SBO実況生配信(1)
それから五日後。
テストの結果も出揃い、一年生たちも無事に平均35点をクリアした――できないとかなりマズイクリア設定点数だったけれど。
「みんな~! こんみお~☆ 三ヵ月ぶりに予定のない夜に配信に頑張って参加しようとしたごたちゃんを強制的に休ませることにした結果! 僕、宇月美桜とぉ!」
「音無淳と~」
「花房魁星と~」
「狗央周と」
「柳響とー」
「鏡音円の六名で」
「SBO実況生配信をすることになったよ~ん! まあ、ほぼフルメンバーだね~」
開始は十九時。
生配信用のカメラを浮かべながら、六人で配信を開始した。
カメラの横にはコメントと閲覧数などが光の文字という形で表示される。
あまり期待はしていなかったが、告知をしていたおかげですでに三桁の閲覧数に達しており、どんどん増え続けていた。
宇月、閲覧数を見て「え、生配信ってこんなに人が見に来るんだ……」と目を丸くして呟いてしまう。
普段は動画の投稿しかしないうえ、閲覧数が数字として見えることがないので新鮮なのだ。
淳も周も魁星も「へー」と大口を開けて閲覧数を眺めてしまう。
「先輩たちは生配信初めてなんですか?」
「「「初めて~」」」
「初めてですね」
「僕もこういうの初めて~」
「え……オレ以外全員初めて……?」
思わず頭を抱える鏡音。
ゲーム実況で生計を立ててきたと言っても過言ではない鏡音には、初めてメンバーがこれだけ揃うとびっくりだろうか。
「じゃあ、俺がリードしますね。っという感じでオレ以外全員ゲーム実況初めてでぐだるかもしれないんですけど、温かい目で見守ってください。ではそんな初めての人がたくさんいる中やっていくゲームですが、去年発売されたばかりのフルフェイスマスク型VR機対応のVRMMO『SBO』を遊んでいこうと思います。このSBOは歌を歌うことで複数のバフがプレイヤーを補助してくれる特徴があり、初心者もレベルを上げなければ戦えないような敵と戦うことができるのが特徴です。システムはスキルツリータイプを採用しており、プレイヤーと武器、防具、装飾品の四つのスキルツリーを育ててより強力なダンジョンに挑む――というのが現在の概要ですね。ちなみにリリース以降、レイドイベントも定期的に開催されており、始まりの町『ファーストソング』に設置されたステージでライブ形式に歌うことでサーバーにいるプレイヤー全体に歌バフがかかるという面白いシステムもあります。オレが今通っている東雲学院芸能科のアイドルはSBOというゲームと提携してゲリラライブが行われることがあります。ちなみに、同じく『ファーストソング』に東雲学院芸能科公式アバターショップがあり、ライブに使えるグッズの他、在校生アイドルのグッズも販売中です。オレたちが今着ているアバター衣装も、そちらで販売しているのでインストールした際はぜひお立ち寄りくださいね」
非常に滑らかに宣伝含めてゲームの概要まで全部言った。
普段からは考えられないほど鏡音が喋っているのにびっくりだ。
「なんか収録しているみたいだけど、コメントが見えるから見ている人がいるんだね」
と、柳がカメラに向かって手を振ると、コメントが早くなる。
『かわいい』『ファンサ嬉しい~』『あああああ』『神ファンサ』と、コメントを見た柳が嬉しそうに「え~、僕可愛い? 宇月先輩の方が可愛くない?」と照れながらまた手を振るのでさらにコメントの量が増えた。
ついでに一気に視聴者数も増えた。
ファンサ完璧すぎた。
「生配信の醍醐味も理解してもらえたところで、本日挑戦するダンジョンはサードソングの近くにある『川流れ』です。推奨レベルは15~30。断崖絶壁の入口から入ると全長五キロにも及ぶ渓谷を模したダンジョンで、沢蟹や小魚を模したモンスターが出現します。今回はサードソングで受注したゴールドサワガニを十匹狩ります。なお、オレと音無先輩はレベルが60越えちゃっているのでバフかけに徹します。……ダンジョン破壊しかねないので……」
「そうだね。このダンジョンだとデバフ受けても一撃で葬ってしまうね」
「ナッシーなんでそんなにレベル上がってんのぉ!? そんなレベル上げする時間なくない!?」
「鏡音もなんでそんなにレベル上がってんのぉ!? ゲーム始めたの今年からだよねぇ!? なんでジュンジュンと同じくらいになってんの!?」
「俺は東雲学院芸能科のアイドルがライブする時はだいたい隙を見てログインしますよ」
「自分は効率重視なので、レベルができるだけ高いダンジョンでレアアイテムドロップからの周回ですね」
ゲーマーの効率厨ぶりはエイランとエルミーで見て知っていたが、すでに淳とレベル差がないほどにレベリングを終えているとは。
先輩たちドン引きである。
「そういうわけなので、効率重視の自分はあまり皆さんの思うようなプレイができないかもしれません。今日はゴールドサワガニ10匹討伐クエストがメインではありますが、柳くんと先輩たちのレベリングも目的なので」
「そうだね。今日は俺と鏡音くんの歌バフメインに、みんなが戦うところをみなさんに観ていただこうと思いまーす」
「ぐだりそうだったらオレが単身でダンジョンボス狩ってみた~に変更するので、ご安心ください」
「そうならないように温かく見守ってくださいね~」
カメラに手を振る淳と、早々に自信喪失し始めている宇月と魁星と周と柳。
その様子を眺めて代替え案を提示する鏡音。
ここのダンジョンボス、一応レベル45。
それでも鏡音のレベルよりも低いので、おそらく一撃二撃で倒せる。
まあ、本当にグダグダになったら最悪そうしていただこう。






