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一年生のクラス(1)


「いえ! その試練を乗り越えてこそ、新たな自分になれるんでしょ! 飲みます!」

「そこまで言うならちょっとだけね」

「ええ~、ジュンジュン、こんな負けてもいない子にあげちゃうの!?」

「その方が最下位に飲む子たちの恐怖が増すでしょう?」

「………………ヤンデレデータ抜けてないよぉ! ジュンジュン!」

「ああ、スイッチの切り替え忘れてた。じゃあ、まあ、玖賀くんが試飲している間にスイッチ切ろうね」

 

 とか言いつつ紙コップにセンブリ茶を注いでいく。

 結構なみなみと。

 それを見た玖賀が「え? あれ? あの……ちょ、ちょっと……?」とビビりまくる。

 笑顔で差し出す淳。

 大変可哀想だが、今回の課題曲は『可愛いヤンデレ』だったのでまだ参考にした『石動上総』と『朝科旭』が抜け切っていない。

 Walhalla(ヴァルハラ)が喧嘩を売ったのは三大大手グループ。

 そのかつてのリーダーたちを“インストール中”なので、当然『うちに売られた喧嘩は買うし、喧嘩を売ってきた奴らはフルボッコ』の思想である。

 鬼畜感バリバリの石動のデータが、淳から常識と最低限の優しさも奪っているので仕方ない。

 

「ちょっとだけだよ。プールにある分に比べたら」

「ンッ……!! …………そ、そうっすね……」

 

 慈悲深い笑顔は朝科データ。

 だが、なにもお慈悲になってない。

 あの麻野が「え……えげつねぇ……」とドン引きしている。

 淳が差し出した紙コップを受け取った玖賀は衆人環視の見守る中、一度ゴクリ……と生唾を飲み込んでから一気に口の中に流し込んだ。

 魁星と周が噴き出し警戒タオルを差し出すが、玖賀はごくごく一気に飲み干す。

 

「ぐうッ……!!」

「く、玖賀くん、大丈夫?」

「ッ……っ……っ……」

 

 江花が声をかけるが、紙コップを握りつぶしたまましばらくよろ、よろ、とステージ上を一歩、二歩、進んでから一気に舞台袖に逃げ込んだ。

 沈黙が流れる。

 魁星が無言でステージ裏に戻ってタオルを持って行く。優しい。

 

「……さてと、投票はあと三分で終了だよぉ~! まだ投票を戸惑っている人は星光騎士団に投票よろしくねぇ~!」

 

 無視して投票の呼びかけを始めた宇月。

 麻野も「いやいや! 俺たち魔王軍に投票だろ!」と叫ぶ。

 

「いやいやいや! 『永久相思相愛一直線!』は俺たちの曲なんですから! お客さんたちも視聴者さんたちも俺たちに投票してくれるに決まっているじゃあないですか! ねえ!?」

「そうですよ、投票はWalhalla(ヴァルハラ)に決まってますよねぇ!」

 

 石神と高倉が客席に投げかけるが、お客さんたちからの反応は微笑ましいものを見る目。

 石神が「なにか言ってよぉ! 当たり前だぜとかぁ!」と半泣きで叫ぶがお客さんたちからは相変わらず暖かい眼差ししか返ってこない。

 まあ、喧嘩を売ったのはそっちなので、と江花が無慈悲にも言い放つ。

 同級生だからこそ言える言葉だが、存外容赦がない。

 

「まだ三分あるんですし、今年の一年生たちのクラスの様子とか聞いてみません?」

 

 投票のあと集計もあるので、淳がそう提案する。

 実に、趣味と実益を兼ねた提案。

 当然のごとく千景が「賛成です! ファンの皆様も知りたいと思います!」と挙手。

 積極的な千景に蓮名が「御上が大きな声を出した!」と驚く。

 まあ、実際珍しくはある。

 

「ね、鏡音くんと響くんはクラスが違うけれど、クラス内で仲がいい友達はできた?」

「はい! 僕は廉歌くんと仲良くなりました!」

 

 淳が一番話題に乗ってくれやすい自分のグループの後輩に話を振ると、すぐに柳は名前を上げてくれた。

 有名な中学生コスプレイヤーだった夕陽廉歌(ゆうひれんか)

 彼は確か勇士隊に加入したはず。

 

「へえ~。確か勇士隊の一年生だったよね」

「そうですそうです。自分で衣装も作りたいって、被服部に入部希望と聞きましたけれど……」

「ああ、うん。入部してきたよ。衣装作りにこだわりが強くて、ステージでダンスをするからあんまり細かな装飾品がつけられないことに衝撃を受けていたっけ」

 

 柳が後藤の方を見ると、部活内での夕陽の話を教えてくれた。

 コスプレ衣装は見栄えと原作キャラクターへのリスペクトと再現度が鍵。

 しかし、ステージ衣装は動きやすさや通気性、ダンスに邪魔にならない程度に派手な装飾など、コスプレ衣装とは異なる視点での衣装作りが必要になる。

 今回のように既製品で代用し、改造する技術はコスプレ衣装と通じるものがあったようだが、思っていたよりも学ぶことが多くて部室に泊まりこもうとしたことも数回……。

 

「若干服好きすぎてなんでこの子服飾の専門学校に行かなかったんだろうって思ったけれど、服飾の専門学校じゃ好きな衣装を作れないって言ってた」

「そうなんですよね。廉歌くん、自分の好きなデザインの衣装を作りたい欲がすごいんですよね。そしてそれをたくさんの人に着せたいって」

「うん。なんか二年の被服部員が引いてる」

 

 引いてるんだ。

 若干困った顔をする千景が「うちの子がすみません、すみません」と謝る。

 ちなみに夕陽が今回の選出メンバーにならなかったのは、「後藤先輩が作った衣装を第三者視点から見たいから」と「夏の陣の勇士隊の衣装全員分五種類くらい作りたい」からだそうです。

 あと、自分用に夏コミの衣装も。

 その作業量を聞いた時、後藤もその執念にゾッとしたそうな。

 

「っていうか、夏コミ出るつもりなんですか……!? 夏の陣のあとに……!? 夏の陣の翌週ですよね!?」

「俺も夏の陣のあとの夏コミは体力的に厳しいと思うよって言ったんだけれどね……なんかレイヤーの矜持があるんだって」



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