フルボッコ確定『決闘』(2)
そしていよいよ十二時を回り、ステージにWalhallaが登場する。
野外大型ステージは、見たこともないほどに満席。
MCを務めるのは『SAMURAI』所属の白戸天皚と山原未空と芽黒那実。
こんな人数になるとは思わなかっただろうが、MC自体も経験不足なので三人全員で挑むことになった。
「さぁーて! いよいよ本日のビッグイベント! ちょっと早めのお昼の時間。皆さん、ご飯を食べながらのんびり見てくださいねー! でも! 投票にはぜひご参加ください!」
「本日のビッグイベントは一年生グループ、Walhallaがなんと! 我が校の三大大手グループ! 星光騎士団! 勇士隊! 魔王軍への『決闘』を申し込みました! 課題曲はWalhallaのデビューシングル『永久相思相愛一直線!』! こちらを三大大手グループの選出メンバーで歌います! どのグループが一番好きだったかを、『イースト・ホーム』の投票ページからぜひぜひ、推しグループを応援してくださいね!」
「投票開始はすべてのグループのパフォーマンス終了後です! ちなみに! 今回の『決闘』のMC及び審判を務めるのは『SAMURAI』の芽黒那実と!」
「白戸天皚と!」
「山原未空でお送りいたします!」
SAMURAIの三人がこくり、と頷き合う。
こんな舞台でMCなんて初めてで、三人ともヒヤヒヤ。
しかしちゃんと台本通りにできた――はず。
「ではでは! 挑戦者であるWalhallaメンバーから自己紹介をしていただきましょう!」
芽黒がステージに登ってきたWalhallaへ手を向ける。
ふふん、と胸を張って前へ出てきたのはWalhallaのリーダー。
「ハローハロー! 親愛なるヴァルキリーたちよ、知ってるだろうが! 俺は石神真新だ!」
「ハローハロー、親愛なるヴァルキリーの皆さん。オレは折織理人。今日も慎ましく淡々と事を成しましょう」
「ハローハロー! 親愛なるヴァルキリーの皆さん! 自分は陸奥更白刃! ピースピース! 世界はピースでできている!」
「ハローハロー、親愛なるヴァルキリーのみんなぁー! おれ! 高倉ハヤトぉー! 元気勇気大声ハッスルー!」
親愛なるヴァルキリーとは彼らのファンネームというやつ。
三大大手グループは『ファンネーム』という概念ができる前に設立されたため、ファンの呼び方に固定はないがそういうものがあるのが今時のアイドル、という感じである。
お客さんから歓声が上がるが、客席から見えるのは鏡音の推しうちわが多い。
わかりやすく三大大手グループのファンに埋め尽くされている模様。
「さあ! それではWalhallaの皆さんにまずは歌っていただきましょう! 今回の『決闘』課題曲、Walhallaのデビューシングル『永久相思相愛一直線!』」
天皚が叫び、SAMURAIの三人が舞台の端に寄る。
Walhallaメンバーが定位置につくと、彼らのパフォーマンスが開始する。
さすがプロデビュー済みの実力派。
年齢の割にしっかりとしたパフォーマンスだ。
お客さんからのサイリウムもテンポよく振ってもらい、歓声も上がる。
「〜〜〜♪」
Walhallaのデビューシングル『永久相思相愛一直線!』、かなり可愛くポップ。
が、ところどころ挟まる――病み。
年若い少年の彼らだからこそ『可愛い』が打ち勝っているけれど、歌う人間によってはだいぶ病み……ヤンデレ感の強い曲になりそうである。
だが、そんなジャンルを知らないピュアなSAMURAIの三人、「なんかちょっぴり怖い雰囲気がある曲だなぁ」くらいの印象で、前へ戻ってきた。
「可愛い〜。さすがデビューしたてのWalhalla。グループ名が殺伐としているから、もっとかっこいい系の曲を歌うのかと思っていました」
「Walhallaはアイドル業界の今の姿! ヴァルキリーのみんなと一緒に、その戦場を勝ち抜く意味なんですよ!」
「へー、なるほどねぇー」
石神が胸を張り説明してくれた。
ある意味、「それお客さんに言ってよかった?」と思わないでもないが、本人たちが受け入れているのならいいのか。
「では、いよいよ『決闘』の開始ですね。最初にWalhallaの相手となるのは、果たして三大大手グループのどのグループなのか……!」
山原が下手へ手を差し出す。
Walhallaと最初に戦う四人がステージに現れる。
「じゃじゃーん! 東雲学院芸能科、切り込み担当といえば我ら星光騎士団! ――の、中で選出されたのは星光騎士団団長、宇月美桜とぉー!」
「音無淳とー!」
「柳響とぉー!」
「鏡音円です。四人合わせて――」
「「「「桜音響でーす」」」」
いえーい、とそれぞれポーズをとると、客席が揺れるような大きな歓声。
それはそう。
今日のお客さんのほとんどは鏡音の復帰を応援しにきているファン。
この時点で石神の口許が僅かに引き攣った気がする。






