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デート?のお誘い


 すっごい嫌そうな表情。

 別に仲が悪いわけではないのだけれど、淳と朝科が会うのは絶妙に嫌な気持ちになるらしい。

 

「学年二つ差とはいえマジで未成年をデートに誘うとかヤバすぎだろ」

「え? なんですか?」

「なんでもないよ」

 

 はあ、と間抜けな声が出てしまう。

 なにかまずいのか?

 

「さすがにそれは野暮だろ。まあ、で……? 行くの?」

「行きたいです! 玉置先輩の2.5次元舞台はまだ観たことがないですし。六月七日の十五時にもレッスン入っていますよね? 休んでもいいでしょうか?」

「まあ、いいんじゃねぇ? 思ったより完成度上げるところまで来ているし、どっちかっていうと松田の体力不足の方が全体の課題だし」

「うっ……」

 

 淳と石動はやはり現役。

 松田もだいぶマシだが、IGは体力勝負。

 しかも今年は五月の時点で25度を超えており、夏は猛暑が予想されている。

 冬の陣の寒さはパフォーマンスをしていれば気にならなくなるが、夏はとにかく暑い。

 今年から夏の陣対策をしてくれるそうだが、それでも暑さというのは体力を削る。

 松田だけはプロジェクションマッピングを利用した3D映像だけで参加するため、部屋はクーラーの効いたスタジオを使えばいい。

 だがそれはそれとしてやはり体力は必要。

 三日の本戦なんて二曲×MCを三分、それを最大で四回繰り返す。

 丸一日歌って踊るし、喋る。

 配信のおかげでトークスキルはそれなりに磨かれてはいるが、今日のように丸一日かけてリハーサルを行うとまだ少しテンパってしまう。

 淳と石動は臨機応変にトークを操れるが、松田はまだ自信がない。

 

「いいんですか? じゃあ、ちょっと社長にお話ししてきます」

「はいはい。行け行け」

 

 ぺこ、と会釈してから事務所のある七階の方に下りる。

 事務所には意外な人物がいた。

 

「あれ? 魁星?」

「淳ちゃーん! え? あれ? 今日レッスンの日?」

「うん。来年のために」

 

 来年はBlossom(ブロッサム)と星光騎士団を率いた綾城のように、Frenzy(フレンジー)と星光騎士団を両方率いなければならない。

 綾城のように。

 それを思うと、やはり体力がもっと必要なように思う。

 ランニング距離を増やすか、と腕を組んで考えると、魁星に声をかけられてハッとする。

 

「魁星はどうしてここに?」

「もー、俺を事務所に紹介してくれたの、ジュンジュンじゃん」

「え? ああ、まあ、そうだけど……」

「準所属、研修生ということで、うちの事務所に仮所属、ということになりました。初めての後輩ですね、淳」

 

 と、社長が書類片手に微笑んでそんなことを言う。

 後輩、だと? 同期なのに?

 

「えー、そうなんだ。よろしくね?」

「うん。なにするのか、やっぱりまだわからないけれど」

「色々挑戦してみて、自分に合うものや楽しかったことをやっていけばいいと思いますよ。うちの事務所はなにかに特化しているわけではないからね。それで、淳はどうしたのですか?」

「あ……ええと……実は今週の土曜日、七日なんですけど……」

 

 と、言ってメッセージを見せる。

 朝科旭は別事務所だが、社長はちゃんと把握していた。

 むしろ「ああ、直くんのところの」と察してくれる。

 

「え? デートですか?」

「い、いえ、観劇に誘ってくださったんです。朝科先輩と上総先輩が一年生の頃の三年生、玉置藍(たまきあい)先輩が出演しているんですよ」

「それをデートと言うのでは? ですが、まあ、ふうん……羽目さえ外さなければいいですよ」

「え、っと……レッスンを午後からお休みさせてもらうことになりそうなんですけれど、いいんでしょうか?」

「いいですよ。観劇は勉強になるのでしょう?」

「はい。それはもう! ……ありがとうございます!」

「いえいえ。レッスン漬けはよくないですからね。いい気分転換になるといいですね」

「ありがとうございます!」

 

 ぺこり、とお辞儀をする。

 社長がにこにこしているが、淳の真横の魁星の目が怖い。

 

「社長、急に呼び出して、なに」

「あ、来ましたね。こっちですよ、京一郎(きょういちろう)(しゅう)

 

 社長が手を上げて事務所の入口から顔を出す二人を手招きする。

 あれは、モデルの早瀬京一郎(はやせきょういちろう)と、俳優の廣瀬椛(ひろせしゅう)

 今はやりの毛先が違う色になっている早瀬と、髪の裏側だけ別の色の廣瀬。

 

「元東雲学院芸能科『紫陽花(あじさい)シンバ』リーダーの早瀬京一郎(はやせきょういちろう)と、西雲学院出身俳優の廣瀬椛(ひろせしゅう)! ええええ!? まさか、うちの事務所に移籍してきたんですか!?」

「そう。二人の事務所、なくなっちゃって」

「えっ」

 

 事務所なくなっちゃって、というパワーワード。

 ぎょっとして振り返ると、二人とも気まずそうに顔を背ける。

 魁星が社長と淳とその二人をそれぞれ見回し、目線だけで説明を求められているとわかった。

 

「あ、えっとこっちの灰髪の人は元東雲学院芸能科『紫陽花(あじさい)シンバ』リーダーの早瀬京一郎(はやせきょういちろう)先輩。今は大学生モデルをやってるよ。こっちのシルバーグレーの髪の人は西雲学院出身俳優の廣瀬椛(ひろせしゅう)先輩。劇団スター☆コスモ出身の先輩かな」

「へぇえ……」

 

 危うく「確かに最近見かけない」と言いかけて、無理やり呑み込む。

 まさか事務所が飛んでいたなんて。



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