ゲーム内ナンパ注意(1)
「はあー」
「どうしたんですか? 淳」
「いやぁ、デビュー日が決まって」
「プロデビューの話ですか?」
「そう」
「えー、おめでとうございます。なんでそんなにテンションが低いんですか?」
「いやー、なんか今から緊張してしまって?」
と、SBOの中のファーストソングで周こと『ルカ』にドリンクを渡され、受け取る。
淳こと『シーナ』と二人でゲームの中にやってきたのはとある理由。
「お疲れ〜」
「お疲れ様です、花崗先輩……じゃ、なくて……ヒナさん」
「お久しぶりです。バアル先輩」
「ほんまやね。いうて二ヶ月ちょいやけど」
「久しぶり〜。ヒナちゃんもお久しぶり。今海外なんだっけ?」
「せやでぇ」
花崗ひまり、もとい『ヒナ』と綾城珀もとい『バアル』に会いにきた。
ヒナは大学生をやりながらモデル業をこなしており、現在は海外。
綾城はBlossomリーダーとして仕事中心の学生生活。
本当に忙しいらしく、あまり通えていないらしい。
そして二人が今日会いにきたのはとある理由から――。
「SBO内にわしや珀ちゃんの偽物が出てるって話なんやけど、どんくらいわかっとるん?」
「それが俺たちも忙しくて最近ログインできていなかったので、智子に聞いて初めて知ったんですよね。智子が調べていたんですけど、どうやら綾城先輩を騙って女の子のプレイヤーをナンパしているらしくて」
「あ、ああ〜、そっち系の人〜……」
有名人あるある。
だが、SBOは星光騎士団や魔王軍など東雲学院芸能科との距離が近い。
実際淳たちも普通にプレイヤーとして遊んでいる。
それが逆にファンのプレイヤーたちにとって『出会い』の期待を与えていたらしい。
綾城は公開プロポーズで婚約者がいるのにも関わらず、ナンパされて騙される女性プレイヤーがいるというのだ。
「その辺は普通にプレイヤーの民度が関係してくるので、運営から注意喚起をしてもらうしかないと思うのですが、星光騎士団……いえ、東雲学院側からも注意を促そうと思っているんです。それで……ええと、大変恐縮なのですが、お二人のログイン頻度を参考までに教えていただければと」
「わし、全然やね。前回とレベル同じやで」
「僕は彼女さんとデートする時にSBOを使っているから、今レベル52!」
「わあ……」
地味に上位陣のレベルである。
というかSBO内でデートしてるのか。
その現場、壁になって見守りたい。
「わしらからも注意喚起しておくことにするわ〜。少なくともわしら、女性プレイヤーをつまみ食いするほどの元気も時間もあらへんわ」
「僕は普通に彼女さん一筋だもん、そんな噂は非常に迷惑だからね。僕からもSNSなどで注意喚起しておくね」
「ありがとうございます。せっかく時間を作ってゲームにログインしていただいたのに、こんな話で」
「ええよ。っていうか、わざわざログインしてきてほしい、いうことはあるんやろ? 当たりが」
と、ヒナが立ち上がる。
シーナももちろんにこり、と微笑み返す。
本当は魁星や宇月も来たがっていたが、さすがにあの二人は仕事のスケジュールが詰まっていた。
淳もなかなか忙しいのだが、今日は魔王軍と勇士隊がSBO内ライブをやる予定なので騙り野郎どもにはさぞ掻き入れ時となるだろう。
と、いうわけで――
「ルカとバアル先輩には申し訳ないのですが……」
「いえ、そういうことなら」
「こういうの美桜ちゃんが得意そうだけどね〜」
と、言いつつルカもバアルも女性アバターに変更。
カフェを出てライブステージのある方に歩いて行くと、ファングッズを手に持って和気藹々としているファンプレイヤーがたくさん集まっている。
東雲学院芸能科の定期ライブは月末。
現地に来れない地方の人たちにとって、SBO内でライブされるのが本当に救いになっているのだ。
こう見ると、東雲学院芸能科のファンは去年の夏の陣以降全国的に増えた。
配信効果は想像以上といえる。
「とりあえず聞き込みしてみますか」
「そうですね。鎌をかければ釣れるバカもいそうです」
「魔王軍のライブ、盛り上がってるなぁ? 朝科くんたちが卒業して弱体化したと思うとったけど、麻野と茅原、二年たちが十分活躍しとるんね」
「そうなんですよ!」
「あ、やめてくださいね。淳。長くなりそうなので、あまりその話は……」
「ごめんやで」
語り出しそうなシーナの口を塞ぐルカ。
バアルとヒナにとっては数ヶ月程度のことだが、ルカのシーナへの扱いが割と雑になっていて宇宙猫になる。
「ほな、見つかるまでは久しぶりに話でもするぅ? バアルちゃん、最近どうよー?」
「もう練習ばかりで大変かな。夏の陣も近いし」
「ああ、そうやね。殿堂入りがかかっとるもん、わしもめっちゃ応援する。……ほかぁ、あと二ヶ月ちょいやな。今年の夏の陣もなかなか大変そうやね」
「そうだね。社長は『去年のBlossomの快進撃を見てからすぐに準備を始めた奴らが出てくる』と言っていたから、まったく気が緩められないかな」
「はぁー、なんやアイドル新時代がきてるって感じやん」
「ですよむぐ」
ですよね、と同意して語りに入ろうとしたシーナをルカが即座に口を塞ぐ。
あまりにも手際が良過ぎる。






