予定ミチミチ(1)
「先輩先輩先輩ー! 大変ですよー!」
「うんうん、大変なことになったねぇ」
翌週月曜日、一限目前の二年A組の教室に飛び込んできたのは柳響。
二年A組の生徒が全員入り口を見てしまう勢い。
呼ばれた“先輩”は当然淳。
失礼します、の挨拶もなくズカズカと淳の机にしがみつく。
「二期決定だそうですよ! 来週から撮影開始とか……決まるの早すぎますよ! スケジュールが急遽大爆発です! ああ、もおおお! 先輩もですよね!?」
「そうだねぇ」
よしよし、と頭を撫でて宥めてやるが、柳のスケジュールは共有されているのでこれに撮影期間が入ると思うと未成年がやっていい仕事量ではなくなる。
マネージャーが怒って「調整は任せろ」と意気込んでくれているそうだが……。
「なになになんの話し?」
「ああ、ほら、去年BLドラマのオーディションを受けたでしょう? で、そのBLドラマ、ネット限定の配信だったんだけれどじわじわ人気が広がって、『ジャパニーズ・ブッシュ・ウォーブラー』CEO、鶯谷羽奏さんが『観てる』とSNSアカウントで呟いたことで一気に過熱した感じ? で、試験的に深夜に再放送という形で地上波で流したらますます盛り上がっちゃって、急遽二期決定。テーマソングも星光騎士団に依頼したいって」
「え、星光騎士団がテーマソング? 前は断られたじゃん」
「前は俺が無茶振りをしたからね。でも今回は最初から星光騎士団に依頼したいって打診をもらったの。まあ、今学院側で査定中だけどね」
クラスで話す内容ではないのだが、柳がスマホをぽちぽちマネージャーに返信しながらまだくだを巻いている。
当然それを聞いていたクラスメイトは興味津々。
申し訳ないがまだ決定ではない、と魁星に言い聞かせるように周知もしておく。
「でもジュンジュンも出演決定なの?」
「そうだね、最終回に出てたから。二期があればよろしくお願いします、とは言われていたから、俺もスケジュールを調整しなきゃいけない……かなぁ……」
「え……!? 今の時点でかなりスケジュールミチミチだよね……!? え……!?」
魁星に二回も驚かれた。
そう、淳も柳もかなりミチミチ。
淳の場合、事務所の方は来年のために十二曲覚えて完璧に仕上げなければならないので一ヶ月一曲ノルマがある。
それプラス、星光騎士団の新曲一曲と、個人曲。
星光騎士団の仕事もそれなりに入っている。
レッスンの日程を調整することは可能なのだが、正直不安だ。
「学校休むしかないか……」
「淳は勉強もできますし、仕事理由での休みは通りそうですよね」
「俺はね」
と、淳が眉をハの字に下げた。
その瞬間、魁星と周が「「あ」」と口に手を当ててちらり、と柳を見下ろす。
その視線に周囲のクラスメイトも――察した。
「うっ、うっ……中間テストあるのに……」
「そうだね……でも、撮影の隙間に勉強を教えてあげるから」
「うわーーーん! 音無せんぱーーーい! 大好きぃーーー!」
ぎゃわー、と泣き出す柳。
これは淳も勉強に身を入れなければならないな、と渋い表情。
自分の勉強だけでも大変なのに、体も健康に保ちつつ後輩の面倒も見つつ自分のレッスンもやらねばならない。
「はあ……」
「柳くんのスケジュール……学校はちゃんと通うのですね?」
「え? はい」
「では、休み時間に鏡音くんと一緒に自習室に来なさい。自分が勉強を教えます。そうすれば淳の時間を無理に消費させることもないでしょう」
「えッ」
ガバッと顔を上げる淳。
その目は神を見るように輝いている。
逆に柳の絶望に滲んだ表情。
淳よりも優しく微笑む周にクラスメイトまでゾクッと背筋を震わせた。
「期末テストまで二年生たちにも勉強を教えるので、柳くんと鏡音くんに教えるのは苦ではないので、頼ってくださいね」
「は……あ、は……はい」
有無を合わせぬ空気。
その笑顔の質が完全に宇月のそれ。
魁星が小声で「そこ似ちゃったの……」と呟く程度にはそっくり。
こうして朝の騒動は穏やかに? 終わった――。
が、午後。
「でっかいお仕事の依頼が来たよぉ〜」
練習棟に集まって早々、宇月に呼び出されてブリーフィングルームに呼ばれる。
その第一声に全員目を見開く。
「大きな仕事、というと、BLドラマのテーマソングとかではなく?」
「違うよぉ〜。それも先生から依頼が来てて、うちで受けることで凛咲先生がやる気になっちゃってるけど、それとは別件。ちょっと初めてのことで僕もびっくりしちゃった〜」
「というと?」
周が続きを促す。
宇月が『でっかいお仕事』というだけあるのがくるとは思うが、果たしてどんな?
「今秋に行われるジャポニーズゲームショーとeスポーツ世界大会、前夜祭及び開会式の出演! 誰でも知ってる天下無敵のアイドルグループCRYWNフルメンバーとBlossom、applause、俳優歌手の江花陽翔や人気声優、蔵梨柚子様、夕凪マドリなど決まっているだけでも絢爛豪華すぎ。世界大会で、マジで世界中からゲーム関係者が集まるゲームの祭典。推定参加人数期間中だけで50万人は確実と言われる、日本を代表する大規模イベントだよ。これに関してはドカてんの方が詳しそうだけど……」
と、宇月が鏡音の方に顔を向ける。
淳たちもその視線を追うように鏡音を見た。
すると鏡音は無表情のまま硬直している。
柳が鏡音の前で手を振るが、無反応。






