コラボユニット四人目(3)
「苳茉くん、だっけ? えっと、君もサポート?」
「あ、えっと……す、すみません……俺は……その……ええと……」
「苳茉くんは信者候補です」
「信者……こう、え?」
笑顔で答えると、夏山が本日何度目かの宇宙猫顔。
確かに説明が不足していたな、と思って私物のタブレットを取り出し、東雲学院芸能科アイドルについてのプレゼン中なんです、とドヤった。
「えーと、この二人立派なドルオタなんですけど」
「ドルオタなの!? アイドルなのに!?」
「ドルオタですよ、アイドルですけど!」
夏山、アイドルとドルオタがイコールにならないらしい。
東雲学院芸能科の大手以外のグループは、握手会やサイン会などもそれなりに行うのだが、夏山は人の顔と名前を覚えるのが壊滅的にド下手。
アイドルとしては割と残念な部類なのだが、ファンとしては「毎回新鮮な反応してくれて可愛い♡」らしい。
ファン、調教済みすぎる。
「東雲学院芸能科のアイドルのよさも教えたいなって、ここで待っててもらってるんです。SBO内のライブ映像とか、俺もまだ観ていないので一緒に観てどこがすごいとかどこがエモいとかここのパフォーマンスがいいとか、色々語り合いたいじゃないですか」
「わかります〜〜〜! GP優勝戦のColorと花鳥風月の戦い、接戦でしたよね! 身軽な睦秋先輩のダンスと可愛い初春先輩のジャンピングダンス、春オジがトチ狂うのもわかります〜。あの体勢から宙回転する睦秋先輩のジャンプ力も迫力があっていいんですけれど、そこから冬紋先輩と夏山先輩が前へ出て甘い歌声で手を差し出す振付が心が女の子になっちゃうと思いました〜!」
「わっかるーーー! あれホンットキュンキュンしたよねぇー! 睦秋先輩の軽やかダンスも初春先輩の可愛いダンスもキュンキュンしたけど、そのあとさらに冬紋先輩と夏山先輩の高身長イケメンコンビによるパフォーマンスはずるいよね〜! 特にその二秒後の夏山先輩のウインクとかぎゃってなったし、そのあとの一回転しながら客席全体に笑顔を向けてくれた睦秋先輩のパフォーマンスはドルオタがなにを喜ぶのか熟知しているっていうか」
「あれはぎゃーってなりましたよね〜! 睦秋先輩、身長こそ高くないけどあの男らしいパフォーマンスがかっこいいんですよねぇ〜! 突然入ってくるダンススキルの高さとか、衣装からちらっと見える逞しい腹筋とか……」
「冬紋先輩は歌声が甘くってあれはやばいよね〜。去年の魔王軍にはなかったタイプのお色気キャラというか……耳が孕むってこういうことを言うのかなって初めて実感した」
「耳が孕むというのなら、花鳥風月の望月先輩の歌声も甘い系ですよね。それを爽やかな歌声の新座くんと、あの容姿であの低音出る? って感じの桃花鳥先輩の声が聴き心地のいいアンサンブルにしてくれるっていうか。そのアンサンブルが和風の曲調とマッチしてエモくてさいっこーーー! ってテンション爆上がりするよね」
「ですよね!」
「「二人とも、その辺で」」
双子、さすがに止めに入った。
ドルオタが揃うと止まらなくなる。
多分、このあとは花鳥風月語りのターンだったので本当に危なかった。
オタクの語り、ずっと続くよ、いつまでも。
「お待たせ!」
「「ナイスタイミング、芽黒」」
「え? なにが?」
その狙ったようなタイミングで芽黒が入ってきた。
困惑顔のまま鞄を床に下ろしながら近づいてきた芽黒、夏山を見てすぐに姿勢を正す。
「あ、お疲れ様です、夏山先輩!」
「うん、お疲れ様。話聞いた? コラボユニットの」
「はい。スケジュール的に俺は問題ないです」
「宇月先輩からも『とりあえずスケジュール合うならもう何位でもいいよ』っていう投げやりの返信が来ているよ」
「な、投げやりすぎる……」
しかし、実際問題上のメンバーが全員辞退なので、やはり順位通り芽黒しかいない。
芽黒のスケジュールも共有してもらったが、スケジュールは空いていた。
『SAMURAI』の三人で、IG夏の陣に観客として行ってみるつもりだったらしい。
「わかる。俺もIG夏の陣観に行きたい……」
「ぼくも……」
「二人は出演者なんだよなぁ」
心の底から涙を流しながら呟くドルオタたち。
残念ながら出番が終わらないと観客にジョブチェンジできないので仕方ない。
座席は熾烈を極めるチケット競争で取れないが、屋台方面から観るのは無料。
ただし人間は豆粒。
双眼鏡必須だが、会場中にモニターが設置してあるので画面越しなら普通に観られる。
パフォーマンスをモニターで観て、生歌を聴く――という感じだ。
いいな、と淳と千景柄心の底から羨ましそうにするが、芽黒が「いや、コラボユニットに参加するなら俺も行けないんだけど?」というのでハッとした。
「具体的にコラボユニットはどんな仕事をするの? 確か、仕事が決まっているコラボユニットなんだよね?」
「うん、そう。IG夏の陣と日程が被っていて、三大大手グループが受けられなかった仕事を断るよりは限定的なコラボユニットに任せた方が双方幸せでしょってことでね。で、仕事だけど海岸の海開き済みステージで行われるアイドルフェスでのライブ。午前の部、午後の部の二回を三日間。それから中央区の夏祭り八ヶ所のライブ。ショッピングモール内の特設ステージでライブが二日間。西区にあるテーマパークの夏祭りステージでのライブが三日間」
「待って?」
「うん、なぁに?」
小さく挙手する芽黒にスマホを見ていた淳が顔を上げる。
目の前には顔色の悪い芽黒と夏山と双子。
なにもおかしなことを言っていないのだが。
「お、多くない……!?」
「南区の市民プールステージでも午前と午後の二回、二日連続でライブもあるし、東区の自然公園で行われるフリーマーケットの特設ステージでライブもあるよ。このくらいかな。出演料はあるからガッツリ稼げるよ!」
親指を立てるが、芽黒は「そ、そうじゃなくてぇ」と涙目。
しかし芽黒のスケジュールを見るとどこも被っていないのだが?






