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優勝のお祝い


「ぐっ……お前の言いたいことはわかった。でも高すぎる! それなら自分の分は自分で出す!」

「だぁめー。奢られる練習だと思いなぁ?」

「さすがに借りがデカすぎる。半額出させろ!」

「だぁめ〜。多すぎるって思う分は星光騎士団(ウチ)の子たちに、色々教えてあげてー。じゃ、そういうわけだからサクサク帰る準備しよぉー」


 宇月が茅原と麻野と後藤を引き連れ、高級レストランに行くことに。

 淳たちも帰りの支度のために練習棟に向かうことにする。

 だが、その前に淳は舞台裏で未だボケー、とする桃花鳥(とき) を振り返った。


桃花鳥(とき) 先輩、大丈夫ですか?」

「あー、大丈夫大丈夫。IG(アイドルグランプリ)に出場っていうのは、俺たちが一年生の時の三年生……万智(まち)先輩が先代リーダーが夢見ていた目標だったんだよ。それを俺たちの代で叶えられることになるなんて思わなかった。今年の夏の陣も予選敗退、って通知が来ていたからさ。棚ぼたというか、なんというか……。もうとにかく……うん……」


 望月もパイプ椅子に座り、目頭を揉み解す。

 こんなに喜ばれるなんて、宇月も罪なことをしたものだ、と淳も目を細めて口許を緩める。


「俺も六年くらい前から東雲芸能科箱推しになっているんで、よくわかります」

「六年……? ええ……? 結構年季入っている年月じゃない……?」

「そうですよ? アレですよね、花鳥風月は星光騎士団、魔王軍、勇士隊に継ぐ歴史あるグループ。今年の夏の陣に花鳥風月が出場できるの、俺個人は順当だと思います。すごく楽しみが増えたといいますか」

「そっか……。うん、そうだな。いや、今年の冬の陣にも出場できるように、来年、新座とその後輩が出場できるように、道を繋いでいかなければならないよな」


 急に真顔になって、自分の頬を叩く望月。

 それにハッと顔を上げた桃花鳥(とき)


「そう、だな。まだうちのグループに新加入生はいないけれど、新加入してくれる子をゲットするためにも…………新曲を作る!」

「「今から!?」」


 立ち上がった桃花鳥(とき) が宣言する。

 現在五月。夏の陣は八月。

 今から作って楽曲収録、歌詞暗記、収録、振付練習、全部まとめて二ヶ月でやるのはなかなかにハード。

 だがIGは初日に新曲をぶつけてくるのは今や常識。


「あれ? 千景くん?」

「ひゅぉ!」


 ふと、桃花鳥(とき) が立ち上がった時に気配を察して右を振り向く。

 するとパイプ椅子置き場の横に隠れていた千景が。

 完全に不審者だが、同じドルオタは察した。


「もしかして、千景くんも花鳥風月にお祝い?」

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」

「大丈夫大丈夫、怖くないよ。おいでおいで〜」


 淳に両手を広げられて、おずおずと近づいてくる千景。

 新座が「野良猫?」と感想を述べる程度には警戒心がすごい。


「あのあの、あの、こ、こんなゴミが申し上げるのは大変生意気に聞こえるかもしれないのですが……あの、ゆ、ゆ、ゆ、優勝おめでとうございますぅ……!」

「ありがとう! ……ん? ゴミ……?」

「(ゴミ……?)ありがとう、御上くん」

「ああ、ありがとう」

「………………っっっ……っ、っ……」

「「「……?」」」


 そろ、そろ、とショルダーバッグからなにかを取り出そうとしてはしまう、を繰り返す千景。

 淳はもう、その時点で察したのだが、千景のことをよく知らない花鳥風月の三人は困惑。

 仕方なく、淳が「千景くんから優勝のお祝いがあるみたいですよ」と促す。


「優勝のお祝い?」

「あ、あ、あ、あ、あ、あの、あの、こ、こ、こ、これ……」

「CD?」


 代表して新座が受け取る。

 その下に紙も挟まっていた。

 紙に書いてあるのは歌詞。


「で、電子で申し訳ないのですが……その……歌詞も……気に入らないところがあれば、か、変えていただいて構わないので、はい」

「曲……!?」

「ず、ずっずっ、っずっと……花鳥風月さんに歌ってほしいと思って……曲を……その……作ったことがあって……あの、そ、それ、よ、よろしければ……あ、こ、こんなゴミ無視野郎の曲が相応しくないのは当たり前なんですけど! でも、その、今から曲を作るのは大変だと思うのでぇ……!」

「千景くんが作ったのなら大丈夫じゃない?」

「でも、あの、作ったのは電子音で、三味線とか、さすがに……あの」

「ありがとう。とりあえず聴いてみてから決めてもいいだろうか?」

「は、はひ、はい! も、もひろん!」


 コクコクと頷く千景。

 淳がその千景の肩に手を置く。


「よかったね。千景くん、東雲芸能科のグループ全部に曲作ってたんでしょ?」

「はい、あの、う、う、歌っているところが見たくて……」

「オタク冥利に尽きるよねぇ」

「は、はい」


 オタク……?

 花鳥風月の三人、この二人が同類とは知らない。


「あ、データファイルもあるので、い、今転送、しても……その、で、できますけれど」

「それは助かる。『イースト・ホーム』から送ってもらえるか?」

「は、はい」


 千景がノートパソコンを取り出し、そこから桃花鳥(とき) のスマホに曲のデータを送る。

 イヤホンをつけた桃花鳥(とき) がそれを聴くと即座に「いいな」と頷く。

 ホッとした千景の表情。

 しかし、実際の楽曲制作となると、花鳥風月の曲は三味線や琴、和太鼓、尺八、琵琶などの和楽器が多く使われる。

 それらを使った楽曲収録は結構な時間がかかってしまう。


「Bメロの、この部分、ここを三味線でやって……」

「おい、咲良。俺たちも聴いてみたいんだけど」

「待て、今考えている」


 楽曲の確認は当たり前だと思うのだけれど、完全に曲構成を考え始める桃花鳥(とき)

 これは完全に“使う”と決めた様子。


「あ……あの、ご、ごめんなさい……」

「え? なにが?」

「せ、星光騎士団も、新曲は用意しているとは、思うのですが、その……」

「うん、だから別に『敵に塩を送った』とか思わないで大丈夫だよ」


 淳が察してそう返すと、「本当?」と言わんばかりの不安げな表情。

 ふと、悪戯心が顔を出す。

 宇月に教えてもらった流し目、唇を少しだけ開いて、その唇に人差し指をあてがう。

 色気、出ているか自信はないけれど。


「うん。負けないよ。勇士隊の御上千景くん」

「…………………………。ふう……」

「ち!? 千景くーーん!?」

「御上くーん!?」


 倒れられた。



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