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ご近所さんの決闘(1)


 うーん、と頭を抱える。

 しっかり寝たはずなのに、どことなく頭が痛い。

 昨日聞いた話が衝撃的すぎて、自分がどれだけ平和に生きてきたのか思い知ったというか。

 

(なんか……逆に知らなかった方がよかったんじゃないか、ってくらいすごいことを聞いた気がする……。でも、俺が聞いたから教えてくれたし、多分、本当にまずいところは教えてくれていないんだろうし……)

 

 Frenzy(フレンジー)のリーダーとして必要になるのではないだろうか、と思っていたけれど、想像以上に重い話だった。

 これからどう接していけばいいのか。

 なんだか別の悩みになってしまった気がする。

 だが、知らんぷりすることが自分のためにも彼らのためにもなる。

 神野の言う通り――。


(よし! 今まで通りに接しよう! あの二人の背景を知ることができただけで、知らんぷりができる気がするし!)

 

 と、考え直してベッドから出てジャージに着替えた。

 朝の日課、ランニングに出かけてからシャワーを浴び、朝食を食べて家族全員で出勤登校。

 家族と「行ってきます」を言い合う。

 そんないつものやり取りをしながら「我が家って本当に幸せだったんだな」と思い知った。

 両親が車で出かけたあと、同じ方向に歩き出す智子と歩幅を合わせて自転車を押す淳。

 今日もレッスンに行くので淳はチャリ通だ。


「「げっ」」


 が、二人して声を出してしまう。

 坂道を下ると金髪美少女が仁王立ちしていた。

 LARAだ。


「ら、LARAちゃん。なぁに? おはよう?」

「おはよう。ちょっといい加減モデルの仕事でしたらいいんじゃない?」

「もう……だから、私はもうモデルやらないんだってば。しつこいなぁ。遅刻するからもう行きなよ」

「勝ち逃げする気!? 許さないってば!」

「だ、だからぁ!」


 話が通じないやつだ。

 どうしたものか、と困っていると、後ろから人の気配。


「おはよーございまーす」

「うわあ! 江花くん……!」


 ひょこ、と顔を覗かせたのは江花満月(えはなみつき)だ。

 そういえばこの子、ご近所さんだった。

 そして、LARAに遭遇したのは二回目。

 智子と言い合うLARAの姿に目を細めて「またあの人」と呟いていた。


「状況わかんないんだけどー、あの子警察呼んで回収してもらった方がよくないですかー?」

「一応幼馴染の知り合いで……」

「そうやって甘やかすの、本人のためになんないですよー。ちゃんと怒られることをしたら怒られるんだって教えないとーぉ。このまま長いこと絡まれたら遅刻しちゃいますしー」

「そうだよね。でも警察呼んだら結局遅刻しない?」

「……するか」

「すると思う」


 警察も女性同士のストーカー騒ぎなんて困惑だろう。

 しかし、それならこの状況どうしたらいいものか。

 淳が困っていると、江花が手を挙げる。


「はいはーい。状況わからないからアレだけどー、話聞いている限り金髪ストーカー女はこの人にモデルとして勝ちたいってことでオケー?」

「なに言ってるの! あたしの方がモデルとして勝ってるに決まってるじゃない! でも、世間の評価は智子ちゃんの方が上なんだもん! しかもそのまま辞めちゃうし! そんな勝ち逃げ許せるわけないじゃん!」

「じゃあ最後に勝負して、それで勝った方が負けた方にいうことを聞いてもらったら?」

「「はあ!?」」


 驚く智子とLARA。

 だが、淳も「なるほど、その手があった」と納得した。

 いわゆる『決闘』だ。

 ちゃんと決着をつければ、LARAも満足するだろう。

 江花がこんなことを言い出すとは、と少し驚いたけれど、おそらく先日の定期ライブでWalhalla(ヴァルハラ)との『決闘』を見て思いついたのだろう。


「そうだね。それはいい考えだと思う」

「お兄ちゃん!?」

「智子が勝ったらLARAちゃんに一つだけお願いをしてもいい。その代わり、LARAちゃんが勝ったら一つだけ、智子にお願いをして。智子もそれでいい?」

「…………」


 非常に複雑そうな顔。

 確かに、負けて変なお願い――たとえば一生モデルとして働け、とか言われたら困る。

 だが、LARAは智子に勝ちたいのだ。

 勝てば多少溜飲は下がるだろうから、無茶振りはされないだろう。

 あえて明言を避けて、曖昧に『一つだけお願いしていいよ』にしておけば、LARAの性格的にあれもこれもと色々考えて集中が削がれるはず。


「決闘……お、面白そうじゃない。でも、なにで勝負するの? カラオケ?」


 淳、江花と顔を見合わせる。

『決闘』ならジャッジを下してくれるファンがいるが、LARAも智子も歌手というわけではない。

 芸能科のアイドルというわけではないので、どう勝敗をつけるべきか。

 うーん、と悩むがすぐにピーンといいことを思いついた。


「SBOのカラオケライブ機能を使おう」

「なんですー? それー?」

「SBOという東雲学院芸能科と提携てしているVRMMOがあるんだけど、そのゲームは歌を歌うと“バフ”がかけられるんだ。で、そのゲーム内の最初の町『ファーストソング』にはステージがあって、そこで歌うとサーバーにいるプレイヤー全員にバフをかけられる機能がある。課金するとその分歌える曲の種類も増えるんだけど、課金しなくても無料で楽しめるカラオケがあってね、そのステージには、サーバーにいるプレイヤーへのアンケート機能もある。LARAちゃん、カラオケ勝負でもいいのならそれで決着をつけるのはどうだろう?」


 と、提案してみた。

 モデルとしての勝負を提案されるかと思ったが、カラオケを提案されたこでそれならSBOが確実だろう。



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