二年生たちの個人曲
「個人曲かぁ……」
「どうする? 聴いた?」
「仮歌も入っていませんでしたよね。……正直まったくどう歌えばいいのか……」
「「それな」」
翌日、教室でお通夜みたいな空気を醸し出す星光騎士団二年生三名。
あまりにも暗い空気に誰も話しかけられない。
魁星は頭を抱え、どんよりとした表情のままスマホに入れた自分の個人曲をイヤホンで聴きながらまた「どうしよう……」と呟く。
スマホに歌詞も入れてある。
なお、歌詞については個人曲なのである程度自分の歌いやすいよう、自分自身を表すよう、ガンガン変更するように、という無茶苦茶なお達しまであった。
そりゃあ三人とも頭を抱えるし、宇月が「難しいよ、個人曲」と遠い目をしていたのもよくわかる。
というか、現在進行形でわかりすぎて三人とも空気がお通夜。
「俺今週、ネット番組のトークショーと有名Vtuberさんとのゲームコラボと雑誌の取材と撮影あるんだけど」
「自分も全国テストと声優イベントトークショーゲストと地下アイドルライブのゲストとショッピングモールのトークイベントゲストの仕事が……」
「俺も声優オーディションとレッスン詰まってる……」
なお、この声優オーディション、春日芸能事務所からの紹介。
東雲学院芸能科に相談、OK済。
今回はアプリゲーム。
『SBO』を作った紫電株式会社が製作した、新作ゲームでなんと乙女ゲームらしい。
女性オタクは男性のオタクより財布の紐がゆるく、それはもう推しへの愛イコール金、が流れるように使ってくれるから。
しかし、その分女性をターゲットにした乙女ゲームは凄まじい数がリリースされ、消えていく。
ある意味、賭けだ。
紫電株式会社が打ち出したその乙女ゲームは春日芸能事務所の繋がりから声をかけ、淳の他に望月月、神野栄治、鶴城一晴、綾城珀、甘夏拳志郎、石動上総、松竹梅春が参加予定。
つまり、オーディションとは名ばかりのほぼ確定。
淳も一応メインキャラクターを務めることになっている。
なぜなら演技経験があるから。
むしろ目玉のメインキャラクターは演技経験者で固められ、演技未経験にその他のキャラクターを当てがい演技の経験をさせよう、という感じだ。
しかも春日芸能事務所の方と提携している紫電株式会社作品なので、春日芸能事務所内のタレントでキャストを固めてもどこかから文句を言われることもない、という。
他社からのお仕事が回ってこないなら、自社で仕事を作って持ってくる。
春日芸能事務所、それが強い。
しかも淳がやりたいミュージカル俳優に繋がりやすいよう、声を使った演技のお仕事だ。
ゲームの内容は『アナスタシア』という歴史上に名前のある女性――かつてロシアを治めたロマノフ王朝最後の皇帝、ニコライ二世の娘――に、転生? した現代人がヒロイン。
歴史通りに世界大戦とそれに続くロシア革命で家族と共に無惨に殺害される運命に抗うため、魅力的なヒーローたちとともに歴史を変えるために行動して絆を深めていく、という内容。
ただ、あくまでも『かつてのロマノフ王朝に酷似した異世界』で『かつての皇帝ニコライ二世の娘、アナスタシアと同じ名前の娘に転生』という設定。
史実にあった地名、人名、歴史と同じ異世界、らしい。
エンディングは各キャラクターごとと、選択肢により複数用意してある。
たとえば相手となるヒーローがヒロインの代わりに虐殺されたり、家族を見捨ててヒーローと逃げ延びたり、別の攻略対象の好感度を蔑ろにして裏切りに遭ってヒーロー同士が殺し合いに発展したり、だという。
『かつてのロマノフ王朝に酷似した異世界』なので、史実に名前のないヒーローが、ヒロイン『アナスタシア』の命運を握る。
ある意味、どうしたらロマノフ王朝が消滅しなかったか、のシミュレーションゲームのような側面もあるため歴史の勉強にもなって面白そうだ。
声優の仕事も面白そうでやってみたいと思っていた淳にはとてもいい経験になりそう。
(それはそれとして自分の専用曲……どう歌えば……)
現実逃避で自分の仕事に思いを馳せていたものの、スマホには歌詞が表示されている。
誰が考えてくれたのか、自分には大層すぎる内容。
だが、宇月からは「他人から見た自分の評価と、自分の経歴から想像した自分の気持ちなんだよねー。だから自分が思っていることに書き換えていかなきゃいけないんだけど、あんまりネガティブな言葉も入れられないからマジで塩梅というか……匙加減が……ね」と言葉を濁された。
全員「確かに……!」と眉を寄せて苦虫を噛み潰したとも。
魁星と周は家族のことをあまり言及して歌詞に入れたくはないので、もっと難しかろう。
「これ、夏の陣に間に合うと思います?」
「「無理でしょ」」
「ですよね……」
「でも、一応今日収録室借りて自分で歌詞の通りに仮歌録ってみようよ。で、違和感のあるところを削ったり足したりしていこう。ある程度まとまったと感じたら、妥協するって感じで。聴いた人に自分というものを表面上だけでも理解してもらい、自分のイメージを伝えて自分というアイドルを知れて嬉しい、っていう気持ちになってもらえたらせいかいってことで」
「それはアイドルオタクとしての意見も含まれていますか?」
「うん」
こくり、と頷く淳に、周が「なるほど」と小さく頷く。
専用曲とはそういうものだと淳は思う。
歴代星光騎士団メンバーの専用曲を聴いていたオタク側としては、専用曲とはそのアイドルを表す曲だ。
その曲を聴くことで、そのアイドルを知ることができる、とオタク愛故の相手を知りたい、という気持ちを満たすことができる。
多分、自分たちを好きだと言ってくれるファンや自分たちに興味を持ってくれている層へ、そういうものが求められていると思う。
少なくとも淳はそう捉えて悶絶していた。
「参考になる。やってみよう」
「お、俺も。確かに仮歌自分で歌ってみればなにか掴めるかも」
「うん。頑張ろう。……夏の陣には、間に合わない気がするけれど」
「「それはそう」」
夏の陣に初お披露目は、早々に諦めた。






