やナッシーたちが卒業して、ドカてんとナギーの世代になったら歴史ある星光騎士団が馬鹿の集団になると思うとなにもしないわけにはいかないんだよねぇ!!っていうわけで不安の芽はここで摘み取ります! 社会に出たら学校で学んだことなんて役に立たないかもしれないけれど、それはそれとして学生の本分はどうあがいたって勉学です! 聞こえるか全校生徒の中の馬鹿ども! アイドルしたいなら勉強もしろ!! いいだろう、そういうことなら全校生徒全員面倒見てやるよ! 以上の理由から発足しましたその名も『東雲学院芸能科成績向上委員会』!! 委員長宇月美桜! 副委員長、狗央周! 執行委員、音無淳、御上千景、桃花鳥咲良、桜屋敷太陽、苳茉葵でお送りします! 概要の説明、副委員長の狗央周!」
「はい。本委員会は東雲学院芸能科全体の学力向上を目的として発足いたしました。個々の勉強の仕方の相談の受付の他、今回の期末テストで最下位だった一年生、二年生、三年生のメンバーの成績の発表及び全学年ワースト二十五名からランダムでメンバーを選出し、『不名誉』『バッカ隊』『底辺』『学力ゴミーズ』『Nobisiro』の五つのコラボユニットを結成していただき、学力向上ソングを歌っていただきます」
めちゃくちゃどよめく。
多分聞いたことがないレベルのどよめき。
実際結構言っていることえげつない。
主にコラボユニット名が。
『待て待て聞いてねぇ!!三年も!? 俺たちも!?』
「そぉだよぉ、馬鹿代表麻野ルイ」
他人事のように聞いていた麻野が野外ステージから叫ぶ。
一年、二年だけでは恐怖が足りない……と判断したのもあるが、気が抜けている三年への喝入れと、コラボユニットによる一、二年への三年の技術継承も目的にある。
『SAMURAI』や『Walhalla』などの一つの学年で固まっているグループは先輩との交流が少ないので、そういうグループが三年生と交流してパフォーマンスを向上できれば、という配慮だ。
また、成績下位というランダム性も重要。
人気の高いグループや個人と、人気の低いグループや個人が入り混じることで知名度のアップも狙える。
まさに一石二鳥、三鳥の企画となっているのだ。
『待て待て! そんな、コラボユニットとか、そんな暇ねえぞ!』
「まだ抵抗しようっての? 麻野は本当に馬鹿だよね~。残念だけどぉ、これは学院側の依頼込々の企画だから全生徒強制参加だよぉ♡ 学院側でスケジュールの調整が行われるので、選出された生徒に拒否権はありませーん」
『はあああああああああ!?』
半泣きになった麻野の叫びに心当たりがある生徒がステージ上で同じく涙を滲ませ始める。
なんかもう、この時点で麻野は参加なんだな、とだいたいのお客さんが確信したことだろう。
「コラボユニットに時間を取られたくないなら次の夏休み明けの中間テスト頑張ればいいの。ちなみに御上千景くんがテスト範囲や覚えるべき内容を楽曲にしてくれたから、コラボユニットにはそれぞれの教科の覚え歌を歌っていただきまーす。強制でーす。次回の中間テストでの全校生徒ワースト二十五人には、コラボユニットを引き継いでもらいまーす。そういうサイクルでいくので、みんなちゃんと勉強しましょうねー」
宇月のにこやかな笑顔に震えが止まらない馬鹿たち。
無慈悲にもそのまま「それでは不名誉極まりない初代ワースト二十五位の発表を行いまーす」と言い放つ。
パチンと宇月が指を鳴らすと、周がタブレットを取り出して「最下位から発表します」と続く。






