SBOの大型イベント(3)
「そうですよー。あともう一つ」
「え、まだあんの?」
「SBOに新しい階層? が実装されるんだそうです。あと、ストーリーモード?」
「おお〜」
反応したのは淳だけ。
他のメンバーはそれほどゲームに興味がないので、社長の言っていることがよくわかっていない。
だが、そんなに今後の実装予定の話をしてしまってよかったのだろうか?
「なんかそれ今聞いて大丈夫なやつなんですかね?」
「一応『今後の実装予定機能』として雑誌に載っているそうですから。まあ、言いふらすようなことをしなければいいのでは? 守秘義務のこともあるので、そんなことをするような人がこの場にいるとは思えませんし」
「あ、そうですよね……」
「それに、淳以外はゲームに興味がないのでしょう? イベントをやるのにも最低限の知識をつける時間がほしいかと思いまして」
確かに。
なにもわからないままイベントに出るわけにはいかない。
興味がなくても、話を合わせるくらいには事前知識を勉強しておかなければ。
そのくらいはプロの常識かと思っていたが、早瀬は本当に嫌そうな顔をしていて、それを見てしまった淳の表情に神野が気づく。
「あー、興味なさそうだね?」
「へ!? い、いえ……!」
「ねえ、こいつ本当にうちの事務所で引き取るの? 教育し直すの面倒くさくない? この年でこの程度の意識の低さならこの世界でやっていくの、無理じゃない? 普通にゴミだよね?」
「言葉が強〜〜〜い。そう言わないでください、栄治。これからは同じ【モデル部門】の後輩ですよ」
「いらなーい。こんな可愛くない後輩〜」
一刀両断がすぎる。
本当に容赦のない一言に、早瀬が苦い表情になった。
神野のプロ意識が低い相手への攻撃力が高すぎる。
「っていうか、こんなの増やすくらいならもう少しマシなの増やしてほしいよね。今モデル部門、俺と望月さんしかいないじゃん。望月さん海外だし、国内の仕事俺に集中してるんだよ? まあ、Blossomのおかげだけどさぁ。さすがにちょっとキツいんだよね、最近。朝のランニングが疎かになってんだよね」
「うーん、じゃあ西雲学園からモデルの子を探してみましょうか。面倒くさいのでSBOの中でオーディションでも開催しますか〜。この辺の地域だけでは限界がありますからねー」
「そんなことができるのですか?」
「人を集めたいですし、十二月にでも開催しましょう。SBOの中なら場所代も取られませんし、全国からお気軽に集まってもらえますからね」
即断即決。
すぐにカタカタとキーボードを打ち込み、スケジュールに追加で記入した。
「ジーくんの学校にいないの? モデルの子」
「えっと、宇月先輩がモデルをやっているんですが、もう声優事務所に所属しておられるんですよね」
「え? モデルじゃなくて?」
「声優志望の方なので」
「あ、そうなんですねー。……声優かぁ……。声優はなぁ〜。声優ねぇ〜」
腕を組んでなにやら考え始める社長。
そういえば春日芸能事務所、まだ【声優部門】はない。
この人もしかして【声優部門】も作ろうとか考えている?
「ねえ、もしかして声優部門作ろうとか考えてる?」
「声優志望は今アイドルよりも多いんですよ。容姿に拘らない――と、思われているので。まあ、アイドルに比べると確かに容姿の重要度はかなり下がるんですけどね。その分声の種類と演技力、歌唱力が非常に問われるんですけど……アニメの需要が世界的に上がり続けているので、声優はアイドルよりも余っているらしいんですよ」
「へ、へぇー」
そういえば宇月も「僕、声よりモデルの方が需要があって声優のお仕事できないんだよねぇ〜」と悩みを口にしていた。
その声優を夢見る人々を、養成所という場所で“飼う”事務所が非常に爆増している。
声優になるに必要な訓練の仕方を教えたりするが、それを真面目にやるのは全体の2%。
残りは“声優になるための訓練に通う自分”に満足して、お金と時間を吸い上げられ続ける。
そういうビジネスが業界に蔓延っており、またアイドルと違って職業寿命がほぼ一生涯であるためベテランが多く新人が入りづらくその分狭き門がさらに狭くなっているのだ。
「僕、人の夢を食い物にする商売はしたくないんですよねぇ……。声優志望は育てるのも仕事を斡旋するのも難しいので、正直利益にもならないし声優部門は……いらないかなぁ? と思っています。それに俳優部門やアイドル部門の子たちが、普通に声の演技できますしね? 栄治もなんだかんだ声優業やったことありますしね」
「まあ、あれでいいのかわからないけれど。やるからには本気でやるよね」
「ですよねー。まあ、でも声優という職の需要の高さは理解しているので、だからこそ今回の乙女ゲーム開発でうちの事務所のタレント総動員しよう、ってことにしたのですよ。京一郎と椛は追加でキャラクターとストーリーを依頼したので、アップデートで追加されますからね。……あ、声優やりたくなかったら今からキャンセルしますから言ってくださいね」
優しい笑顔でえぐいことを言ってらっしゃる。
二人の仕事への信用度がさっきの件でガッと下がったせいだろうが、仕事への意識というのはこのように影響するのか、というのを目の当たりにしてしまった。
「とりあえず今のところそこそこ大きめで、かつグループの垣根がないイベントはそのくらいですかね。質問がある人」
首を振る。
ただお休みをもらいに来ただけなのに、かなり長い時間捕まってしまった。






