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観劇デート?(1)


 翌週の土曜日。

 先日購入した服を着て待ち合わせ場所にやってきた。

 もちろん眼鏡や帽子はしっかりつけて、変装したけれど。

 

(楽しみだな〜。玉置先輩の演技! ……しかし、せっかく朝科先輩たちに『色気の出し方』を教わっていたのに、変装しなきゃいけないのってどうなんだろう?)

 

 人目を集めること、が色気の出し方の基本の一つ――と、教わっていたのだが、変装は学校からの指示。

 変装していては人の目を集めることはできない。

 なんという矛盾だろうか、と思いながらパンフレットを眺めていると、日傘が差された。

 

「え?」

「まさか僕より先に着いているなんて思わなかったよ。おはよう、淳くん」

「あ、おはようございます、朝科先輩。本日はお誘いありがとうございます」

 

 と、そこまで言ってから改めて本日の朝科旭を見てみると、唾の長めな帽子を目深(まぶか)に被ってはいるものの顔にはなにもつけていない。

 伊達眼鏡もマスクもなく、素顔のまま。

 日傘のおかげでわかりづらくはなっているが、長身の男が日傘を持っているのは目立つ。

 目立つが日傘のおかげで誰かはよくわからない。

 

「先になにかお腹を満たしてから行こうか」

「そうですね。……というか、先輩マスクや眼鏡していないんですね?」

「紫外線対策だけはしっかりしているけれど、顔を隠すようなことはしないかな。マスクは肌に悪いしね」

「へぇー……」

 

 確かにマスクは肌に触れるものだ。

 そういえば神野栄治もそういうものは体調管理の時にしか使わないらしい。

 それにしても――朝科はとても機嫌がよさそうだ。

 今までの彼よりもリラックスしているし、雰囲気が穏やかというか、浮かれているというか。

 朝科とここ一週間のことを話しながら、まずは少しお高めのカフェに入ることに。

 

「ここ、雑誌で紹介されていたから食べておきたかったんだよね」

「すごく混んでません?」

「うん。でも予約してあるから」

「ええ……!? わざわざ予約してくださったんですか!?」

「食べたかったからね」

 

 とのこと。

 この暑い中外で列を作っている人たちの横を通り、スムーズにエスコートされながら店の中に通される。

 すっかり露出の増えた年頃の女子たちを通り抜ける罪悪感がすごい。

 特に、突然手を繋がれて入口を潜る時。

 

「え……あれ……」

「元魔王軍の朝科旭じゃない?」

「誰?」

「知らないの? 東雲学院のアイドルグループの魔王軍っていうグループのリーダー。最近はワイチューブの配信に出てるよ! わたし登録してる!」

 

 ガチ系のファンがいるのだが?

 日傘を畳むとより声が大きくなる。

 黄色い声だけれど。

 

「ねえ、本物じゃん!」

「一緒の子誰?」

「待って、あの子も見たことある! 誰だっけ〜〜〜っ」

 

 そんな声を背に、中に入ると店員から声をかけられる。

 店員に対して朝科がスマホを見せながら「予約していた朝科です」と告げると、画面を確認した店員に出入り口から一番遠い席に案内してもらった。

 他の席ともやや離れており、視線は感じるものの朝科はまったく気にした様子もなく、むしろ堂々と帽子も脱いで席に着く。

 

「朝科先輩はそのー、変装とかしなくて大丈夫なのですか?」

「僕程度ならそこまででもないでしょう。声をかけられても丁寧にお断りするし。……まさか無断撮影するようなマナーの悪い民度最低な人間がこの町にいるわけないでしょう」

「そ、そうですか?」

 

 そうかなぁ、と苳茉葵(ふきまあおい)のご家族を思い出しながら言葉を濁す。

 あの家族を知らないわけもないだろうが。

 

「堂々としておくといいよ、淳くん。それと、僕のことは下の名前で呼んでってば」

「あ、そうですね。すみません。えっと、旭先輩」

「うん♡」

 

 すっごく嬉しそうだ。

 満面の笑顔。

 

(か、顔がいい〜〜〜〜!)

 

 もうそれしか感想が出てこないレベルで顔がいい。

 何度思ったかわからないが、口鼻目眉、すべてが完璧な配置。

 綾城とはまた違った淡い色の金髪と、緑色の瞳。

 まったくもって日本人離れしている。

 

「ご注文がお決まりになりましたらお声がけください」

「淳くん、先に選んでもいいよ」

「えっと、それじゃあ……チョコレートとベリーのワンちゃんパンケーキとカフェラテで」

「僕はフルーツ盛り盛り生クリームと抹茶クリーム仕立てのメープルシロップパンケーキとブラックコーヒーで」

「かしこまりました」

 

 メニュー名がだいぶ恥ずかしい、と思ったけれど、この程度の恥辱はライブステージで歌詞を間違えたことに比べればたいしたことはない。

 むしろこの超イケメンが目の前に座ってにこにこ見つめてくる方が恥ずかしいような……。

 

「そういえば今年のIG夏の陣には東雲学院から『花鳥風月』も本選に出ると配信で見たのだけれど」

「あ、はい!そうなんです!宇月先輩と後藤先輩が秋野直芸能事務所に交渉してくれて、なんと本選に参加できるそうです!」

「秋野社長も言っていたな~。一組本選に増やすから、もう一組増やすって。時間も延長して、放送局も増えるらしいよ。Blossom(ブロッサム)の三連覇……殿堂入りがかかっているから注目度が爆上がりしているね。海外の取材も来るみたいだよ」

「そ、そんなに注目度が上がっているんですか!?」

「まあ、鶴城先輩も神野先輩も海外で活動しているからなか。大手の出版社や配信会社ではなさそうだけれど、日本がアイドルブームなのは注目されているらしいから複数社が来みたいだね」

「へぇぇ……」


まあだとしてもやることは変わらない。

今年のIG夏の陣は星光騎士団のメンバーとして全力を尽くし、来年の夏の陣は星光騎士団の団長とFrenzy(フレンジー)のリーダーとして死力を尽くす。






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