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庶民派魔王軍


「無事に終わってよかったねぇ。ってことで、コラボユニットのこととかとりあえず後回ーーーし! で! 今日は約束通り高級レストランで打ち上げやるぞぉー!」

「うおー! マジかー!」

「こ、高級レストラン?」

「そぉ! ごたちゃんと茅原と麻野は積極的に今回の企画手伝ってくれたから、無事に成功で終わったら高級レストランのコースをご馳走する約束をしていたのだ! ナッシーたちも行く? 今日はもう予約済みだから無理だけど」

「マジすか!?」


 と、いつも宇月に怯えて距離をとる魁星が、高級レストランと聞いてめちゃくちゃ前のめりになる。

 わかるけれども。


「ナッシー興味なさそうにしてるけど、美味しいものを食べて舌をグレードアップするのも美味しいものを作るのに必要だよぉ?」

「あ、まあ、はい、そうですけど……先月と今月のお小遣いは東雲芸能科の一年生新規グッズに全部注ぎ込んだので、とてもとても……」

「一応お小遣い節制概念あったんだねぇ……」

「どういう意味ですか」


 音無家、一応それなりに裕福な家である自覚はあるが、そりゃあしっかりとお小遣い制である。

 アイドルグッズの場合はレシートを見せれば追加でお小遣いをもらえたりするので、ある意味音無家の経費扱いだけれど。


「でもねぇ、絶対ナッシーは来たいって言うと思うよぉ?」

「え? なんですか?」

「なんとー! 予約したレストラン、『CRYWN(クラウン)』の鳴海(なりうみ)ケイトのお兄さんがやっているレストランなのだー!」

「え、ええええええええ!?」


 鳴海ケイトといえばCRYWN(クラウン)の高身長高学歴超美形低音美声、アイドル業以外にモデル、俳優と来た仕事はなんでもこなす一見完璧超人ドS鬼畜眼鏡の敬語キャラ。

 キャラづけももちろん暴露済みだが、秋野直のようにそれほど中身を前面に押し出す感じではない。

 若干、ドSキャラだけは『ドMキャラ』に訂正されたくらい。

 なお、神野栄治が語っていた『好みの男のタイプ』にドンピシャだが性格の相性がこれでもかというほどに悪く、周囲が『この二人は共演NGで……』としたほどに素の性格はアレな感じだと言われている。

 しかしそれでもやはり日本トップクラスの顔面の良さと言っても過言ではない。

 とにかく綺麗。

 完璧な顔面の配置。作り物のような完璧さ。

 そして声もいい。歌も上手い。高身長、手足も長くてダンスの迫力が違う。

 デビュー当時十五歳、「十五歳の色気じゃない」と評された美貌と色香。

 そんな鳴海ケイトの、兄!


「確かに鳴海ケイトは上に三人お兄さんのいる末っ子。上から九歳差、七歳差、三歳差。一番上のお兄さんが海外で薬学研究者、二番目のお兄さんが料理人、三番目のお兄さんがお巡りさん」

「え……怖……アイドルの身内情報まで知ってたの……」

CRYWN(クラウン)はやっぱり殿堂入りですからね〜。身内情報まで出回っていたのでつい……。いや、もちろん身内の方への凸とか、言いふらしたりはしませんけれどね? え、でも、そのお兄さんのレストラン……つまりは次男さんのレストランってことですか!?」

「そう〜。なんとこの町の南地区の海沿いにこじんまりとしたレストランを経営していたので、予約してみました〜」

「すごい! よく予約が取れましたね!?」


 それはもう、心底びっくりした。

 あのCRYWN(クラウン)の鳴海ケイトのお兄さんのレストランなんて、連日満席なんだと思っていた。が――。


「え? いや、割と普通に予約取れたよ? ディナーだから昼間よりもちょっとお高いけど」

「お、おいくらで……?」

「一人八千円」


 ヒュッと、息を呑む淳と魁星。

 ピースしながらサラッと言ってるけど八千円。

 魁星なんて「え、え、え? え?」と混乱し始めた金額。


「おご、奢りで……? 宇月先輩の……え?」


 魁星、同様しながら茅原や麻野を交互に見てしまう。

 今の話だと茅原と麻野の分を、宇月が奢る、ということのようだが学生が八千円を三人分出すの? と言わんばかり。

 魁星もそれなりにお仕事をもらえるようになっているが、卒業後にセキュリティの高い物件に引っ越すために節約生活をしている。

 それを差し引いても学生には高額すぎるだろう。

 なんなら奢られる側の茅原と麻野まで「は、八千円……!?」と驚いた。


「ちょ、さすがにそれは高額すぎんだろ……! 奢りとは聞いたけどてっきり中央区の焼き肉2980円の食い放題かと……」

「そんな高ぇとこ逆に食いづれぇよ……!」

「あのねぇー、お前ら体育会系なら多分そう言うと思ったからあえて高い店にしたのぉ。アイドルなんだからお高いところの食事マナーくらい身につけておきなぁ? 経験しておけば将来変なスイッチとか入りづらくなるからさぁ」

「なんだよ、変なスイッチって!」


 めちゃくちゃ遠慮し始めた。

 中央区の焼き肉2980円ってあのチェーン店のバイキング形式の、と魁星と淳が思い浮かべていると、宇月が腰に手を当てて深々溜息を吐く。

 彼曰く、仕事終わりに“飲み会”に連れて行かれると、だいたい売れていない層も連れてこられる。

 モデルとしての能力が低いのに、そういう飲みの場で口を上手く使い仕事を得ようとするのだとか。

 宇月や花崗は未成年であることを主張して、食事だけいただきいいところで切り上げて逃走するが、そういう層は飲み会に積極的に参加してレッスンには出ない。

 いい場所で飲むことの多い偉い人との飲み会にばかり回数を重ねていけば、他人のお金でいい場所で飲み食いすることに慣れる。

 能力もお金も持っていないのにも関わらず。


「そういう悪循環に陥りかねないからー、今のうちにある程度高級店に慣れておきなぁ? 卒業して二年間は未成年でお酒の場はスルーできるけど、二十歳になったらそうもいかん、ってひまちゃん先輩も言ってたし〜、連れてってもらったところでお仕事に繋がることもあるにはあるしぃ、でも、他人のお金でそういうお店に慣れるのは自分の能力を伸ばせなくなるから適度に後輩に奢ったりして“いい店”ってのに慣れるべきなの〜。わかったぁ?」

「り、理屈はなんとなくわかったけど……さすがに同級生にその金額出させるのはちょっと……」

「ウッザい。四の五の言わないのぉ! だってお前らこのくらいしないと自分で高級店なんて行こうと思わないでしょぉ!?」


 宇月に言い放たれたことにわかりやすくダメージを受ける体育会系二人。

 それは本当にその通り。

 なんなら最初に茅原が言い出した店、食べ放題2980円。

 それが悪いとは言わないが、そればかりだとよろしくないということ。



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