表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/442

お披露目ライブ(2)

 

「魁ちゃんは?」

 

 うんうん、と頷いて花崗が魁星に話を振る。

 振られた魁星はビクウッと肩を跳ねさせてからあたふた、としてから淳が背中を撫でてあげてようやく落ち着く。

 

「あ、えーと、ライブをやった感想っすか?」

「そうそう」

「めっっっっっちゃ! 緊張しました! 今も緊張してるっす!」

「あー、だよねぇー。でもちゃんと歌詞も間違えずに歌い切ったね」

「ほんとっすか? なんか途中から意識飛んでて、ちゃんと歌えてたか自信なかったんっすけど……」

 

 なんて話を少ししてから、次に周に感想が求められた。

 周は一応、魁星がインタビューを受けている間に考えをまとめておいたらしく、花崗に「周ちゃんは?」と聞かれてすぐに「同じく緊張しました」と力なく笑う。

 

「ですが、ようやくスタートラインに立てた気がします。今日の経験を糧に、より精進しなければと。先輩方に比べてどれほど実力が不足しているのかを痛感しました。自分は淳のように星光騎士団に入りたくて入ったというより、打算的に古参大手の星光騎士団なら将来的に益になると思って入団を希望しましたから、人一倍努力しなければいけませんね」

「お、素直やなぁ~。言うてウチのグループ、打算で入って続けていけるようなやわいグループやあらへんよ?」

「それはもう。自分と同じ考えで入団した同級生たちが、一週間で魁星と自分以外抜けていったのを目にしておりますから十分に思い知りました」

「なっはははは! せやろせやろー。これが続くんやで。ほんまに大丈夫かぁ?」

「頑張ります」

「狗央ちんはウチに入って利益になるかも~って思ったみたいだけどぉ、卒業後もアイドルやりたいとか思ってるの?」

 

 花崗と周の話に、宇月が入ってくる。

 そういえば、魁星はこの歳で自立して生活をしたくて東雲学院芸能科に入学した――と言っていたが周はどうしてここにいるのだろうか。

 聞いたことがない。

 なにか目標や、夢があってのことなのか。

 

「――親から自立したい、からですかね。なんでもかんでも親の力やお金に頼って生きていくのが嫌でした。自分の親は過干渉で、しかも面倒なぐらい地位も金もあるんです。芸能界にも顔が利くし、親の名前を言えば多分、知っている方がいると思いますよ」

「え? 二世ってことなん?」

「はい。だから親の名前を使わず、“狗央周”個人としてのし上がっていきたいと思っているのです。ここで挫折したら、親の首輪の中に戻ることになります。それだけは絶対に嫌なのです。これは――自分の成長と自立への第一歩。意地なのです。アイドルを続けるのか、他の仕事をしたいと思うかどうかはまだわからないですが……少なくとも自分は自分らしく生きる時間がどうしても欲しかった。まあ、つまり反抗期ですね。子どもじみた理由なのは重々承知ですが、そんな狗央周をぜひとも、皆様に応援していただきたい。その応援に応えられるように、狗央周は全身全霊、粉骨砕身で挑み応えていく所存です」

「ほあーーー。なるほどなぁ」

 

 意外な理由に淳も魁星も目を丸くした。

 確かに客観的に見れば子どもじみた反抗期かもしれないが、洗礼の一週間を生き抜いた身としてはその覚悟は本物だとわかる。

 彼には彼の、譲れないものがそこにあるのだ。

 

「ってことは周ちゃんって芸名なん?」

「はい。本名は内緒です。言うと親バレするので」

「ご両親にはちゃんと許可もらって活動してるんだよねぇ?」

「それはもちろん。手出し口出し無用の干渉不可と約束してもらっています。家賃、入学費と学費も借用書を作って、卒業後に親に返金していく所存」

「「うわぁ……」」

 

 徹底的に親から自立しようとしているらしい。

 親との確執がある、という点では魁星と同じだが、ベクトルがこうも違うとは。

 

「とりあえず部屋に帰ったら小型カメラや盗聴器の捜索をする日々から解放されたいんですよね」

「え? 嘘やろ?」

「じょ、冗談だよねぇ?」

「冗談じゃないんですよねこれが」

「「ひえ……」」

 

 過干渉の方向も斜め上で、全員引いた。

 というか、それは言っていいやつなのか?

 

「世の親御さんには我が子への過干渉は本当にやめていただきたい! 干渉しすぎて嫌われますよ!」

 

 という叫びにパソコンに流れるコメントが『うせやろ』『ヤバすぎわろえない』『頑張って』『めっちゃ応援するよ』『生きて』『親なので気をつけます』というものになっていく。

 ネタかガチか判断がつかないが、周の目は本気だった。

 

「いっぱいありますよ、親の過干渉エピソード! さすがにドン引きされるので言いませんけど!」

「そうしてほしいなぁ! 放送しちゃいけないやつとか中にはありそうぉ! ちょっと配信終わったら先輩たちとエピソードの分別しよっかぁ、狗央ちん!」

「はい、よろしくお願いします!」

 

 配信後も地獄が確定したように見えた。

 

「いやぁ~、今年の新人もキャラ濃いなぁ! ってなわけで、ウチの新人三人、音無淳ちゃん、花房魁星ちゃん、狗央周ちゃんをみなはんどうぞ贔屓したったってなぁ~」

「それじゃあ最後は今後の活動に関するお知らせだよぉ~。さっきも言ったけど明日、五月一日から第二部隊隊長の後藤琥太郎が僕らのいる第一部隊に昇格しまーす。活動内容が大きく変わるから、こたちゃんファンの人は個人SNSのチェックを忘れないでねぇ?」

「次にライブのお知らせや。五月四日、四方峰町ショッピングモール、中央広場で朝十時から東西芸能科新入生対抗ライブオーディションが開催されるで。今紹介したウチの新人三人も『星光騎士団』として出演するけ、応援に来てくれると嬉しいで」

「「「よろしくお願いします!」」」

 

 打ち合わせはしていなかったが、三人の声が重なる。

 自分たちの出番なので、自然に声が出た。

 顔を見合わせて、笑い合う。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【宣伝】
『不遇王子が冷酷復讐者の手を掴むまで』(BL、電子書籍)
5cl9kxv8hyj9brwwgc1lm2bv6p53_zyp_m8_ve_81rb.jpg
詳しくはヴィオラ文庫HPまで

『国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!』アンダルシュノベルズ様より発売中!
g8xe22irf6aa55l2h5r0gd492845_cp2_ku_ur_l5yq.jpg
詳しくはホームページへ。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ