お披露目ライブ(1)
そして、四月三十日のお披露目は記憶が飛ぶような緊張の中無事に終わる。
大きな失敗もトラブルもなく、淳もMC中、しっかりと「声変り中で歌は歌えませんが」とダンスのみだったことを弁明し、東雲学院芸能科ファンに理解してもらった。
さすがに東雲学院芸能科ファンはそういうことも”わかっている”人ばかり。
むしろ、そういう事情の生徒が成長していくのを見るために来ていると言っても過言ではない。
驚くほどニッコニッコだった。
『宇月美桜誕生日月お祝いケーキ』も一瞬で完売。
一人一個だったにもかかわらず、本当に瞬殺だった。
(わかる。俺も去年”そっち”だったから……!)
星光騎士団のメンバー手作りスイーツは、その貴重性もさることながら普通にお店で買ったような見た目と味で人気が高い。
生ものなので転売も難しく、立ちっぱなしで各所のライブステージを巡ったお客さんは星光騎士団のスイーツと休憩スペースで出される”執事部”や”貴族部”提供の美味しいお茶で人心地つくのが最高の贅沢。
ライブステージは野外、校庭に二つ。講堂に一つ。体育館に一つ。
校舎には入れないものの、各所ライブステージに行く道筋には部活動の物販や広い場所には屋台、休憩スペースがあり、一通り新入生が加入してお披露目ライブが終わり空いたステージには飛び込みで二、三年のライブが勝手に開催される。
ステージは早い者勝ち。
星光騎士団は講堂ステージで行われ、そのあとは別のグループの新加入メンバーお披露目ライブが行われた。
改めて考えると、毎月こんなイベントを行う東雲学院芸能科の資金源と労力がすごい。
しかしここでの売り上げがグループや部活の活動費になり、公的な仕事に繋がればアイドルのお給料に反映されるのだから手は抜けない。
もっとも、淳に歌唱のお仕事は当分来ないだろうけれど。
「ほらほら、一年ども! ライブが終わったからって気ぃ抜かないでよね! ワイチューブの生配信始めるよ!」
「「「うええ!?」」」
「アフターサービスもアイドルの仕事やで~。お家に帰るまでアイドルや!」
花崗に肩を組まれ、パソコンに繋いだカメラを起動される。
汗だくの淳たちは、無理やり笑顔を作った。
控室に来ても心は休まらない。
花崗の言う通り、お家に帰るまでがアイドルなのだ。
(そういえば俺もライブ後の配信観てた~~~!)
アーカイブも残るし、興奮冷めやらぬアイドルのライブ感想を楽しく観ていた記憶がある。
緊張から解放され、疲労が色濃く残る今も、ファンへのサービス配信。
これは想定していなかった。
行う方はこんなにしんどかったとは。
「ちょりすちょりーーーす! 星光騎士団三年花崗ひまりくんやでー!」
「はよみお~。同じく星光騎士団二年の宇月美桜だよ! 今日、現地に来てくれた人、ありがとう! アーカイブで観ている人もありがとう~!」
「うんうん! 改めて、みーちゃんお誕生日おめでとう~!」
「えへへへへ~! ひま先輩、ありがとう! 今日来てくれた人はケーキ買えた人いたかな? 今日の物販で販売したケーキも秒で完売したって聞いたよ。フルーツケーキだから今日中にできるだけ早く食べてねぇ?」
誰?
普段の喧嘩腰の二人を見慣れていた淳たちは一瞬宇宙猫になった。
しかし、淳がすぐに意識を取り戻す。
そうだ、星光騎士団の花崗ひまりと宇月美桜はこういう”キャラ”だった。
去年から見ていた二人を思い出して、淳は引き攣った表情を営業用の笑顔に戻す。
これがアイドルなのだ。
プロ意識の差を、思い知らされた。
「さーて、そいじゃあさっきお披露目が終わった星光騎士団の新人三人を改めて紹介するで!」
花崗がカメラを三人に向ける。
ハッとした淳が笑顔を浮かべたまま「配信をご覧の皆様、初めまして! 音無淳です!」と自己紹介をした。
ちら、と周と魁星の方をうかがうと二人はまだ放心状態。
疲れも相まって、まだぼんやりしていて自己紹介をする余裕は、なさそうだ。
「そして、右から花房魁星と、狗央周です。二人とも俺と同じクラスなんですよ~」
「はっ! 初めまして! 花房魁星だぜ!」
「あ――狗央周です。皆様、お初にお目にかかります」
さすがに時間も経って、淳が紹介を代弁したことで意識が戻ったらしい。
すぐに笑顔を浮かべてカメラに向かって手を振るう。
「実は明日からこーちゃんが第一部隊に昇格しまーす。で、第二部隊はこの三人にお任せすることになってるんやで」
「第二部隊隊長は音無くんになるんだよぉ。ね?」
「はい。なんか俺なんかが畏れ多いですけど――全力で務めさせていただきます!」
「淳ちゃんはマージですごいんやでぇ。昨日みーちゃんの誕生日ケーキを作ったんやけど、淳ちゃんは珀ちゃんと同じぐらいの料理スキルやったわ。めっちゃ即戦力!」
「殺陣もできるんだっけ?」
「はい。俺はミュージカル俳優志望なので、小さな頃から板の上には上がってたんですけど嗜む程度で殺陣もできます」
先輩二人の流れるような質問。
あまり考える必要がないので助かる。
「そうなんやなぁ。でもお客さんを前にしたライブは初めてやろ? どやった? 初ライブ」
「緊張しました。俺は今、声変わりのせいで歌が歌えないのでお荷物にしかならないと思うんですけど……こうしてあたたかくグループに迎え入れてくれて、第二部隊の隊長という立場までいただいて……感謝しかありません。先輩やファンの皆様にお返しができるように、できることで頑張らねば、と気が引き締まりました」






