ゲームのプロ(2)
人間じゃないって言われた。
だが、ゲーム業界では本当に有名らしい。
「プレイヤー名は『エイラン』なので、先輩たちも会ったことがあると思いますけど」
「あの人ぉ!?」
SBOダンジョン『井の中』で出会ったプレイヤーだ。
蔵梨柚子ことエルミーと共に行動をしていたが、あの人がプロゲーマーの中でもトップだと。
「もちろん他のチームのプレイヤーも上手い人がたくさんいるんですけれど、五十嵐先輩はその中でも本当トップレベルだと思いますね。日本のプロの三本指に入るかと」
「え? じゃああの人と一緒にプレイしてた蔵梨様、やばくない?」
「え? ……え?」
二回聞き返された。
当時はまだ淳たちが一年生だったので、鏡音たちはいなかった。
ので、蔵梨柚子オタクの宇月が丁寧にその時のことを話す。
「え……な、何者ですかその人……。五十嵐先輩にそこまで言わせるってガチでとんでもないプレイヤーですけど」
「やっぱり蔵梨様やばいんだ」
「やばいですね」
やばい認定された。
確かにやばかったけれど。
なんかやばいの方向性に新たなやばいが加わった感じである。
「SBOでもプレイしているって聞いてましたけど、本当に遊んでるんですね。自分はまだ五十嵐先輩と遭遇したことないのに……」
「なになに、ドカてんはその五十嵐さんに憧れてるって感じなの?」
「それはもう! あの人なんでも上手いんです! 初めてやるゲームも二分くらいボコボコにされても五分経つと既プレイプレイヤーが勝てなくなるくらいで……自分も得意なFPSを教えたことがあるんですけど、十分後に立派な戦力には育ちすぎててビビりました! 世界ランカーの試合に連れて行ったら五勝五敗の五分五分に持ち込んだんですよ!? 人間じゃないですよ!」
よくわからないが、世界ランカー同士の戦いで初心者が初めてプレイしてその結果だったらもうビギナーズラックとかいうレベルではない。
間違いなくやばい。
「あ……ゲームで思い出したんだけど、うちの事務所社長からSBOの一周年記念で新機能とか色々実装されるんだって。その時に事務所から出演予定なんだけど、ゲーム詳しい鏡音くん、一緒に出ない? 多分誘っても怒られないと思うんだ」
「え!? いいんですか!? ぜひ! いつですか!?」
さすがゲームが関わると目の色とやる気と食いつきが違う。
じゃあ確認してみますね、と電話をかけてみる。
すぐに社長が電話に出てくれたので、事情を話すと即OKをくれた。
その時に一緒に行動してくれればいいよ、と。
「いいよーって」
「ええ……あっさり……」
「もー、ナッシー、そこはスケジュールの合う星光騎士団全員参加していいですかー? って聞いてよー。ちなみに僕とナッシーは引き継ぎ準備を開始するのでこのあと時間くださーい」
「は……はーい……」
引き継ぎ? と一瞬目を丸くしてしまった淳。
だがすぐに「ああ……! 星光騎士団の……!」と察した。
夏の陣以降、団長の座は淳に譲られる。
リーダー譲渡式などは特にないが、定期ライブでしれっとリーダーの交代が告げられるのだ。
綾城から宇月に引き継いだ時も夏の陣のあとの八月の定期ライブ――いつものお客さんも割と疲れが抜けてない状態だったの時にさらりと「団長引き継ぎましたー」と宣言した。
去年は新規がかなり流入してきたので、かなり騒ついていたけれど。
「そういうわけで一年どもも色々準備しておいてねー。お前ら両方忙しいから、グループの仕事内容ゆっくり教えられてないけどぉー、そろそろちゃんと覚えないとしんどいからぁ。まあ、ドカてんかなり機材詳しいから大丈夫だけれど」
「そこまでではないですけれど……でも、配信で必要なので」
「はい」
「はい? なに? 周」
突然の挙手。
挙手したのは周。
全員が「どうした」とばかりに周の方を見ると、ものすごい真顔で「ゲームの実況配信をしてみませんか?」と提案された。
キョトン、となる一同。
「SBOですか?」
「はい。最近のVRMMOはだいたい生配信ができる機能があると聞きました。我々が全員共通でできるゲームというと、SBOしか知らないので」
「えー、でもなんでぇ? ライブじゃなくて星光騎士団でゲーム実況配信? する必要あるぅ?」
確かに。
なんでわざわざゲーム実況配信を?
「鏡音くんの話を聞いて思ったのですが、我々が一年生の頃にやってきたMCの練習になるのでは、と思いました。咄嗟の事態の時の処理など……。それから、ゲームの中なら普段の我々には無理な演出もできます。これはライブの話ではなく、ゲームならでは、の話です。先日SBO内で星光騎士団メンバーを騙って女性プレイヤーに声がけをする不届者を成敗してきた時に思ったのですが、一度堂々とレベリングしているところを見せた方が早いのではないかと思ったのです。あと、リアルの姿のままゲーム内のアバター衣装を纏って戦うアイドルの姿というものは、オタクには効くかと感じまして」
「待って。オタクの心を弄ばないで。本当にそれは効く」
怖い。周怖い。
この子、つい去年までオタクのオの字も知らなかったのに。
今やオタクの生態を理解して、特攻かけてきやがる。
なにこれ怖い。
「確かに〜! 現実ではあり得ない推しの姿とかみたらオタクははしゃぐ〜! わかる〜」
「う、宇月先輩……!」
宇月先輩つれちゃったよ。






