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お色気研修デート(7)


 さらに、キッズモデルをし始めた妹も劇団に入団したことでよりメリハリもつき、小学校四年生の時に神野栄治に助けられアイドルを知る。

 ミュージカルしか依存先がなかった淳は、アイドルを応援することでミュージカルへの依存をさらに緩和できて中学に上がる頃には真人間になれたと言っても過言ではない。

 いや、真人間の定義にもよるが。

 

「と、いうわけでミュージカルは大好きなんですが、普通の人のように嗜む程度に楽しめる自信もなければ、あの頃のように戻ってしまうのではないかという恐怖心もあり……畏怖の対象でもあるんですよね。再発の恐れを、どうしても感じてしまって」

「そ、それは、なんというか……えっと、それでもミュージカル俳優志望なの?」

「まあ、はい。……やっぱりあの舞台の、熱――は、憧れのままと言いますか……」


 だが、同時にやはり怖いのだ。

 自分がまた当時のような、こっ恥ずかしい人間にラリることになるかもしれないと思うと。

 あれはもう、なんか人として終わってる。

 だが、ミュージカル俳優になるために、そろそろ向き合ってもいい時期なのではないか?

 歌もダンスも殺陣も一定のレベルに放っていると思う。

 演技力についても子役から活動している柳に認められている。

 今後も事務所から演技のお仕事はもらえると思う。

 少なくともネットのBLドラマの続編に出演予定。

 スケジュールも確保済み。


「……む……向き合う時期なのでしょうか……」

「え!? いや、あの、私のせいで君の人生設計が狂うようなら、そんな、無理はしなくてもいいよ!?」

「い、いえ! これは、ドルオタとしてのアイドルへの愛を試されているってことですよね!」

「そんな話だったかなぁ!?」

「俺はアイドルを愛しています! ミュージカル愛には絶対負けないはず!」


 勢いよく振り返り、約十二年ぶりのミュージカル映像に向き直る。

 最近流行りのミュージカル俳優が演じる、新作の数々。

 その棚を数秒眺めてから、くるり、と背を向ける。

 淳の行動に困惑の朝科。


「まずい、観たことない舞台ばっかり……まずい、全部観たい。衣食住すべてを後回しにして廃人になるまで観たい……人間辞める……」

「まずいまずいまずい! 気をしっかり!」

「ふぁ、ふぁ、ファンサ……ファンサしてください、朝科先輩……! 俺にアイドル愛を!」

「お、オッケー!」


 とは言ったものの、朝科、ちょっと考える。

 それからすぐにスイッチを入れたかのように切り替えて、淳の顎を指で持ち上げた。


「他の誰かに目移りするなんて悪い子だね。君の瞳は私だけを写していないとダメだろう? めっ」


 右手で顎を持ち上げ、左手の人差し指で鼻の頭をツンと突く。

 フッ……と淳、一瞬意識を飛ばす。

 が、すぐに、片足で踏ん張る。


「うう……! 顔がいいぃぃぃ……」

「さ、デートの続きをしようね! ……なんかごめんね……」

「い、いえ、大丈夫です! ところでもう少しファンサを続けていただいてもいいでしょうか……なんかまだ体が震えてて……」

「おっけぃ! お店から出てさっきのカフェで一休みしようか! 大丈夫この朝科旭が全力でファンサするよぉ!」


 これはいったいなんの震えなのだろうか?

 それから朝科が低感覚でウインクやら投げキッスやら甘いセリフなどでファンサしてくれる。

 おかげでだんだんとショップの出口に歩くことができた。

 自分でもびっくりしたのだが、気を抜くとミュージカルのDVDやBlu-rayに手を出そうとしていた。

 朝科のファンサを受けながら、朝科に手を引かれながらようやくショップから出て、先程のカフェに入り直す。


「なにか頼む?」

「俺、2.5次元でもいいからミュージカル観に行きたいです……」

「……えーと……あ、それじゃあ鶴城一晴先輩の出ている舞台を観に行ってみない? うちの事務所の星科先輩が同じ2.5次元舞台に出ているんだ。チケットは頼めば買えると思うから」

「いいんですか!? 行きたいです!」


 これ、大丈夫か? と、お互いに思っているのだが、一度あの棚を見たら観に行きたい欲がどえらいことになった。

 朝科がすぐにその場でスマホから先輩にお願いしてチケットを用意してもらう。


「用意するって連絡が返ってきたよ。公演が来月からみたいだけれど、我慢できる?」

「我慢します……! ありがとうございます!」

「ううん。それじゃあ……来月――もう一度デートだね」

「ふぇ……!?」

「それじゃあ来月の第一土曜日。約束」

「……は、はい! よろしくお願いします!」


 差し出された小指に、淳も自分の指を絡める。

 微笑む朝科が「ゆびきりげんまん〜」と約束の歌を口遊む。


「顔がいい」

「ありがとう♡ はい、約束」

「はい」


 すごく真顔で呟いてしまった。

 そして易々と躱される。

 というより、こんなに簡単に躱せるくらい、「顔がいい」は言われ慣れていると言うことなのだろう。

 こんなに顔がよくて色気もあるのに、気さくで優しく、淳のこともここまで連れ帰ってくれて。

 一緒にミュージカルについても理解を示してくれて。


「あ、そうだ。これから一緒にミュージカルを観に行くのだし……私のことは下の名前で呼んでほしいな」

「え? うーん……まあ……それじゃあ……旭先輩」

「先輩だと石動くんとお揃いみたいだから先輩とは呼ばないで」

「ええ? ……うーん……じゃあ……旭さん」

「ふふ。じゃあ私も、淳くん、と呼ぶね」

「あ、はい」


 むしろようやく?

 在学中から「マイスイート!」なんて恥ずかしい呼び方をされていたので、やっと安心してしまった。



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