SBO実況生配信(4)
「はあ~。つまり円がそんなことになっとんのって学校でアイドルとして学んで社交性を身に着けたんやな~。チーム練習に来るとだいだい淡々とロボットみたいに敵を処理していくマシーンやったもんな~」
「最初の頃、ロボットダンスみたいだったもんね~」
「うう……」
「今はだいぶ踊れるようになったもんね」
「す、すみません」
「え~~~~~~~~~~~~~~~~!? 円お前そんな顔できたん!? え~~~~、可愛いやん~~~! お前そんな可愛い顔と反応できたんかお前ぇえ~~~。衛ちゃんの前でばっか可愛いんだと思ったわ」
「別に……」
思いっきり目を逸らす鏡音。
双方のコメント欄がまたも流れが速まる。
『可愛い』『かわいい』『鏡音くんかわいい』『ドカてん可愛すぎ問題』『可愛いがすぎる』『円くんこんな可愛かったっけ?』『あまりにも後輩』『末っ子出てる』『可愛い後輩や』等、リスナーも鏡音の可愛いに気づいた。
鏡音は可愛いんだよ、と頷く先輩たち。
しかし逢魔側のコメントはざわついている。
ある意味入学前から知っている層だからこそ、今のいい方向に成長した鏡音は意外に見えるのかもしれない。
「えー、そっかそっか。ほな、そのなんやっけ、始まりの町にあるステージでライブとかするん?」
「今日は予定ありません」
一刀両断。
いつもの鏡音すぎる。
「え~~~! 見たい~! 円ちゃんが歌って踊ってアイドルするところ、おいちゃん見たいな~!」
「今日はその予定はありません。本日は星光騎士団チャンネルの皆さんに、ゲームでレベル上げをしている先輩たちと響くんの姿をお見せする配信ですので」
「え~~~~! ええやんええや~~~ん! 見たい見たい! 先輩の人、ライブとかせんの?」
「え~~~~。じゃあダンジョンボス狩ってもらいますぅ? ドカてんとナッシーに」
「「宇月先輩……?」」
めっちゃぶりっこしたままなんか言い出した。
淳と鏡音にやらせたら秒で終わるって。
だというのに「歌バフかける時にフルで歌って踊ればよくない?」という無茶ぶり。
しかしドルオタ的に歌って踊りながらダンジョンボスを倒すアイドルとか超見たい。
その欲求の方が勝ってしまったのでにやけながら「しょうがないですね。ね、鏡音くん」と武器を取り出しながら言う。
鏡音にはすっごく「裏切るんですか」という顔で見られたけれど、「せっかくログインしているのだから少しくらい戦いたくない?」と聞くともごもごしながら目を背けられる。
やはりゲーマー、なにもせず初心者の介護プレイばかりはやはり飽きるのだろう。
まあ、飽きるに決まっているんだが。
「ね。ちょっとくらいいいんじゃない? 俺では相方役は物足りないと思うけれど」
「そんなことはないと思いますけれど……」
「じゃあ、サワガニ狩りはいったん中断してダンジョンボス狩りに行きますね。視聴者の皆様はご不満に感じる方も、中にはいらっしゃるかもしれませんが……」
とカメラに向かって心配そうにする。
だがコメ欄は肯定意見がほとんど。
逢魔のコメント欄も歓迎ムード。
「あれ、音無クンも一緒に行くん?」
「音無先輩はオレよりレベル高いので」
「え!? そうなん!?」
「そうなんですけど、俺はSBOがリリース当初からやっているんで開始数時間でレベル追いついてきた鏡音くんがヤバいですね」
「それはそうやろ。お前そんなことしたん?」
「逢魔さんも初期装備のままここまで来ているってことは、歌バフもなしにプレイヤースキルでごり押ししてきたんじゃないですか? 今レベル幾つです?」
「な、なはーーー! バレとる! まあ、うんそう。今ちょうどレベル38!」
初期装備のままレベル38?
目が点になる淳。
ゲームあんまりしない勢にはわかりづらいかもしれないが、SBOは歌バフが前提で強敵と戦うゲームである。
エイランも『エルミー ――が歌得意じゃなかったら、こんなにやり込まなかった」と言っている程度には歌が苦手なプレイヤーには難しい。
特に、歌なんて歌う機会をスルーしてきたプロゲーマーという生き物は。
そんな中でもサードソング近くの『川流れ』まで歌バフなしの、プレイヤースキルのみでここまで来ているのは異常だ。
(プ、プロゲーマーってやつは……)
もはや生き物としてのスペックが違うようにすら思う。
恐ろしくてちょっとゾッとしてしまった。
「歌バフなしでここまで来たの頭おかしいです」
「そんなこと言われても、ワイ歌なんて歌えへんモーン」
「歌みた出しているのになにを言っているんですか? しかも生配信ですよね? リスナーの方々に期待させるだけ期待して歌わないのは失礼なんじゃないですか? 逢魔さんのリスナーさん、逢魔さん歌ったんですか?」
という辛辣な問いかけに、逢魔リスナーからは『歌ってない』『期待を裏切られている』『マジそれな』『鏡音に見抜かれとる』『本当にそれな』『歌ってないよ』『歌ってないのバレてる』『そうだよ』『歌えよあげは』『あげはの歌期待してたよ』という不満コメントがものすごい勢いで流れていく。
それを見て、乾いた笑いで顔を背ける逢魔。
「いや~、それはほら……いや、ソロで歌いながら戦うとか無理やん!」
「音無先輩はできますよ」
「慣れればできますよ」
「淳、歌って踊るのは慣れればできますが歌いながら戦えるのは多分このサーバーで淳だけです」
「それな」
「普通できないからね?」
「なんのためにナッシーとドカてんに歌バフ担当お願いしてたと思っているの?」
「あ、淳先輩が異常ですよー」
「あれ? 急な手の平返し……」






