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お色気の授業(2)


 その後もポーズ、仕草、表情の管理などを一通り教わるが、石動は「半分ぐらい東雲で教わったことだなぁ」とぼやく。

 ぼやいた石動の頬は神野に引っ張られる。

 生意気を言うからです。

 しかし――


「顔がいい……」

「…………」


 顔がいい石動と、顔がいい神野が並んでいるともうそれだけで国宝級の絶景。

 そろー、とスマホを向ける。


「レッスン室は撮影禁止じゃないけどFrenzy(フレンジー)のメンバー匂わせみたいなことはNGだぞ」

「ぐぅ……そうでした」

「無断撮影はマナーが悪いよねぇ?」

「うう……すみません。いや、もちろん撮影前に一声かけるつもりでしたけれど〜!」

「とりあえずスマホはしまいなさい」

「はい」


 石動と神野に言われてスマホをバッグにしまう。

 ダメかぁ、と若干肩を落とす。

 神野に「じゃあ表情の練習。やってみようね」と手を叩く。


「まず姿勢を正す」

「「うっ」」

「オタクは推しに前のめりになるから姿勢が微妙になりがちだよなぁ」

「「ウゥッ」」


 それはそう。

 石動、オタクの生態に詳しすぎやしないか?


「かと言っても石動も表情ちょっと硬いんだよねぇ。もう少し角度色々つけてみ? 何種類かあるといいよね」

「えっと、こう、とか?」

「そうそう、この角度と、もう少し顎を傾けたバージョン。はい、すぐ戻して少し顎を引いてみて。そうそう。次は少し左に向けてみてよね。そうそう。次は右に傾けて。うんうん。じゃあやや上、やや下、右下、右、右上、左下、左、左上、みたいに連続で」


 拍手でテンポを取りながら、石動に無茶振り。

 それにさらりと答える石動。

 て、天才〜〜〜、と尊敬の眼差しを向ける淳と才能に恐怖して震える松田。


「はい。お手本実践オッケー。次、ジーくん」

「ヒュッ……」


 喉を空気が通る音。

 恐る恐る立ち上がり、すう〜〜〜、と息を吸い込んでから姿勢を正す。

 石動がやった順番と角度を真似して、笑顔を浮かべ鏡にポーズを取っていく。


「うんうん。悪くはないね。姿勢もシャンとすればなにも問題ないしね。なんかこう、まだ成長期って感じ。少年と青年の中間だからこその色気みたいなのがもう少し出せたらいいけど……表情筋も柔らかいし、なんでこんなに色気出ないんだろう? っで感じだよね?」

「ぐっ……」

「滲み出てんだよなぁ、オタク気質が」

「ああ、なるほどね。それ、色気出す時引っ込めてよね」

「は、はい……魔王軍のMVを見ながら研究します」


 魔王軍? と不思議そうな神野。

 石動がスン……と半目になって「二年前くらいから、魔王軍はそういう路線になってますね」と神野に教えてあげた。

 神野が在学中の魔王軍はガラの悪い路線だったし、それが脈々と受け継がれていたのだ。

 そこに『色気』というのを取り入れたのが今年卒業した去年の魔王、朝科旭(あさしなあさひ)

 ふーん、と腰に手を当ててスマホを取り出して早速調べ始める神野。


「去年のIG、夏の陣にも冬の陣にも出てましたよ?」

「他のグループ見ている余裕なかったよね」

「まあ、それはそうか」


 去年のIG夏の陣、冬の陣で独走状態だったBlossom(ブロッサム)も、さすがに対戦相手以外のグループを見ている余裕はなかった模様。

 そして今年の夏の陣、優勝すればBlossom(ブロッサム)は最速で殿堂入りとなる。

 殿堂入りがかかった夏の陣。

 今年のBlossom(ブロッサム)もすごそうで、淳はソワソワ。


「ま、参考になるものがあるのなら参考にすればいいよ。はい、次。……えーと……名前なんだっけ」

「えっと……松竹梅春(しょうちくうめはる)、です」

「梅春ね。はい、ここに立って。やってみて」

「ぐ、ぐ、う、あ、は、はい……」


 ガチガチに緊張した松田がサ、サ、サ、と石動のように角度を変えていく。

 途中で神野がテンポを取っていた拍手を止めて「ストップ」と声をかけた。

 面白いほどビクーッと肩を跳ねさせる松田。


「なにその表情。やる気あんのぉ?」

「ひい! すみません!」

「…………。はあー、仕方ないね」


 直立不動に背筋を正す松田の様子を見て、神野はなにを思ったか「そこに立って」と鏡の前の手摺りを指差す。

 怖がりながらも言う通りに手摺りの前に立つ松田の両脚を挟むように体を密着させる神野。

 石のように固くなる松田と、推しが目の前で太腿を大胆にグループメンバーの脚に擦りつける姿に大口を開けて硬直。

 神野はそのまま口許に笑みを浮かべて、松田の輪郭を指先で撫でながら顔を思い切り近づける。


「えっ、アッアッ……え!?」

「しー。……そんなに固くなって可愛いね。怖がらなくてもいいから、いち、に、さん、で息を吐いてみて。ほら」


 吐息多めの囁きを、耳元で囁かれて目を剥いたまま硬直する松田。

 思わず両手で目を覆いつつ、隙間から推しを見てしまうオタク。

 と、その光景にハア、と息を吐く石動。


「いち、にぃ……さん」

「フ、フゥゥゥゥ……」

「そうそう、ずっごく上手だね」


 くす、と笑みを深める神野。

 が、瞬きすらできなくなっている松田。

 変な汗まで浮かんでいる。

 そんな様子に神野が舌舐めずりするので、松田は蛇に睨まれた蛙のように息もうまくできなくなっているではないか。

 色香の塊のような存在に至近距離で囁かれたら、オタクは誰でもこうなるだろう。

 淳なら二秒後には気絶している自信があるので「梅春さん、すごいなぁ」とさえ思っている。


「じゃあ、今度は吸ってみようか。ね? ゆっくり、鼻でも、口でもいいよ。ほら、ね。ゆっくり…………」

「す、すぅ、すうぅ……」

「うんうん。上手に息できているね。偉い偉い。いい子だね」


 くすくすという笑い声。

 石動の呆れ果てたような表情は、「ただ息吐いて吸っただけで褒められてる」と物語っている。

 しかし、絶世の色香を纏う美青年に吐息多めで耳元で囁かれ、体を密着させられていたら普通気絶すると思う。

 淳なら間違いなく腰砕けになったあと意識がなくなる。

 まだ目をかっ開いて固まっている松田はすごい。

 その松田の腰に、顔の輪郭をなぞっていた指が滑り落ちてきた。

 ひい、と声が漏れる。



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