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お色気研修デート(3)

「ではそろそろ行こうか」

「はい、そうですね。楽しみだな~」

 

 シンプルに混んでいるのと、予約の終了時間だったこと。

 店員さんに「ご馳走様でした~」と声をかけてカフェを出る。

 美味しかったかと言われると「普通」としか言いようもない味だった。

 なんなら自分で作っても同じかそれ以上のパンケーキを作れる自信があるけれど、人に作ってもらったものに「ご馳走様」を言うのは当然だろう。

 人目もあるので少しでも好感度を上げていくのは必要だ。

 朝科は自分の顔や身分を隠すつもりはまったくないようなので。

 

「あれ~? 旭ちゃんじゃん。今日デートって言ってなかった?」

「げっ……!? あ、いや。お、お疲れ様です、小野口先輩」

「……!?」

 

 カフェを出てすぐに、朝科よりも長身のイケメンに声をかけられた。

 紺色の髪と紺青色の瞳。

 ヘアピンで前髪を止めたウルフカットの、ワイルドな装い。

 スマホを片手にウインクまでして「へー、その子がデート相手? 可愛い……いや、どっちかというとかっこいい系?」とかなりノリの軽い感じの人。

 だが間違いなくイケメン。

 凝視してしまうレベルのイケメン。

 これは朝科といい勝負なイケメンだ。

 しかしどこかで見たことのあるような……?


「あっ!」


 この髪の色、瞳の色。

 そして時折出る流し目と素敵な笑み。

 間違いない、この男、『CRYWN(クラウン)』の鳴海(なりうみ)ケイトだ。


(え……え!? ふ、普段の鳴海ケイトってこんななのぉ!?)

 

 同じくCRYWNの可愛い担当岡山リントが秋野直という漢なのは有名だが、他のメンバーも公私でかなり性格が異なるらしいという話は有名だが――


「小野口先輩はカフェに来たんですか?」

「そう。社長にパンケーキ食べたいって言われたから予約して取りにきたの。ねー、もー、ありえなくなーい? 俺一応稼ぎ頭の一人よー? こんなパシリなことさせるー? っていうか旭くんがいるなら俺が来なくてもよかったんじゃなーい? いやー、別にデートの邪魔しようとは思わないんだけどさーぁ? まあ、予約すれば買えるってことがわかったから、今度推しの子へのお土産にしたら好感度アップできそう~とか思うけどさー」

「えっと……小野口先輩……自分、そろそろ劇場の方に向かいたいのですが……」

「あ、そーだねー。ごめんごめーん。彼女くん? も、余計なこと言ってごめーんね⭐︎」

「い、いえ。別に俺は旭先輩の彼女でも彼氏でもないので」

「…………」

「あ。……ごめーんねー」


 てへぺろ、と成人男性がするにはしんどい笑顔もさらりとやってのける。

 ちゃんとウィンクもつけて、まさかあの毒舌クール系ドS眼鏡の『鳴海ケイト』の中身がこんなに茶目っけたっぷりの人だったとは。


(本当に真逆……なんだ)


 噂ではCRYWNのメンバーの性格は表に出ている時と常に真逆、と聞いていた。

 非常に冷淡でクールな鳴海ケイトのプライベートがこんなにお茶目なちゃらんぽらん系とは。

 本当に意外だ。

 いや、これはこれで格好いいけれど。

 

「行こうか、淳くん」

「はい。えっと、失礼します」

「うん。またね(・・・)


 思わず振り返る。

 また、会うことを前提の言葉。


「夏の陣で会うからね。淳くんのことはちゃんと覚えてるんだよ、あの人」

「え……!? な、鳴海ケイト様に……認知されてるんですか!? 俺……!」

「されてるよ~。去年二回も出場したからね。あの人、身内以外の他人にはびっくりするほど興味がないんだけれど、記憶力が飛び抜けていい人だから興味ないことも割と覚えているらしい」


 ごくり、と生唾を飲み込む。

 確かに目立つような順位を取ったことはあるけれど、天下無敵のCRYWNのメンバーに顔と名前を覚えられているのはかなり、ドルオタの心にくるものがある。

 なにしろ“アイドルグループ”という存在のパイオニア。

 これまでの“個人アイドル”を一掃することになった伝説のアイドル。

 そんなアイドルの一人に認知されているという恐怖。


「き、緊張しますね。今年の夏の陣」

「ね。今年の夏の陣は例年に比べて特に“熱い”よね」


 海外からの取材や、放送局の拡大。

 注目度が一番高まっている。

 アイドル業界の変革。

 おそらくBlossom(ブロッサム)が殿堂入りすることで新たな世代に受け継がれることになる。

 CRYWNの次の“頂点”の誕生に、日本が浮き足立っているのだ。

 もしもBlossom(ブロッサム)が次の“頂点”になったら、アイドルは間違いなく次のステージに昇る。

 アイドルであり、パフォーマーであり、シンガーソングライターであり、ダンサーでもある。

 そんな存在。

 しかし根っこの部分――人々の偶像であることは変わらない。

 同時に長く最前線を駆け抜け続けたCRYWNが、一歩下がることにもなる。

 アイドルの世界が、世代交代するのだ。


「小野口さん……えっと、鳴海ケイトは嫌がってないんですかね? その……世代交代というか……新しい“殿堂入り”になるアイドルグループの誕生が」

「あの人は気にしてないだろうね。未だに“アイドルはバイト”とか言っていたから」

「え……ええ……!?」

「他のメンバーも鳴海先輩のことはそんな感じで扱っているんだよ。もうあの人たちはあの人たちで、次のステージに上がろうとしている。だから、悲しいことは多分、なんにもないのだと思う」


 下からの突き上げ。

 次世代へのバトンタッチも彼らにとっては次のステージへのステップにすぎない、と。


「ファンとしては応援しなきゃなって思っているよ」

「なるほど。そうですね。また新しいことにチャレンジしていくCRYWN、見て見たいです!」



 


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― 新着の感想 ―
こちらの話、363話 観劇デート?(3) が丸ごとそのまま入ってしまっているようです。
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