ゲーム内ナンパ注意(3)
「ヒナちゃん方言女子なんだー? 可愛いねー!」
「えー? そう〜? わしみたいなん珍しくもないんと違う?」
「一人称珍しいよね。わし、なんだー?」
「せやね。生まれた時からわしはわしやね」
「可愛い〜」
ヒマリがヒナの方に腕を回して頰をツンツンと指先で突く。
おそらく誰も見たことがないであろう、絶対零度の睨み。
さすがのナンパ男もスッ、と腕を外した。
「ルカちゃんは年いくつなの?」
「自分も、シーナと同い年です。クラスメイトで」
「え! そうなのー! 女子高生ってこと?」
「えっと……まあ、はい……」
「最高じゃん! リアルだとどんな感じなの? 趣味とかさー」
「趣味は……勉強……」
「え? オタク系?」
「オタクではないと……思いますけど」
「そうなんだー。シアちゃんは?」
スッとルカから離れて即シアに標的を変更するコタロー。
その反応はそれはそれで腹が立つ。
「あかん、エルミー先輩のすごさを思い知るわ」
「エルミー先輩って、すごかったんですね」
と、頭を抱えるヒナとルカ。
ネカマ歴十年超えのネカマベテラン、エルミー先輩、マジすごいっす、となるのは仕方ない。
殴りたくて仕方ないのだ、もう。
「私も趣味は勉強でしょうか。デザインの勉強の他に物理の研究も少し」
「え……めちゃくちゃ頭いい感じ?」
「どうでしょう? 私程度の者なんてそこらへんにいますよ」
「シアさん、海外にいるからそう感じるのでは?」
「そうなんですかね? でも、本当に海外の大学は頭がいい人しかいませんから、自分も頑張らなきゃな~ってなりますよ」
「カッコいいです、シアさん。自分ももっと頑張ります」
「ええ? バアルさんも毎日すごく頑張っているじゃないですか。お互い頑張りすぎて疲れちゃう性質だから、そこは気をつけましょうね」
「あ、そうですね。休める時に休めるようにしましょう」
えへへ、と手を繋ぎ、見つめ合い笑い合うシアとバアル。
見た目が双方美少女アバターなので、完全に百合。
ナンパ男たちがわかりやすく距離を取る。
百合に挟まる男は抹消されるから仕方ない。
まあ、中の人普通に男女カップルだけれど。
そして二人ともワーカホリックタイプなのか。
とても休んでほしい。
「えっと、二人はつき合っているの?」
「え? えーっと」
「うーーーん。……アヤさんたちは出会いを求めてお声がけしてくださったんですか?」
「え? あ、ああ、うん。そうそう! できればリアルでも遊べる子? こう見えて俺たちもアイドルしててさ~」
「え? アイドル? そうなんですか?」
「「そうそう」」
アヤとともにヒマリも頷く。
全員が内心で「ほーーーー?」という笑顔を浮かべる。
これは、もうこいつらに間違いないのではないだろうか?
だが万が一ということもあるので、もう少し突っ込んで聞いてみるか。
「皆さんの名前って東雲学院の星光騎士団の……」
「そうそう」
「俺たち、それ☆」
言質いただきましたね、とシーナにだけ聞こえる小声で呟くルカ。
しかし、もっと明確な言質もほしい。
ヒナが目を細める。
「え、それってお兄さんたちが星光騎士団のメンバーってことですやん?」
「そうそう」
言い切った。
笑顔が固まるヒナとルカ。
「え、そうなんですか? すっご~い! 私星光騎士団のファンなので、ご本人だったらすっごく嬉しいです!」
と、言い出したのはシア。
目を丸くする面々。
だがナンパ男たちはすぐ笑顔になって、でへでへしながら「そうなんだ」「でしょ~」とシアに近づく。
「今日は魔王軍と勇士隊のライブって言ってましたけれど、星光騎士団の飛び込みライブはないんですか? 見た~い」
と笑顔でおねだり。
そのおねだりを聞いた瞬間、シーナたちもシアの意図を察する。
そ、れ、だ。
「私も! 私も見たいです!」
「見た~い! 星光騎士団と言えば飛び込みライブですもんね!!」
「せやね、せやね! 星光騎士団と言えば! 飛び込みライブやもんね! めっちゃ応援したいわ~」
「ライブもう始まってますし、ステージの方に行きましょう!」
「え、えーと、いや、ほら、今日は魔王軍と勇士隊に譲ってやっているっていうかさ」
「そうそう。たまにはあいつらにも出番をやらないとじゃん?」
「え~、なんか言ってること変じゃないですか? ヒマリさんって花崗ひまりさんですよね? 花崗ひまりさんといえばラジオや配信で『隙あらば出番を増やせ』『空きステージを見たら上れ!』って言ってたじゃないですか」
「えっ」
シーナ、ドルオタなので過去の花崗ひまりの発言を引用。
ヒナもうんうん頷きながら「せやせや。言うとったわ。さすがアイドルやね」と腕を組んで頷く。
冷や汗をわかりやすくかくナンパ男たち。
顔を見合わせて、「いや~、今日は気分じゃないし」とか「今日はシーナちゃんたちとライブを観て敵情視察ってやつをやりたいんだよね」とか言ってなんとか逃れようとしている。
顔を見合わせるシーナとルカ。
「えー、つまらへんわ。わしの知っとる星光騎士団のメンバーいえば乱入して出番をもぎ取る好戦的なところがいいんに~」
「ですよね~」
シーナがヒナと「ね~~~」と言い合う。
こういう時やたらと女子のふりが上手いこいつら。
「それじゃあ、我々だけで観に行こうか」
「そうですね! ちんたらしてたらライブ終わっちゃいますし!」
「え、俺たちとお茶するって話だったじゃん」
「ライブ観ながらって話だったじゃないですか」
「う……」






