お色気研修デート(6)
神野栄治、祖父と愛犬マヨ――犬種はブルテリア――と二人と一匹暮らし。
食事は神野が担当しており、愛犬の食事も手作り。
気まぐれで気が強いため猫のようだと例えられる人だが、圧倒的犬派。
犬好きっぷりがバレつつあるので、Blossom人気も手伝ってそろそろ動物番組とかに呼ばれそう。
「それで? 服買うの? 今年の流行カラーパステルイエローだから、こっちにした方がいいんじゃない? ああ、でもお前は金髪だから、ワンポイントにパステルイエロー入ってるこっちの白パーカーと合わせた方がいいと思うよね」
「あ、ありがとうございます」
「ジーくんは髪色オレンジにしたんだからイエロー系だけだと目が疲れるし、印象ウザくなるから緑系入れた方がいいよね。ジーンズ青からダークグリーンのこっちにしな。あと、靴下と合わせるのも流行りだから、同系色の靴下もおすすめ。暑いから靴下はちょっとって時は靴をそっち系の色にするといいかもね。あとこれとこれとこれ。お兄さんが奢ってあげよう」
「ちょっ……! え!? いや、あの……!」
なんかポイポイ店の中の服を集めてきて、そのままレジに持っていく神野。
しかもなんか奢るとか言い出した。
朝科と共に慌てて止めに向かうが、くるり、と振り返った神野の顔がよくて「うぐっ」と目を瞑ってしまう。
顔が美しい。
それでも片目を無理やり開けると――
「流行りを抑えておくのも、人目を引くポイント。ここはお兄ちゃんに甘えるといいよね」
ウインクをかまされて膝をついた。
顔がいい。
「あと、この子たちが今着ているやつも、よろしくね」
「かしこまりました」
「そんな! 私の分は結構です!」
「えー、いいじゃん。オソロで着たらぁ? 男同士の双子コーデ、フツーにアリだと思うけどね?」
「ありがとうございます!」
朝科、手のひら返しが早すぎる。
「そんな……あの……」
「うるさーい。はい、俺、もう帰るからね。君たちも遅くならないうちに帰るんだよ」
「あ、は……はい」
買うだけ買って、紙袋を押しつけてさっさと帰って行った。
その後ろ姿をポカーンと見ていた朝科だが、すぐにはっとして淳の方に手を伸ばす。
「買ってもらってしまったし、このまま次に行こうか」
「い、いえ! さすがに着替えます!」
「あ、そ、そう? じゃあ、私も着替えますね……」
残念そうに着替えて、神野に買ってもらった服が入った紙袋を抱え、次の場所へ。
今度はどこへ行くんですか、と首を傾げて質問すると唇に人差し指を当てた朝科が「すぐそこだよ」とウインク。
(はあ……顔がいい)
それはもう、心底そう思う。
これ、石動とレッスンしている時も綾城とレッスンが同じだった時も毎回思っていたのだが、やはり去年の『トップ4』は全員顔がいい。
桃花鳥が石動のストーカーをやるくらい、「あの人顔がいいだろう!」と叫ぶ理由がよくわかる。
去年の『トップ4』本当に顔がいい。
あと、色気もあるし性格もいい。
歌もダンスも教養もあって、完璧か?
スン……と目を伏せて噛み締める。
「ほら、ここだよ」
「え? ……あれ、ここは……」
CDショップ。
今は廃れてCDだけではやっていけないので、主にMVのDVDやBlu-ray、文房具やゲームソフトなども販売されている。
そりゃあ淳もドルオタとしてMVのBlu-rayなどを購入することもあるが、それはだいたいネット通販。
ショップに入ったのは初めてだ。
「なんか、こういうところ初めて来ました」
「そうなんだよね。書店もそうなのだけれど、こういうCDショップもお客さんがどんどん減っていく。私はこういう場所で出会う音楽が好きなのだけれどね」
そう言って、店内に招かれて音楽を視聴できる場所に連れていかれる。
へえ、ショップの中って音楽視聴ができるんだ?
ヘッドフォンをつけられ、流行曲の説明を受けた。
視聴スペースのヘッドフォンの脇には売り上げランキングとPOPが出ており、左右に五曲ずつ並ぶ。
一曲ずつ聴いていくと、アイドルの曲しか聴かない淳にはシンガーソングライターやバンドマンの曲は少し新鮮。
なお、一位から三位、五位、七位、九位と十位はBlossom。強い。
「勉強になります……」
「あっちの方にミュージカルのDVDも売っているよ」
「え……!?」
ヘッドフォンを戻して、朝科の指差す方に向かうとそこは宝の山。
だが、目をキュッと閉じて、震えながら背を向ける。
その様子に、朝科が首を傾げた。
てっきり、淳は大喜びで食いつくと思っていたのに。
「おや、ミュージカル俳優志望というから喜ぶと思ったのに嫌だった?」
「い、いえ……あの……好きなんですけど……」
「うん?」
「……俺が劇団に入所したのって、その……コミュニケーション能力を養うためだったんですけど……それはあの……四歳の時にミュージカルにドハマりしたのが原因だったんですよね」
「え? …………んん? どういうことかな?」
淳が演劇の劇団に入所したのは小学校一年生の時。
ミュージカルにハマったのは、世の四歳児が粒あんマンVSこしあんマンやしまくまじろう、機関車デイビッドに夢中になる時期。
幼稚園でも当然、話が合わない。
小学校に入るととのハマ理具合は悪化し、友人ができないのは当然として日常生活にも影響を及ぼし始めた。
「――踊って、歌っちゃうんですよね、日常会話で」
「…………なるほど……逆矯正みたいな意味で、劇団に……」
「はい」
ハマりすぎた結果、小学校の授業でも休み時間でも下登校でも家の中でも歌って踊って日常会話も仰々しいことになった。
将来を案じた両親が、普通のコミュニケーションを学ばせるために劇団に入れたのだ。
歌や踊りなしでの会話が恥ずかしい、という逆人見知り現象とでとでもいえばいいのか……そんなわけのわからない症状を発症し、ここで矯正しないとまずい、と悟った故の処置。
しかも実際に劇団で演技やコミュニケーションを学び、日常会話が普通にできるようになり、演技は劇団でやる――という時間の切り替え方法も身に着けることができた。






