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鏡音の復帰ライブ(2)


「あ……」

 

 推しうちわがぶんぶん、客席の一面から振っているのがよく見える。

 SNSなどでかなり話題になっていた上、元々鏡音自身、動画サイトで実況ゲーマーとして有名だった。

 だからこそ、東雲学院芸能科のアイドルの鏡音円を応援しにたくさんの人が集まってくれたのだろう。

 ゲームの大会で観客に囲まれてプレイするのとは違う――同じ応援であって、けれどきっと鏡音はこんな声を真正面から聞いたことは少ないだろう。

 

「ほらあ、ドカてん、ちゃんと応えてあげなぁ? そのくらいの時間あるよぉ?」

「あ、それにほら、柳くんにも『お誕生日おめでとう~』っていう声もあるよ。ね、鏡音くん」

 

 と宇月と淳が一年生ズに話を振る。

 MC任せた、という圧に、柳と鏡音が目を見開くが逃げ場などあるわけもない。

 スーッと息を吐き、先に鏡音がマイクを持ち直し、九十度に腰を曲げて客席にお辞儀をする。

 顔を上げた鏡音は迷いのない表情。

 

「皆さん、本日はご来場誠にありがとうございます。先日の東雲芸能科GPの時も、オレにご投票してくださった方も、ありがとうございます。本日より、星光騎士団に復帰させていただこうと思います。まだ早い、という方もおられるかと思いますがご了承ください。アイドルとして邁進していく所存ですので、どうぞよろしくお願いいたします」

 

 さらにくるりと柳に向かって「お誕生日おめでとうございます」と言い放った。

 わあ、と再び歓声と『おめでとう~!』という声が上がる。

 なにを隠そう柳響の誕生日は5/15。今月である。

 柳の誕生日月なので先輩たちで柳のリクエストケーキも作りました。

 

「あ、そ、そうなんです! 星光騎士団伝統の誕生日ケーキ、作っていただきました!」

 

 と、柳が言うと、スタッフさんがケーキを運んで来てくれた。

 柳がリクエストしたのはチョコレートケーキ。

 

「物販の方にお客様用のチョコレートケーキをご用意してありますが、販売は星光騎士団のライブ後になります。いつもご好評いただき恐縮ですが、横入りなどせず順番厳守の上、お一人様お一つまでです。詳しくは物販スタッフにお尋ねください」

「柳くんリクエストのチョコレートケーキだよぉ~」

「お誕生日おめでとう~」

 

 と、淳もつけ加え宇月や後藤も拍手してお客さんからも歓声。

 そして柳が鏡音にアイコンタクト。

 首を傾げる鏡音に、ケーキと一緒に運ばれてきた小箱を差し出さす柳。

 

「え?」

「えへへ~。これは守ってくれたお礼です! 円くん、守ってくれてありがとう!!」

 

 柳の言葉に客席から再び大きな歓声。

 困惑しながらも、ちょっとだけ嬉しそうな鏡音は、おずおずと受け取った。

 

(((((可愛い)))))

 

 厳しくしているが、やっぱり後輩は可愛い。

 ニコニコ微笑ましく見守っていると、物販の方から金切り声が響いてきた。

 ステージ上の星光騎士団メンバーたちまでつい、物販の方に視線を向けてしまう。

 騒いでいるのは苳茉葵(ふきまあおい)の家族。

 宇月が満面の笑顔のママ物販から目を背け、他の観客の方へ向けつつマイクをオフにして「あいつら出禁になってなかったのかよ」と信じられないくらい低い声で呟く。

 それを聞いていたのは宇月の両隣りの後藤と淳だけ。

 もちろん後藤も淳も表情管理は完璧。

 朗らかな笑顔のまま「鏡音くん、なにをもらったの?」と聞いてみると鏡音も柳に向けて「開けてもいいですか?」と聞いて「どうぞどうぞ」という返答にはにかみながら小箱を開けてみる。

 鏡音の貴重すぎるはにかみ笑顔に鏡音ファンから上がる黄色い悲鳴。

 あれ、こっちが思っているよりも、鏡音ファン、めっちゃ多くね?

 

「これは……コンデンサーマイクですね」

「うん! 実況者ってこういうマイクを使うんでしょう? 一応調べて選んだんだけれど、どうかなぁ?」

「ええと……これ、五万円くらいするやつでは……」

「命を助けてもらっているんですから、これでも安いくらいだよぉ!」

「さすがに高額すぎますよ」

「もらってくれないってことぉ!?」

 

 ガーーーン、とショックを受ける柳。

 しかし、鏡音は衣装のポケットから小さい紙袋を取り出し、柳に差し出した。

 

「お誕生日おめでとうございます」

「え、え!?」

 

 鏡音から柳にサプライズ誕生日プレゼント。

 本当に驚いてあわあわしている柳、可愛い。

 客席もステージ上の先輩たちも一年生たちのやりとりにほのぼの。

 また柳が「開けていい?」と聞くので、鏡音は無言で頷く。

 世界の平和が詰まっている、ここ。


「わあ! クリップ! 可愛い!」

「台本を読まれる時に音無先輩が使っているのを見たのですが、もうお持ちでしたらすみません」

「ううん! 使う使う! ありがとう円くん!」


 ガバッと抱き着く柳の背中をポンポンする鏡音。

 ドルオタ、目を閉じて「てぇてぇ……」と呟くしかない。

 これ以上に相応しい言葉がこの世にあるだろうか。

 てぇてぇ。

 先輩たち、ニコニコである。


「はい! というわけで僕、柳響は誕生日! 鏡音円くんは復帰でーす! ライブ頑張るねー!」


 と、嬉しそうな柳がぴょこぴょこジャンプしながらお客さんに宣言。

 ケーキは食べずに舞台袖に下げられ、前奏が開始した。


「それじゃあ、一曲目は定番のあの曲! いっくよぉー!」


 宇月が右手を掲げる。

 お客さんからもサイリウムやうちわが掲げられ、歓声を上げた。

 五月の定期ライブ、開催だ。



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